#2 新入生
放課後の生徒会室、春の始まりはまだ肌寒く、日落ちる黄昏時室内は紅色に染まっている。
俺と小鳩の二人で、生徒会の仕事を淡々とこなし息を吐く、仕事というのも各部の申請書類等に 目を通し印鑑を押すだけ、横目で小鳩のほうを見ると依然イライラしている雰囲気だが、的確に仕事はこなしている。実の所、この学校での女生徒による生徒会長は、神室小鳩が初めてで、それだけに優秀さを認められた事にもなるのだろう。
「なぁ小鳩 帰り飯食って帰る?」
小鳩は一瞬手を止める。「しちみの奢りならご馳走になるわ」
「いや……割り勘で」「却下」
そんな他愛のない会話を吹き飛ばす出来事が訪れる 。
招かざる客の来訪、小鳩の機嫌の悪い時に来て欲しくは無かった。
其の時、生徒会室 扉開。
『やっぱりだ』
生徒会室の扉が、開いたその先には、”例”の女子新入生がこちらを睨みながら立っている。 小柄で制服の上はブルゾンを羽織、髪は少し長めのツインテール、胸には大きな髑髏柄のリボン。
その姿は、パンク風と言うべきかヤンキー系と言うべきか 間違いなく校則違反。そして、生徒会としてその服装を指摘したのがそもそも小鳩との縁になってしまった。
新入生は、扉から小鳩を見つけ「生徒会長、ちょっと顔かしな」
小鳩が手を止め新入生の方へ振り向く「あら 新入生の、えっと名前まで聞いてなかったわね?」
「仁 私の名前はジン」
「ジンさん、注意したのは生徒会として当然の事、もし逆恨みなら顔はお貸しできないけど」
「それとも、何か意見でもあれば、此の場で聞くけど?」
「意見など無い」 只――。
「あんたの血で、この教室を血だらけにならない様にって意味よ」
其の言葉に小鳩の表情が変わった、それはこの前の用件とは別の意味だということを察した。
「ジンさんは、無粋な事を言うのね。 そんなに服装を指摘したのが気に入らなかった?まあどっちにしても、 私、血だらけにならないし、なりたくもないんだけど」
戦慄が訪れる。 小鳩の言葉と共に、瞬間、腰に手を廻しジンが両腕を広げると手には短刀が現れ事態は一変する。
殺気と憎悪の渦を巻きながら、一言も放たずジンは小鳩の方へと素早く目で追うのが精一杯の速さで疾走する。
―――此の距離じゃ間に合わない!
俺は叫んだ。「こばとおおおお 避けろ!」
小鳩の手前にある机を踏み台にして高く飛び、短刀の刃とジンが円を描いた。そして、其の弐本の刃は、小鳩の頭を狙って垂直に落下してくる 。
ガシャーン!
大きな音が生徒会室に響き渡り、弐本の短刀は小鳩の座っていた椅子を突き刺し、その衝撃をもの語るかの様に、周囲の机は倒れ青色の光を放つと同時に室内に粉塵が舞う、それは明確な殺意。
其の光景は、喩えるなら獲物を捕らえる時の狩、普通の人間ならあの刃が頭にザックリ刺さり死んでいる、しかし 反射神経は並大抵ではない小鳩は、よもや寸前のとこで躱していた。
「ジンさん、それ銃刀法違反だって知ってる?」
小鳩は、立ち上がりジンには顔を背けず、俺の方へ右手を差し出す。
「ねぇ しちみ。”アレ”貸して」
「あれってお前……」
「今の観なかったの? この子、本当に私を殺る気よ」
否定はできない、俺は黙って腰のホルスターに手をやる、そこには小鳩から預けられている。
【回転式拳銃】
それを取り出し俺は小鳩の方へ放り、そのリボルバーを小鳩は受け取る。
『このリボルバーはただの銃じゃない、弾丸も入っていなければ、その弾さえ装弾するわけじゃない』
「小鳩!それは”人間”には効かないんじゃ」
「さぁね、当たったら気絶くらいはするんじゃない?」
其の会話を余所に、殺し損ねたジンが再び小鳩に刃を向け笑顔で呟いた。
「生徒会長、それ銃刀法違反だって知ってる?」
小鳩もジンの方へ向けてリボルバーを構える。
「これ?持ってたのは私じゃないわ」
「あそこにいる七味よ」カチャ――。
その言葉にリボルバーが反応しシリンダーが回る。
読んで頂きありがとう御座います。伏
2話目です。
今回、少し短いので大貫七味ことしちみの挿絵を入れました。