少女
悲しくなんてない。独りぼっちだけど。
寂しくなんてない。ずっとそうだから。
深夜の商店街はまるで人を掃除機で吸ってしまったようにがらんどうで、シャッターが降りた真っ直ぐに伸びる世界に、少しだけ楽しくなる。
人間はね、醜い生き物だから、恨みや妬みで人を傷付けるの。
人は弱い生き物だから、一人で生きていけないのだ。
初等教育で習う道徳やらはひと通り頭に入れたし、助け合いだとか友情とか、一辺倒に押し付けられてきた。同い年の子供達はまるで人形みたいに何も考えずにそれがあたかも道理であるかのように信じて、無邪気な笑顔を向けていた。 ずっと不気味だと思っていた。吐き気がする。
私は一人で生きていきたい。助けなんていらない。
脳に心があるの。心臓じゃないんだよ。だから私には痛みなんて存在しないし、悲しみも喜びも既存のデータでしかない。
「春、どうしてこんなこともできないの」
所詮私はロボットとして用意されたデータ通りに動く生き物。なんだよ。
耳に谺響する針のような声と、飛んでくる手のひらが頬と空気を少しだけつまんで、涙が出た。ヒリヒリと痛む頬に、睨むように見上げたときの恐ろしいカミの顔は一生忘れないだろう。カミは今日も美しくニヒルな笑みを私に向ける。
カミは今日も言う
「あなたは何も出来ないんだから、勉強だけ、しれてればいいのよ」
カミは怒ると私に痛みをくれる。まるでカミが感じた痛みを分からせるかのように、私に沢山の痛みを垂れ流す。
「生きているから痛いのよ。死んだあの子の代わりにあんたがいるのよ。意味は分かる?わかるわよ。ねえ?」
私の世界は、カミが支配している。カミの世界。私はカミから選ばれたの。逃れられない運命のヒロインなんだよ。捻れた感情でも、屈折した痛みでも全部カミからの愛だから。
でもね、カミの愛だけじゃないよ。私だけの世界がちゃんとあるから。今日もカミが支配する世界を抜け出して、シャッターが閉まったここに来る。カミはこれを知ったらきっと怒るけれど、カミが居ない夜にだけ。私の時間が訪れる。カミの言いつけは絶対なんだよ。でもね、これはカミを愛し続けるために用意された世界だから、平気なんだよ。
ねぇ君。こんな時間に何してるの?五月蝿い。悲しくなんてない。独りぼっちだけど。 みんながみんなそう言う寂しい人なんて妄想やめてくれないかな。
寂しくなんてない。ずっとそうだから。
人間はね、醜い生き物だから、恨みや妬みで人を傷付けるの。
人は弱い生き物だから、一人で生きていけないのだ。
でも私は一人で生きていきたい。助けなんていらない。
「春、どうしてこんなこともできないの」
飛んでくる手のひらが頬と空気を少しだけつまんで、涙が出た。
ヒリヒリと痛む頬に、睨むように見上げたときの恐ろしいカミの顔は一生忘れないだろう。
カミは今日も言う
「あなたは何も出来ないんだから、勉強だけ、しれてればいいのよ」
カミは怒ると私に痛みをくれる
「生きているから痛いのよ。死んだあの子の代わりにあんたがいるのよ。意味は分かる?」
私の世界は、カミが支配している。カミの世界。
夜になるとカミは、そっと目を閉じる。いつもの様に。だから私はそっとカミの手から逃れるの。
ねぇ?こんな所で何してるの?
五月蝿い。
ねぇ?これから遊ばない?
アルコールの匂いと近づいてくる顔に吐き気がする。
逃げようとして掴まれた腕が。ギリギリと痛む。
これだから男は嫌いなの。傲慢で自分勝手。
抵抗しない腕に男は怪訝そうな顔でこっちを見る。
「チッ…つまんねえ女」
乱暴に腕を舌打ちと痛みを残して男は去って行った。
今日はひとり。でももういいや。疲れたし今日は帰ろう。
駅からの帰り道
暗闇に取り残されてしまったように、響く自分の足音。シャッターが閉まる商店街は夜になると決まって、人が姿を消す。掃除機で吸い込んだみたいに。
私の世界
いつも通り。トウメイな世界。
みんな震災の時口を揃えて命があったから良かったとか薄っぺらい幸福論を口にするけれど、死んだように息をしてる人間のことは考えないんだろうな。
手を広げて歩くの。
飛行機の翼みたいに。ここには私しかいないから、誰の邪魔にもならない。