chef
chef
【名詞】【可算名詞】
コック; (特に)(レストランなどの)コック長.
[フランス語 chef de cuisine 「コック長」から]
「・・・なに?私は、キミと楽しむために呼んだと思っていたの?ふざけないでよ。」
「あの、ごめんなさい。でも、出来ないです。」
「・・・なに?じゃあ、仕事の時のようにマニュアルがあれば死ぬことが出来るんじゃない?」
「仕事のマニュアルは、出来ます。だけど、これは違います・・・」
「・・・なに?キミ電話の話をおろそかに聴いていたの?私、言ったよね?『社会化見学として、外に出よう』と。『遊びに行こう。』とは、誘っていません。先輩の話も利けないで、よく仕事続けられるね?」
≪コースター、取り替えさせていただきますね。では、ごゆっくり~。≫
店員さんが何かを感じたのか、話の横割してきてまだ使えそうなコップのコースターを新しいものと摩り替えて去っていた。彼女はそれに対してニコヤカに接していたが、居なくなると顔つきがまた元に戻った。
「キミ、よく面接通ったね。今まで、散々けなされて落とされてきたんでしょ?なのに、あら不思議。いくら今の仕事場が人手不足だからって、労働基準ギリギリなところにようやく雇い主が見つかったと思ったら、まさかのこんなにも使えないやつだったとはね。私、ビックリだわ。」
「・・・・・・。」
「あのね、キミの成長は確かに早いと思う。課長も驚くほどに褒めていたし、会社からも賞賛されている。後輩を持つのが初めてな私でも、唖然としている。だけど、キミに早さは求めてない。完璧を求めてない。失敗して成功すればいいって、思っている、たとえ一発勝負な仕事だとしても。お客さんのニーズを考えて、失敗が断じて許せないとしても。」
「・・・・・・・・・。」
「私は、あなたが大嫌い!!」
微かに気力が残っていたコーラグラスを、わざとボンッと叩いて意識なくなったところに、使っていないストローを刺して彼女は飲み干した。そして、「私はコーラが嫌いなんだけど。」と口にしながら、そのままドリンクバーへと立ち上がって向かっていった。
薄まりすぎたウーロン茶を、僕は震える右手で持ちながら一口だけ飲んだ。
渇いた口はそれだけで癒えるはずもなく、また乾きつつある心に潤わせることもなくグラスを机に戻してしまった。
料理は、人の心がよく表れる。
人生もそんな料理みたいに、苦かったり甘かったり・・・また、酸っぱかったり・・・する。
人生を楽しんでなんかいない奴に、美味しいものを提供できるわけがない。
好きな人さえいれば、またそれも別格で・・・愛してもらいたいがゆえに、料理に愛情が映える。
食材の好き嫌いしている人なんかに料理を造ってもらったら、味がまばらになるような気がする。
彼女は、僕に冷たい背中を見せつけながら、ひとつひとつと透明な氷をグラスに入れていった。