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glace

glacé



【形容詞】

1〈果物・菓子など〉砂糖衣をつけた,砂糖漬けの.

《主に米国で用いられる》〈果物など〉氷で冷やした,凍らせた.


2〈絹・革など〉なめらかでつやのある.


【語源】

フランス語「凍った」の意

 ドリンクバーから戻る彼女の瞳の奥が、これ以上にないほど乾ききっていた。


 「・・・ねぇ、私の言いたいこと解る?キミは、メインでいないで欲しいの。私たちは皆でやっているの。一人でこの仕事が成り立っているわけじゃないの?解る?」


 「・・・・・・・・・はい・・・。」


 「・・・あのね、いくらこの仕事を一人でやるしかないとしても、私たちの仕事は引継ぎなの。それが繰り返されていくの。一人が狂うと、みんなが後からシワ寄せがやってくるの。フォローできるところはあるかもしれない。でも、基本的には一人でやっていかないとダメなの。キミは、メインじゃない。私もメインじゃない。メインなのは、お店。私たちは、サブ。引き立て。引き立て役なの。でも、退き込み過ぎてはならない。私たちがいて、成り立つお店でもあるから。」



 さっき触った右手のウーロン茶グラスの結露が、気持ち悪くどうしようもなくて苛立ってきた。そして、それが彼女への八つ当たりへと変わった。


 「じゃあ、僕は何なんですか?生きればいいんですか?死ねばいいんですか?遺書に、『人をもて遊びました。』とだけ書き残して、紅い独特な生々しい血を撒き散らせばいいんですか。そうですよね?それがふさわしい結末ですよ。終止符ですよ。」


 ウーロン茶がお酒に切り替わったかのように、それを呑んだ後に僕はさらにヒートアップした。


 「そうですよ。いつだって、『お前は関係ない人間まで巻き込んでいる。』『一人で勝手に叫んでいろよ。』『言っていることと、やっていることが滅茶苦茶。』『何でも放棄してる。』『マザーコンプレックス。何でもかんでも「ママ。ママ。」』『弟のように、意思表示もハッキリしない。どちらが大人なんだか』『外に出ない、ダメ子』・・・そう、だから自覚しているから半分飲み込んでいた。笑ってきた。話せる相手が少なくて、自分を出すのが怖くて、理解してくれる母でもあるから一緒にいた。そう、弟が立派なのは、ダメな兄貴を見てきて生きているから。心配をさせたくないと、逆に弟は出来るようになっていった。人よりも多いムダ毛の奥に隠された、無数の癒えない傷が僕の闇をも隠してきてくれた。だけど、キレイになりたくて。ありのままの自分で居たくて、無邪気になりたくて、若くみられるようにヒゲを悔やんだり、通販で除毛剤を試したり・・・でも結局は、アイドルのように、芸能人のように、愛する人のように、憧れている人のように僕はなれなかった。いや、なれない。そう、それが・・・逆に偽っているように思えた・・・」

 「・・・・・・。」

 「そんな事を言われ続けられて、僕は傷ついただなんて思ってません。やはり、ある意味、僕の気持ちは本物なんだと思い知らされました。参考になりましたね。今まで色んな事を伝えてきました。自分が思うままに出してきました。でもやっぱり、布団に帰って思い出されるのは罪悪感な自分。他人に自分のことを考える時間を押し付けたしまったということ。誰にも、そんなことを想われたくないから。たとえ、好きな人に、そう想われたいと願っていたとしても・・・」

 

 「じゃあ、そう想ってもらえば良いんじゃない?私は無理だね、仕事として人間関係を築いているから。」


 「・・・・・。今日は、どうもありがとうございました。すみません、お先に失礼しますっ!」


 僕はそういって、彼女がトイレに行っている間に請求書をみて用意してあった小銭をポケットから取り出し、お店をあとにした。彼女は動じない顔のまま、真っ直ぐどこかを見つめていた。

 

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