第二話 -【境の国】-
世界は2つあるらしい。
【生者の国】と【死者の国】だ。
【生者の国】は物質界。【魂】よりも【物質】が力を持つ世界だ。【魂】は肉体に納められ、物質に干渉することが出来る。
それに対して【死者の国】は霊魂界。【物質】が存在せず、【魂】の力、つまり意志の力が直接的な力となる。
【生者の国】で【魂】の納められた肉体が活動限界に達したとき、【魂】は【生者の国】に存在し続けることが出来なくなって【死者の国】へ移動する。
【死者の国】に到達すると、【生者の国】での活動に応じて【再誕期間】が設定される。その期間を満了するまで【死者の国】で過ごすことになるのだ。
【再誕期間】を満了すると、自動的に【生者の国】の無作為に選出された胎児の肉体に格納され、この時80%ほどの確率で記憶が消去される。
こうして半永久的に【魂】が【生者の国】と【死者の国】の間を行き来する仕組みを【完全輪廻機関】と呼ぶのだ。
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浮いている。登っていく。
ふわふわと、この世界から離れていく。
-*+*+対象確認。隔離開始。+*+*-
何かに引っ張られる。何かに引きつけられていく。
「君に面白い【運命】がありますように」
声が聞こえた。
次の瞬間すさまじい衝撃に襲われて―――
【運命】がねじ曲がったような気がした。
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ふと目を覚ますと、目の前には草原が広がっていた。暖かな風に波がたっているように見える。
「ここは……?」
慌てて立ち上がり、バースは自分の記憶を探る。
確か、夕飯を作っていたら白い光が降ってきて―――?
その後の記憶が無い。何か声が聞こえた気がしたけど……?
「やぁ」
背後から声がした。
振り向くと、一人の男が立っていた。
「……誰だ?」
バースが尋ねる。すると、男はニヤリと笑いながら言った。
「僕は――――神さ」
「………………は?」
幻聴かと思ったが男は自信満々に言う。
「僕は神。この世界を管理する者だ。君を【残魂システム】に招待するために来た」
「…………」
この人は頭がおかしいんじゃないだろうか?
面倒だから逃げるか、とバースが決断するまで1秒。
「あ、今忙しいんで失礼します~」
バース は にげだした!
「まだ話の途中だよ~?」
しかし まわりこまれて しまった!
「!?」
バースは驚く。なぜなら、自称神さんはいきなり目の前に現れたからだ。
【瞬間移動】系の【才能】持ちか?
と、バースは推測する。
「逃げ出さないようにこうしておくか~」
「なっ!?」
地面から鎖が伸びてきて足に絡みついた。
足を動かそうとしてみたが、がっちりと固定されているせいで動けない。
「まったく、せっかく神様が前にいるのに崇めもしないなんて……」
「いつから神様のフットワークがこんなに軽くなった」
「今でしょ!」
「やかましいわ!いきなり人を拘束する神様がいるか!!」
すると自称神さんは少し考えてから言った。
「うーん……。あ、そうだ。【才能】カードを呼び出してみてよ!」
「…………?」
言われたとおりに右手を振り、【才能】カードを呼び出す。
「なっ!?」
【生者の力】と書かれた能力名の隣に緑色のアイコンが点灯していた。
これが意味することは――――
「――――能力発動可能……?」
つまり、ここは【死者の国】ということだ。しかし【才能】は生きているときじゃないと使えないはずじゃ…………?
「違う違う。もっと下だよ」
「…………?」
この下?
この下には【乱数能力】しかないはずだが……。
「!?」
スクロールしていくとそれは見つかった。
A.【死者の力】
ランクSS Lv.1(Max5) 任意発動
冷却時間:0秒
効果
Lv.1
【生者の国】でのみ発動可能。
対象の時間を30分単位で1週間まで巻き戻す。(3回まで)(回数制限の最大数はスキルレベルによって変動)
回数制限は世界を移動したとき全回復する。
「…………はぁ!?」
相変わらず使えない能力だったが、意味の分からないことが2つある。
1つ目は3番目の【才能】ではなくAと表示されていること。これは、肉体としての【才能】ではなく、【魂】としての【才能】だということ。つまり、この【才能】は【死者の国】で使える能力だということである。
そして2つ目は名前の隣にやはり発動可能のアイコンが点灯しているということだ。これが意味するのは―――。
「―――そう。ここは【生者の国】でもあり、【死者の国】でもある。【境の国】と呼ばれる場所さ。」
「なっ……!?」
ますます意味が分からなくなってくる。
この能力は一体どういうことだ?
今、目の前にいる男は何者だ?
そして――
「――俺をここに呼んだ目的は?」
「そんなの簡単さ。駒が欲しいんだよ、僕は」
「駒……?」
「そう、駒だ。世界を思い通りに動かせる駒が欲しいのさ。【神】と言っても意外と不便なんだよ。世界に干渉しすぎちゃいけないってね。だから神託とかをやるんだけどぶっちゃけほとんど効果ないワケ。だから依頼をサクッとこなしてくれる便利な駒が欲しいんだよ。その代わり、報酬ははずむよ」
「……」
確かに、とバースは考える。
間違ってはいないのだ。
「もっと詳しい話を教えてくれ。【残魂システム】ってなんだ?」
判断のためにもっと情報が欲しかった。
「【残魂システム】。ゲームでいう残機のことさ。0の状態で死ぬとゲームオーバー、残っていれば1減らしてリスタート。つまり、予備の【魂】のこと。これを消費して生き返ることが出来る」
「……なるほど」
とんでもない話だが、確かにそれは依頼の報酬としては破格だ。なにせ、【残魂】が残っている限り死なないということなのだから。
「どうやって【残魂】を増やすことが出来るんだ?」
「基本的には依頼の達成報酬だね。難易度によってもらえる数も変わる。ちなみに、【残魂】を消費して【才能】を得ることも可能だ。そうして高難易度の依頼もこなして欲しい」
「……【才能】を得る?」
「そう。これがラインナップ」
目の前にウィンドウが出現した。能力名と必要な【残魂】の数が表示されている。
スクロールしていく。
数百はあるようだ。
よく考えてみると、ここでスクロールを止めてしまえばよかった。
俺は普通に生きたかった。別に生き返る必要なんて無かったのだ。
見たこともない場所に来た戸惑いと焦りだけが俺を動かしていた。
だけど。
俺は。
見つけてしまったのだ。
【死者蘇生】 ×100,000,000
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