#8 臨界状態
「水神さん、校内規則はご存じでしょうか?」
その質問に一度、瞼を落とし返答をする。
「心から存じあげております。ですが、これはいわばわたしくしの正装、そして我が身を護術」
そこに、女同士の火花が散る。
小鳩は、内心の苛立ちを、今にも表情に表しそうだが鉄仮面はゆるがなく、それに遭いたいし水神は、氷の様な眼差しで小鳩の事を見ている。まるで巫女の格好であるのが当然の如く。
「そこまで、おっしゃるのなら納得いく理由をお聞かせいただけないでしょうか?」
水神は一度、目を逸らす。
「あなた方に言っても、ご理解頂けるとは到底思いません、あなた方には【怨霊】というものが見えないのですから」そしてまた小鳩の方を向き「と心から申し上げます」
「フフ、君たちには、理解の出来ない世界なんだよ」
そういって得意げに話の内容に割って入ってくる、オカ研の部長のブサ釜。
「水神くんは、特異体質と厳しい修行でね、怨霊という者が見えてしまうんだ、君たちの様な凡人とは違うんだよ」
流石に俺もイラつき低いトーンで
「なんだと、てめえ……」
その言葉に、怯え一歩下がるブザ釜に対し、俺の胸の前に手を出し引き止める小鳩。今度は其の小鳩が口を挟む。
「わかりました、水神さんその格好を認めます。但しこちらとしても生徒会である以上、自由な服装を認めるわけにはいきません、他の生徒に示しがつかない、故に1週間の期間を設けます。そこで水神さん貴女の言う怨霊とやらが、本当に現れるようであれば、今後その服装は認めます」
「その条件で宜しいですか?」
「その条件で了承いたしますと心から申し上げます」
「それともう一つ、部長のブサィ……釜立さん、この部の活動内容を把握させて頂きたいので、その期間この大貫くんを此の部に密着させていただきまが、ご了承ください」
―――は?
「えええええええええ俺が!?」思わぬ展開に驚いた、俺の貴重な放課後をこんな胡散臭いオカルト集団と一緒に過ごせと……いくら小鳩の頼みでも無茶苦茶過ぎる、生徒会室に帰って絶対に異議申し立てる。
「生徒会長、今ブサィって言いませんでした? 宜しいでしょう。しかし大貫さんがどうなっても知りませんよ?」
ブサ釜の不適な笑みを余所に、失礼しますと言って俺たちは一旦生徒会室に戻る、結論からして俺だけが惨い目にあったような形になってしまったが、此処に帰ってきてそのことについては真っ先に小鳩は謝ってきた。
生徒会室―――。
「ゴメンしちみ、なんかあの女としゃべってると無性に腹が立ってきてさ!なにが心から申し上げますだよ!糞オカルト女とブサ釜の野郎 単なる校則違反だろうが!糞!」
「おい、小鳩。物には当るなよ、扉直したばっかなんだからな」
「…………」
片足を上げ、後ろ回し蹴りの体制に入っていた小鳩を、よもや間一髪で修理が終わったばかりの扉を救出したが、実は小鳩の方が生徒会長が故に俺の十倍はイライラしていたんだろう。この条件、呑まざるを得ない状況になってしまった。
そして次の日の放課後、俺は約束通りオカルト研究部の部室へと向う。
「失礼します」と入口の扉を開けると部室には、ブサ釜が既に来ていた。
*1日目*
ブサ釜以外の部員、水神を含む他四名は、一度も姿を現さず室内を重たい空気が支配して終了。
*2日目*
部室に来てみると、まだ誰もいない…俺が部室に到着して二十分遅れでブサ釜登場、今日は何やら一眼レフを首に掛けての出席。ニヤニヤとしながら別室に入、其処は簡易的な暗室。今時、現像とは珍しくレトロな代物だ。数時間後、その現像された写真を手に持ち眺めながら暗室から出てくる。
「やった……へへへ」
写真を眺めながら独り言を、言い何か得体の知れないものでもスクープしたかの様に、自慢げに横目でこちらをチラ見してきたが、俺はすかさず視線を逸らす。『ちっ!こっち見んじゃねえ』
そして、また部室に水神は現れない。
*3日目*
確実に、俺に限界が来ていた。
そう、またしてもブサ釜と二人きり……
―――臨海状態。
「って……釜立!お前以外に部員は来ないのか!」
勢いよく立ったせいか、座っていた椅子は倒れ、俺の怒鳴り声に驚いた様子で、返事をするブザ釜から返って来た言葉は、水神以外の部員は一度も来た事がないという事だった……其の時、俺は無意識にブサ釜の襟を掴み引き揚げる。
「じゃあ―――その水神もなんで部室に来ない!」
「た、助けて……暴力反対……た、確か今、家の神社が祭り時期で忙しいから来れないと……ひぃ!」
―――神社?