mille-feuille
垂れ落ちたのは、久々の鼻血だった。もう、狂ったかのように笑いこけた。もう、腹がよじれそうなぐらい面白かった。いったい僕は何のために生きて、誰のために注いで、目指してきたのか。ひたすら面白い話がある中に、必死で笑いを表現してきた、作ってきた自分に何だったのだろうかと。
お菓子のミルフィーユのように、何枚も何枚も繊細な気持ちを積み重ねて、自分を生かしてきたのに…誰かの食べ物になるかのように、フォークと言う言葉の棘にグサリと食されて、食べるだけ食べられて、あとの僕の思いカスは洗剤と共に流されて消え去っていくだけ。この20年以上積み重ねてきた人生を、誰かのためと偽りながら自分を作ってきた時間が、今跡形もなく消え去っていった。
ことがあろうかに、僕はある思いを描いていた。
たとえ病気で死ぬことや事故や自殺や他殺や、突然死や過労死やそんな運命が待っていないと知っていても、老衰だけは死にたく無いとだけ思った。
過労死で死にたいと思った。自分を一杯一杯にして、死にたいって思った。
そして、今の仕事を辞めようと思った。でも、辞めないで負われるのもいいと思った。またひねりくねった感情が、僕を確立していった。
誰も悪くない、自分だけの悪い、この人生。
毎日のホラーに犯されながら、蝕んでいけば良いと思った。
長い長い夜は、まだ明けない。そのまま時間が来たら、僕は出勤するのだろう。そしてなに云わぬ顔で製造をして、掃除をして家に帰るのだろう。
「いつか帰ってきた時には、兄ちゃんに部屋盗られて、自分の物化されているかもね。」だなんて、一緒に部屋を何十年も共にした弟に言う妹友達の母親の言葉を寝耳に挟んだことに泣きながら、僕は4月を迎えるんであろう。
いそうろうがいた時も、自分の部屋を貸していたのに「弟のものだから」と、感謝の挨拶をしに来てくれなかったのも、自覚している。
貯金を崩して、弟の生活用品を買ってあげたのもある。外に出れない自分に対して戒めるかのように、自分が欲しいものを薦めて買ってあげた。
あの時の「泣いてるの?」の先輩の言葉が思い出される。
「泣いてない。」この気持ちは、そんなんじゃない。
僕は、僕の居場所は…此処しかない。
心にしかない。
明日から、また笑わなければならない。
構わない、明日は明日なのだから。
でもあの部屋が、僕を拒んでいるよ。