バイト初日
まあ気楽に生きなさんな
くだらないものを読むのも大切なことよ
とある店の中から、中年のおっさんと長髪の少年の会話が聞こえる。
「何で髪切ってこなかった」
「間に合いませんでした」
「時間ならたっぷりあったろう」
「いえ、違います。間に合わなかったのはお金の方です」
「……今いくら持ってる?」
「えーと……2000と56円です」
「じゃあ近くに千Qカットあるから行ってこい」
「え゛え゛ぇっ!?あの三流床屋に行けとっ!?」
「三流は言い過ぎだ」
「ですよね。まぁ二流の底辺くらいかな」
「お前千Qカットに恨みでもあるのか?」
「一週間前に『お任せで。かっこよくしてくださいね(はぁと)』って言ったらモヒカンにされました」
「ツッコミ所が多数あるが一つづつ攻めていこうか。まず美容院でもないのにお任せにするな、今度『(はぁと)』なんて使ったらクビな、一週間前にモヒカンにされたのになぜ今お前は長髪なんだ、ていうかモヒカンにされてないだろ、嘘だろ」
「うっそでぇーすぅ」
「お前クビな」
「『(はぁと)』なんて使ってないじゃないですか」
「わかった。じゃあこうしよう。今度『(はぁと)』なんて使ったり嘘ついたりしたら即クビ、OK?」
「分かりましたぁ」
「お前クビな」
「なんでですかぁ」
「お前絶対分かってないだろ」
「分かってますってぇ」
「……まぁいいだろう。だが返事の最後に小文字の母音をつけるのをやめろ、それやってもクビにするからな」
「分かりましたゃ」
「とりあえずお前は小文字を使うな」
「分かりました」
「仕事始めるか」
「それじあまず何をやればいいんでしう」
「やっぱり小文字は使ってくれ」
「分かりましたっ」
「『っ』に変わっただけでやる気あるやつに見えてくるな」
「がっんっばっりっまっしょっうっ」
「しゃっくりが止まらないのか?」
「さっさと始めましょうよ」
「始まらないのはお前のせいだからな」
「そうでしたっ」
「じゃあ明日にでも切ってくるんだぞ」
「小指をですか?」
「切り落としてやろうか」「やめてくださいヤクザあがりのかっこいいお兄さんに見られちゃいますよ」
「お前かっこよくないから」
「あ、そうか。僕はかわいい系だったっけ」
「『かわいい』の前に『きも』がつくけどな」
「そうなんですよ、僕肝据わってるんですよ」
「そんな話してないしどうでもいいし」
「この間一人でやった肝試しなんか幽霊見ても射精しませんでしたよ」
「ツッコミ所が多数あるが一つづつ攻めていこうか。まずお前一人で肝試ししたのかよ、幽霊見えたのかよ、普通の人は幽霊見て射精しないから、お前普通の人じゃないな?」
「バレましたか」
「あほな変態だってことは結構前からバレてたけどな」
「僕は新世界の神だ」「お前雇わなきゃよかった」
「信じてください」
「お前信じるやつこの地球上にいないから」
「なら宇宙飛行士なら信じると?」
「落語かよ。お前案外頭いいのかもな」
「僕がいいのは性格だけです」
「客観的に見るとそれが一番悪い」
「いいからさっさと始めましょうよ」
「いやお前のせいだから」
「で、ここは何屋でしたっけ」
「お前何も知らずに面接受けたの?」
「いや本当はSONYの就職試験受けようと思ったんだけど道に迷って近くの『何だかよく分からない店』に入って訊こうかと思ったら冴えない中年のおっさんに『あ、バイト面接の子?こっちこっち』って店の奥深くまで入れられてなんか勝手に面接始めてそれも一分足らずで終わってそのあと世間話話し始めてて逃げようと思っても羽交い締めにされてなおも話をやめないおっさんに五時間ぶっ続けで『近所の茜ちゃん(五才)のぱんつの種類』について熱弁され店を出る頃にはSONYの試験なんてとっくに終わってたんですよ」
「……すまなかった……!」
「いいっすよ」
「軽いな」
「因みにバイトは受かりました」
「知ってる、ここだもん」
「いやしかし受かってよかった」
「でもあれだな、俺の気が納まらん。正式に謝罪させてくれ」
「どうぞ」「お前に世間話を聞かせ続け逃げようとしたお前を羽交い締めにしてなおも話をやめず『近所の茜ちゃん(五才)のぱんつの種類』について熱弁してすまなかった、許してくれっ!」
「許しません」
「え、なんで?さっき『いいっすよ』って言ったじゃん」
「僕が『いいっすよ』と言ったのはあくまでも『伝説のオ〇ホール・馬の穴ル』の使い心地のことですよ」
「何が『あくまでも』なのか分からないし『伝説のオ〇ホール・馬の穴ル』の使い心地の感想を話の流れ的に普通の人は言わないから」
「だから言ったじゃないですか僕は普通の人じゃないって」
「ああそうか変態だったねお前」「違います。新世界の神です。ん?……かみ……髪……。そういや髪は明日にでも切ってきますわ」
「そんなことはどうでもいい」
「そうですね。ていうか何世間話聞かせ続けたことや羽交い締めにして『近所の茜ちゃん(五才)のぱんつの種類』を熱弁したことについて謝ってるんですか」
「え、てっきりそれのことかと……」
「僕が謝ってほしいのは、」
「そうだよな、SONYの就職試験に行かせないようにしたことだよな、本当にすまなかったっ!」
「その日アニメが見れなくなったことです」
「……SONYは?」
「そんなものは然したる問題ではありません」
「……だよねー」「僕はSONYの就職試験を受けたあと家に帰って『ペン太君の大冒険』のアニメを見るはずだったんです……でも帰った頃にはエンディングテーマ『裏切り者のゴリ夫のマーチ』が流れていて……」
「録画予約しておけばよかったんじゃ……」
「家にはSONY製のBlu-rayレコーダーがありますが弟がVHSを無理矢理ねじ込もうとして壊しました」
「お前の弟相当あほだな」
「VHSはなんとか入りましたが」
「入ったのっ!?」
「録画はできませんでした」
「当たり前だから」
「再生はできたけど」
「すげぇぇー!!!」
「押し入れにSONY製のDVDレコーダーがあるのを思い出して取り出したら弟がまたVHSをねじ込もうとして壊しました」
「お前の弟大丈夫か……?で、DVDレコーダーの中に入ったんだろ?」
「入りませんでした」
「なぜっ!?」
「むしろDVDレコーダーの方がVHSに吸収されるかたちになりました」
「お前の家のDVDレコーダーどんだけ小さいんだよっ!!」
「いえ、VHSがデカいんです」
「よくBlu-rayレコーダーの中にねじ込めたなっ!!」
「努力の成果です」
「Blu-rayレコーダーがさらにデカいんじゃないのかよっ!!それに努力したのは頭のイってるお前の弟だよっ!!」「……弟を悪く言わないでください……!」
「あ、……すまない……」
「弟がイってるのは目だけだぁ!!」
「目がイってたら同時に頭もイってると思うぞ」
「押し入れにSONY製のVHSレコーダーがあるのを思い出して取り出したら弟が、」
「VHSをねじ込んだんだろ?いくら巨大なVHSでもそれ専用のレコーダーなんだから入るだろ」
「いえ、僕をねじ込もうとしました」
「きゃああああああああああああああああ!!」
「VHSレコーダー自体が巨大なため僕はなんとかねじ込められましたが、」
「そもそも何で巨大なんだよ。そしてそんな易々とねじ込められんなよ」
「録画ボタンが壊れていました」
「どーでもいー」「画面には僕の過去の記憶が再生されました……」
「すげー、そんな機能あるのかよ、SONYの技術力はんぱねー」
「そして弟は見てしまったのです。僕と弟の過去の記憶を。その、イった目で」
「最後のいらないと思う」
「それは、僕が七才弟が三才の頃のことでした。僕は弟になぜか無性に苺を食べさせてあげたいと思いました。そして食べさせました」
「はしょりすぎだからな」
「弟は人生に絶望しました」
「どこにそんな要素がっ!?」
「弟は苺か死ぬほど嫌いでした。苺についているあの『ぶつぶつ』が嫌いだったのです」
「『つぶつぶ』って言え」「昔はそうではなかった。むしろ好きでした。しかしある日弟は苺の『ぶつぶつ』は自分にもできてしまうのではないかという危機感を覚えたのです」
「無駄な危機感だな。それと『つぶつぶ』と言え」
「その日から弟は苺に恐怖するようになりました。そして弟は映像の中で、過去の自分が苺を食べるところを目撃してしまう……。『ぶつぶつ』のトラウマが甦り、弟は塞ぎ込んでしまった」
「そうだったのか……。『つぶつぶ』と言え」
「それから時はたち、弟はなんとかトラウマを乗り越えて立ち直りました」
「じゃあお前の弟は今日も……」
「ええ、僕をVHSレコーダーの中にねじ込もうとしてきますよ」
「そうか」
「だから僕はあなたを許しません」
「もはや何の話をしていて、何を許さないのかが分からない」
「僕も分かりません」
「そろそろ仕事始めようか」
「帰りたいんですけど」
「バイトしにきたんだよなお前」
「ええ、まぁ」
「だったら働くぞ」
「えー」
「えーじゃねぇよ」
「帰りたい」
「帰らせん」
「また羽交い締めする気ですか?」
「場合によってはな」
「そして僕の耳元で『近所の茜ちゃん(5才)のぱんつの種類』を囁き続けるつもりですか?」
「場合によってはな」
「……恐っ……」
「いいから労働しろ」
「はぁ……まったく……今日だけですからね」
「今日だけなら自動的にクビだぞお前」
「まぁまぁそうカッカしない」
「カッカしてないししたとしてもお前のせいだし」
「で、ここは何の店なんですか」
「コンビニだよ」
「うっそだぁ。はたからみたら『何だかよく分からない店』にしか見えませんでしたよ」
「お前の『何だかよく分からない』の定義は何だ。うちは普通のコンビニだぞ」
「まぁまぁそうカッカしない」
「カッカしてないししたとしてもお前のせいだし」
「そろそろ仕事始めましょうか」
「お前が仕切るんじゃねぇよ」
「ところであなた誰ですか?」
「お前今までどこの誰かも分からない中年のおっさんにギャグかましてたわけ?」
「あなたは質問には質問で応えろと学校で教わったんですか?」「いいから応えろよ」
「はい」
「即答かよ」
「因みにギャグなんてかました覚えはありません」
「あれはギャグじゃないと言い切る気か」
「はい」
「即答かよ」
「で、あなた誰ですか?」
「このコンビニの店長だ」
「あ、やっぱり?」
「『あ、やっぱり?』じゃねぇよ。クビにするぞ」
「まぁまぁそうカッカしない」
「カッカさせたのお前だし」
「あ、僕の名前は太郎っていいます。珍しい名前でしょ?でへへ」
「脈絡ないし履歴書見て知ってるし普通過ぎる名前だし笑い方気持ち悪いし」
「自己紹介も終わったことだし、労働しましょうか」
「やっとだな」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ていうかなんでほとんど『地の文』がないんですか?」
「なんだそれ」
「『地』の『文』ですよ」
「道路に書いてある『止まれ』ってやつか?」
「違います。小説で情景描写などのために使われるかなりメジャーな手法です。まぁカギカッコの中以外の文字のことですよ」
「小説の話だろ?」
「この世界がもし、小説の世界だとしたら……?」
「そんなわけないだろ。何を馬鹿なことを」
「しかも三流携帯小説だとしたら……?」
「何を……」
「作者……いやそう呼ぶのもおこがましいただの暇人が作っている世界だとしたら……?」
「そんなわけ……」
「この世界はただの暇つぶしの道具でしかないとしたら……?」
「…………」
「この世界では一人称ではなく、三人称が採用されているとしたら……?」
「…………っ!」
「そうです。この世界の主人公が誰なのかは分からない。あるいはいないのかもしれない。つまりそこから導き出される答えは、僕ら登場人物の思ったこと感じたことそれらがこの世界には直接には反映されない。作者=暇人≦この世界の神。僕らが積極的に発言しない限り、神のいいように地の文が操られ、僕らはありもしないことを考えさせられたり、やらせられたりするでしょう」
「……そんなっ」
「だから僕らは精一杯、『神々の遊び』に抵抗しなければならないのです……!!」
「……『神々の遊び』……」
「そう、それが始まるのは今このときかもしれない……」
太郎はそう言いながら店長のカツラを取った。
「遂に始まったか、『神々の遊び』!」
「ちょっと待てぇ!俺はカツラなんてしてないぞ!」
「そう、神はありもしない情景描写を赴くままに付け加えられるのです……!」
店長は発狂して下半身を露出した。
「あ゛ぁああ゛ぁぁあぁあぁぁあああああああ゛あぁぁぁ……!!」
「叫び声だけだと本当に発狂して下半身露出したと思われますよ?」
「そうだった!俺は下半身露出してない!俺は下半身露出してない!俺は下半身露出(ry」
「もっと変態に見えますよ?」
店長は包茎だった。
「違いますからぁぁぁっ!!この前手術して治しましたからぁぁぁっ!!」
「思わぬ事実が発覚しましたね」
しかも真性。
「だったけど治しましたからぁぁぁっ!!」
「真性だったんですかっ!?」
しかも童貞。
「その歳でっ!?」
「しょうがなかったんだぁぁぁ……剥けなかったんだよぉぉぉ……」
「可哀想に」
太郎はそっと、カツラを店長の頭の戻した。
「同情の仕方がむごいですね僕」
「そろそろ童貞の肩書き返上したいな」
店長は下半身露出したまま太郎を羽交い締めにした。
「おいっ!そんなことしてないだろっ!」
「あっ……て、店長……やめっやめてくださいっ……!」
「便乗して乗るなっ!!」店長はそのまま太郎を押し倒した。
「いやいやいやいやいやいやいやいやっ!そんなことしてないからっ!!」
「うぐぅ……誰、か……助けっ……!」
「やめろぉぉぉ!俺が変態見たくなるだろうがっ!」
太郎は思った。
僕のことをあほとか変態とか言うけど店長も変態だよな、と。
「あれ?太郎くんの本音?」
「どうやら神(作者)と僕の言いたいことが合致したみたいですね」
「俺は変態じゃないっ!!」
太郎は思った。
『近所の茜ちゃん(五才)のぱんつの種類』について熱弁していたのは誰だ、と。
「また本音?」
「そうですね」
店長は太郎の服を一枚ずつ剥ぎ取っていく。
「あっ……あっ……やめっ……」
そして太郎は店長の手によりパンツ一丁になった。
「いやしてねーし」
ブリーフだった。
「今時珍しい」
そして、そのブリーフを華麗な手さばきで剥ぎ取った。
包茎じゃなかった。
「……負けた……」
「店長、これは神(暇人)の勝手な書き込みだということをお忘れなく」
「そうだった!太郎くん、君は包茎だよねっ?」
「違います」
「……負けた……」
「因みに童貞でもないです」
「死のう」
こうして店長は自ら命を絶ったのであった。
茜ちゃん(五才)への想いをその胸に抱きながら……。
「死んでないからっ!!」
「本当に死んだのかと思いましたよ」
第二話はいつ出そうかな