#1 Abuse Revolver
薄暗く厚い雲が、月明りを妨げ廃屋を覆う……
この屋上から見る街は小さく見え、風の音しか聞こえない。
高音のうねりを上げる風が廃屋を突き抜け、その高貴な悪意の少女のコートを靡かせる。
少女は眼鏡をはずし口元は微笑み それは今、この時を望んでいたかのように唇を動かした。
「やっと逢えたわね 小鳩」
悪意の少女の名前はララ そしてララと向かい合い睨みつける少女の名前は、小鳩。
それは、決して望まない結末の距離。殺し合いの距離。
そこではじめて二人は目と目を合わせ、最初に微笑を向けたのはララ 小鳩は俯き目を閉じる。小刻みに肩を震わせ怒りが全身に溢れる。
「しゃべんな……なんでアイツを…… なんでアイツを殺した」
悲痛な叫びが廃屋に響き 小鳩のその表情は悲しく憂いララを真っ直ぐに睨みつける。
響く言葉に迷いも無く冷酷に答えるララ、表情は先ほどと変わらず崩れない。ただ、薄っすらと笑う。 当然の如く。
「殺した? 誰の事いってるのかしら、もしかして怨霊成敗師の娘のことかしら?」
その言葉を聞いた瞬間、怒りと悲しみに呑まれ右手をララに差し出す。
その右手には、弾の入っていないリボルバー
銃口はララを捕らえ照準をあわす。
「糞やろう」カチャ!
小鳩の放つ、糞やろうの言葉とともにリボルバーの空のシリンダーに一発弾が現れる。
銃口はララを捕らえたまま、その先のララは銃口を一点に見つめ表情は変わらない。
寧ろ、その先を望み、絶望が待っていることをララは知っている……
揺れる唇、信じがたい言葉。
「あなたに、私が殺せるかしら? いや、その弾が私に当たるのかしら」
「私はね、小鳩。 あなた自身なの」
この意味がわかるときには、既に悲劇の連鎖は始っていた。
半年前へと遡る――。
春、どこの高校も入学と新入生を迎えるこの時期 俺達、生徒会執行部は一つの事件に遭遇していた。
そして、今俺達のいるこの場所は生徒会室 。
生徒会会長の神室小鳩 書記長であるこの俺、大貫七味
この春で、俺達2人は、高校三年生に進級した。
俺と小鳩は、小さい頃からの幼馴染で、小鳩の奴は俺の事を昔から”しちみ”と呼んでいる。 そんな感じで、会長を勤め小鳩という名前だが、立派な女子。しかも成績優秀 スポーツ万能 同姓からも慕われる生徒会長だがそれは誰も知らない表向きであり実際、小鳩の口の悪さなんて半端ない。
それを知っているのは当然、俺だけなのだが、それが果たして良いことなのか悪いことなのかも、付きが合い長すぎて感覚は既に麻痺してる。
『そろそろくるな』
すべての授業を終えた小鳩が、生徒会室に近づいている。
何故だか足音でわかってしまうほどの腐れ縁。間違いなく今、機嫌が悪い。
ガラガラ――。
生徒会室の扉が開。扉の空き具合が凄まじく俺の勘は見事にビンゴ。
「ああー もう、かったりなあ、 韮澤話しなげぇんだよ! 糞」
持っている鞄を投げ捨て、机の上に横たわり、足をバタバタとさせ子供のように小鳩がグダを巻く。
どうやら、生徒会役員の件で韮澤先生と話しをしていたらしい。
しかし、毎日の事ながらいつも俺と二人の時は、こんな調子で本性丸出しなのだが、よく周りの生徒達にボロがでないなと関心させられる。
俺の心の中では、いいから仕事しろよ!と思いつつ小鳩の方へ向くと横たわったままの姿勢で小鳩が急に首を振りこっちを向いて訊ねてきた「しちみぃ」
「あ?……なんだよ」
「あの例の新入生さ、今日ここへ来た?」
「いや、今日はここへは来なかったなぁ」
その言葉を訊いて小鳩は、少し安心した様子。
「よかったぁしつけーんだよあの新入生!……今度きたらさ、しちみが相手してよぉ」
なんで俺になるのか……「はぁ 何で俺が! だいたい怨まれてのはお前だろうが!」
机の上で寝っ転がっている小鳩は向こう側に顔を隠すように寝返りをうち
「ちぃ 役にたたねーなぁ しちみのくせに!」
ふて腐れた。
「くせにの意味がわからんし…… なんならさっさと本性だしちまえよ」
『…………』
急に黙り込んだ小鳩の表情が曇ったように思えた。 あんな風に見えてやっぱ気を使ってるのか… って思うとまだ救いがあるな。
そう、一つの事件ってのが、この新入生の事だ。
初投稿の鈴呂と申します。
この度、Abuse Revolverを読んで頂き誠に有難うございます。
これから、宜しかったら最後までお付き合いしてくれると喜びます(笑