tartarte
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タルタルソー…ス。いや・・・
思い出を細かく刻んで忘れることは出来ない。いつだって、考えられているはず。
だから、投げ出すことが簡単だなんても嘘…。
僕は、いったいまたどうして銀色に輝くナイフを手にしているんだろう。
他の人たちはたちは、毎日毎日何かの肉に触れているだろうか。自分の身体でもなく、他人の身体でもない動物の肉をふれているだろうか。
たった40グラムの肉のかたまりさえ、今は僕にとって気持ち悪い。
あの柔らかい質感の中に弾力がある、食肉。いくら食用だからといっても、毎日袋から取り出すときには違和感を覚える。まるで生きているかのように、僕の手からすり抜けるかたまりさえもいた。仕方なく納まってくれるかたまりもいた。
だけど、いくら検温しても生きていることには変わらないと知った。
お肉の上がり具合がどうしても気になって、ひとつだけ検食させてもらった。たとえフライドチキンでさえ肉汁で溢れることでさえ、モモ肉だから柔らかいことさえ承知であったとしても、実際に口にした瞬間、何ともいわぬ液体が口のなかであふれ、歯ごたえがまるで唇を噛むように柔らかかった時、命を軽々しく奪った罪悪感が襲ってきた。そして、僕は命を粗末しているのだと知った。
どんなに美味しく造っても、売れなければ衛星管理上廃棄処分となる。
どんなに命を重んじて、製造していても結局は消えていく命。
それと同じように、僕は他人を切り裂いている。
そして今日もまた、僕の目の前で叫んでいる食品がいる。
175℃以上の油温で揚げられたというのに、パン粉と共に油を垂らしながら僕を見つめてる商品がいる。検温が済んだというのに、そいつは僕を嫌うかのように熱いままでいた。いっそのこと、何もしないで商品として出したかった。でも、時間の都合上やマニュアル上…そういうワケにもいかなかった。
「僕は、いったいまたどうして銀色に輝くナイフを…。」
そんな事をつぶやきながら、寝そべるお肉にナイフを振り下ろした。
≪ザクリッ≫
僕の身体も何かにえぐられたかのように、全身に痛みが走りった。
眼を開くと、そこには真っ二つにおよ割れたお肉が白い血を流しながら息絶えていた。急に震えが僕に襲い掛かってきて、怖さの恐怖に逃げたくなって、いびつな形にながらもひとつの商品を完成させていった。
その次の朝のこと、僕は耐え切れなくなって先輩とのシフト交代のお願いをしたくて電話した。