flambe
flambé
【形容詞】
[通例名詞のあとに置いて] 〈食物が〉ブランデーなどをかけて火をつけた.
「それ、商品として出すの?」
ようやく元に戻りつつあった作業の手が、止まってしまった。僕はその手を何とか動かそうと顔を俯かせながらも、その商品にならないという理由を尋ねた。
「・・・どこ、間違っていますか?教えてください。」
そうして僕は、彼女のほうを見た。彼女の唇がゆっくり動いて、そして数秒差で僕の耳にある言葉が飛び込んできた。
それはあまりにも不愉快で、けなしている様に聴こえた。たとえ、自分が同じような事を、今の自分と同じ状況で言ってたとしても…そんなことをオウム返しのようにして言われたくはなかった。
『料理は、愛情だよね。
料理は楽しく作らないと、それが料理にも伝わって美味しくなくなる。
誰かのために造っている。愛する人を思って造ったら、きっと更に美味しい物が造れるよ。』
言葉を失った。確かに、間違いではない。でも、間違っている。
彼女なんかにオウム返しはされたくない。何でもかんでも事があることに対し、『それは仕事だから。これは仕事だから。』。『そんな気持ちを入れる意味が解らない。公私混同している。プライベートは一切仕事にいらない。』『人を思う事って気持ち悪い。私、誰にも想われたくない。想いたくもない。好きな人に対しても、どうでもいいって想っている。私が好きなのは、ただの憧れとして。優しさに甘えただけ。だから、関係ない。』と。
前にこんなやりとりがあった。
「キミは、何のために仕事をしているの?」
「僕は、人のためです。」
「でも、お金が欲しいから仕事しているんでしょ?」
「違います。僕は、色んな仕事に対して、お金は関係ありません。実際この仕事もタダでいいです。お給料なんて要りません。」
「でも、父親に『お金を。生活費を入れて欲しい。援助して欲しい』って言われたから、シフトを増やしたいんでしょ?」
「それはそれです。ただ今の僕には、これが精一杯です。」
「じゃあ、親にはなんて云うの?」
「今、『働いている給料分は出す』と言ってあるので、大丈夫です。」
「自分の取り分は?増やさないの?学校行きたいんでしょ?ちゃんとした学生生活を送ってみたいんでしょ?」
「それは、頭には無いです。」
「ふ~ん・・・」
彼女といると自然体でいられる自分がいた。だけど、そこには自分のために素直でいる訳でなく、彼女のために力を抜いている気がした。きっとファミレスの時は、彼女が僕の本性を観たいのだと思ったからなのだろう。だけど、もう本当の自分なんてこの世にはいない。あの引きこもりの首吊り孤独未遂した時点で、死んでいる。
何が辛くて判らなくて泣いていた、あの日もそうだった。
夢が役者だなんて口にしていたから、同級生の親が見かねて僕に「演技上手いね~。いつまで泣いているの?」って言われた日もあった。
母の浮気相手になりかけた男性があまりにも優しくて、女性という女性…僕の周りによくいた女性という生物の人間から逃げたくて、男性に逃げた夜もあった。例え何も無くても、傍にいるだけで落ち着けていたし、なぐさめてくれた。
でも、気が付けばやはりまた、女性という生物が僕のまわりにいる。
小学生の頃の声変わりする前の恐怖さが戻ってくる。
中学生の同性との絡み合いの柔道に、吐き気を感じてくる。
高校生の不登校と、疲れ果てた僕を観て「カッコいい」と口に始めてされた、あの朝焼けを思い出す。
やり直した高校で、周りの同性から「かわいい」と素の自分を褒められた数日後のこと、その周辺に本当の事が判るとゴミのように、ガラクタのように嫌われた夜を思い出される。
何も気にせず、頭をポンと手をのせてくれたあの人。動けない身体を、力強い背中を負いながら、抱きしめてくれたあの人も。失敗したのを「成長だ。」て手に力を入れて背中を押してくれて、原因究明してくれたあの人も。
僕は、そんな中で生きているにもかかわらず、どうしてまたきらめく刃物を手にしてるんだろう。