恋愛RPGの世界に悪役(?)として転生した話
お久しぶりです。
「カミーユ・アレアンティークだ。よろしく」
「ミカ・アレアンティークです。よろしくお願いします」
周りの、かっこいい、かわいいという発言が飛び交う中、私はひそかに決意する。
この死亡フラグ、絶対に折る!!
恋愛RPGの世界に悪役(?)として転生した話
皆さん、唐突ですが、転生と言うものを知っているだろうか?
ネット小説などでよく見かける、もっともありふれた展開の物だ。
実は、このありふれた展開が、私こと、リリアーヌ・ヴィヴィシュオンにも起こっていたのだ。
それと気付いたのは、私が五歳になった時、両親が開いてくれた誕生パーティーの最中だった。
両親の間に立って、手に持っていたジュースを飲んでいるときに、突然前世の記憶を思い出したのだ。
ごく普通の五歳児だった私は、当然ながら前世の膨大な記憶を受け入れきれずに倒れてしまい、三日三晩高熱を出し、意識不明の状態だったそうだ。
目が覚めた時、周りが狂喜乱舞しているのを横目に、一人落ち込んだ。
理由は簡単。前世の記憶の所為だ。
前世の私は、天使異識。大学四年生で、就職の内定も決まっていた。恋人はいなかったが、友人はかなり多く、親友と呼べる者もいた。
前途様様な人生だったが、お決まりの転生トラック――考えるのは止めよう、今ここで倒れる訳にはいかないのだ。
まあ、なんやかんやあって、今の私、剣と魔法の世界の公爵令嬢リリアーヌ・ヴィヴィシュオンとなった。
となったのは良いのだが、ここで問題があった。
現在の私は、公爵令嬢と言う身分から分かるように、女の子である。しかし、記憶の中の天使異識は男性――俗に言う、TS転生と言うやつだ。
性転換であるがゆえに、葛藤などがあったのかと言うと、無かった。
五歳という年齢から、体については男女間の大きな違いと言うものはあんまりなかったし、意識不明だった間に、前世の記憶と今生の記憶を適合していたようで、すんなりと女の子の体に適応出来た。
……まあ、この後に受けたお嬢様教育によって、記憶の中にあった男の矜持がおられたということも無関係ではないだろう。
前世を思い出した私だったが、当時の私は、なにもしなかった。
当たり前だろう。確かに、遥かに進んだ知識があればNAISEIは出来るだろう。小説などでも、転生主人公がよくやることだ。身分的にも、家は公爵。広い領地を持つお金持ちで権力者の家だ。NAISEIをやるのには問題ないと言える環境がそろっている。
だがしかし、考えて欲しい。当時の私は五歳児だ。子ども……いや、幼児と言って良い年齢だ。そんな幼児の言うことなど、まともに聞きいれてくれるだろうか?
私は、そう思わない。
さらに言うなれば、進んだ知識とは言うものの、この世界に合わない物ならば、取り入れようとしても失敗するだけであろう。
ならば、まずやることはこの世界を知ること。
幸い、十分教育を受けられる立場である。
世界を知ってからでも遅くはない。
……と、当時の私は考えていたのだが、あることをきっかけに、方向転換せざる負えなくなった。
「カリーヌ・レンバッハです」
三年後、八歳になった私の前に現れたこの子の存在がそうさせたのだ。
薄々とは気づいてはいたのだが、彼女が私の目の前に現れたことで、はっきりと分かった。
この世界は前世のゲームの世界だということが。
ゲームのジャンルとしては、オーソドックな恋愛RPGと言うやつである。同人ゲームだったのだが、人気があったのでコンシューマーとして販売されたゲームである。
内容としては、勇者として主人公が多くの仲間たちと協力して、復活した魔王を倒すと言ったものだ。
RPGとしては、バランスがよく作られておりかなりの高評価を得ている。
だが、このゲームの肝は恋愛の方である。
主人公は男女が選べる。攻略対象は男九人、女九人、合わせて十八人。全員に独自ルートがある。ちなみに、男女どちらの主人公を選んでも、全員攻略可能だ。もちろん、恋愛関係と言う意味で、だ。
要するに、ノーマルな恋愛、ハーレム、逆ハーレム、百合、腐、何でも出来る。その上、立ち絵やCGをギャルゲー風、乙女ゲー風のどちらか選べる。
非常にすそ野が広く作られていたため、人気が出るのもうなずけるゲームだった。
そのゲームにおいて、目の前の少女は攻略対象の一人で、凛々しい女騎士という設定だったはずだ。父親の背に隠れている今の様子からは想像できないが……
「……」
「お、お嬢様?」
そして、無言でorzをしている私の立ち位置も分かった。
ゲームに置いて、私ことリリアーヌ・ヴィヴィシュオンは、初期の学園パートのボスと言う立場だ。
公爵家と言う身分を嵩にきて、学園内で我が物顔にふるまっていた所、途中入学してきた主人公に負け、全てを失う。全てを失った恨みから、魔族と契約し、再度主人公達を襲うも返り討ちにあい命を落とすと言ったものだ。
冗談じゃない!
自分の死期とその理由が確定しているなど、本当に冗談じゃない!!
三日間ほど不貞腐れモードだったが、気を取り直す。
ゲームの知識が確かならば、魔王復活に伴う諸々のことは、私が十六歳になった時に起こるはずだ。
後八年。
死亡フラグを折るための準備期間としては、十分だと思われる。
使えるものは、何でも使う。
死亡フラグを叩き折るために!
ベッドの上で、仁王立ちして拳を振り上げた、八歳の少女の朝の一コマだった。
フラグを叩き折るためにやることは、さしあたっては二つ。
自身の戦力を上げることと、評価を上げること。
ゲーム内で、私は学園最強と言われていたが、それは公爵家の権力を背景とした接待のようなものだったし、権力に群がる取り巻きはいたが、友人はいないという設定だった。
本物の実力と友人を得ることで、だいぶ違うだろう。
戦力を上げることは簡単……ではないが、鍛えれば何とかなるだろう。
評価は、知識を生かした内政の手伝いをすれば上がっていくのだろうか?
とりあえず、お父様に相談をすることから始めよう。
……この日から、本格的に死亡フラグを折るための活動がスタートしたのだった。
「ま、成果は上がらなかったけれど……」
「なにを言っているの? リリア」
小声でつぶやいた私の言葉に、カリーヌが返してくる。
今、私たちがいるところは、学園の中庭。時刻は、昼休み。
「いや、この八年間の成果って、カリーヌと友達になれたことかな~、って」
「?」
訳が分からないといった表情をする彼女に、「何でも無い」と言っておく。
「ねえ、カリーヌ。私の能力について、客観的に評価してくれない?」
「能力? 評価?」
「え~っと、私について聞くから、正直に答えてって事」
「面白そうですね。私も入れてください」
そう言って会話に入ってきたのは、エヴァンジェリン・セイル。私のもう一人の友達で、この国―セイル王国―の王女様である。
「私としては、親友と思っているのですけど」
「……ありがとう」
そう言ってくれるエヴァと、自分もと言った風にうなずいてくれたカリーヌにお礼を言う。
やはり、この二人との友情は私の八年間の足掻きで得られた、最高のものだろう。
「それで、話を戻すけど……」
「「いい(です)よ。何でも聞いて(ください)」」
まず聞いたのは、直接戦闘力。武器や徒手空拳での戦闘能力だ。
「ん~、一般兵の平均が十だとすると……」
これには、学園に通っている身で騎士位を手に入れたカリーヌが答えてくれた。
「リリアは、十五ね。ただし、得意武器を使ってという前提で」
「? 案外低い評価です。リリアさんの成績から行けば、もう少し上だと思ったのですが……」
確かに、学園での成績は上の下位の所にいるのだが、それには悲しくなる理由がある。
「玉の輿を狙っている人が多いから……」
「……ああ」
この学園は、魔王復活に備えるため、騎士階級以上の子どもたちを集め鍛えることを目的として創設された。
しかし、復活するとされた魔王が仲間か復活しないとなると、その目的と言うのは建前と化し、今や結婚相手を探す婚活の場と化している。
「まじめにやっている人が少ないため、あまり強くなくてもまじめな人は成績が上になるといった感じ」
「……分かるような気がします。それでも、リリアさんの評価は、低いと思うのですが」
「それは……」
カリーヌの視線が、私の頭からつま先までを行き来し、そしてある一点で止まる。
「この体形では……」
私の身長は、百三十九セイル(一セイル≒一センチ)と低身長だ。ここ二年間ほど全く変わらないことから、もう伸びないものと考えられる。
だが、低くても小柄な体格を生かして強い人はいる。それに私は入らない。問題は……
「どれくらいになった?」
「……先日測ったら、八十六セイルだった……」
「先月の身体測定では、八十二じゃなかったっけ?」
「まだ成長しているのですか、それ」
「……うん」
私の胸部についている、脂肪の塊だ。
お母様の家系の特徴を、そのまま受け継いだ形だ。
お母様と同じように背が高ければ、まだ良かったのだが低身長。バランスが悪くてしょうがない。
「そんな大きいモノを付けていては、動きとかが制限されるのは当たり前。……ちっ、もげろ(ぼそ)」
「ソウダネー。ジャア、次ハ魔法ニツイテ聞コウカナ?」
なんか、小声で怖いこと言われた気がするが、スルーすることにする。
「片ことなのが気になりますが、私が答えましょう」
カリーヌの小声が聞こえなかったのか、普通に答えるエヴァ。
「はっきり言いまして、リリアさんの魔法攻撃力はないに等しいです」
「……分かっていたことだけど、はっきり言われるとショック……」
実を言えば、私の魔力容量はかなり高い。この学園一で、そこら辺の宮廷魔術師を軽く超える。
「回復量も多いのですが、絶望的に攻撃魔法の適性が低いのです」
以前、きっちり呪文を唱えてはなった魔法を、無詠唱魔法でかき消されたことがある。
「補助、回復魔法は、一般魔法兵くらいですね」
一般魔法兵レベル、ようするに使えることは使えるが、専門家には及ばないということだ。
救いは、適性のある唯一の属性が、他人の追随を許さないほど強力と言うことだろう。
「でも、空属性では……」
「うん、空属性じゃあね……」
二人の言い分は、分かる。
空属性とは、空間を操るもので、主な物としては、空間拡張と転移が挙げられる。
便利な属性の魔法なのだが、戦闘に使うとなると使い辛い魔法と言える。
「二人の意見を総合すると、私の戦闘能力はかなり低いと言うこと?」
「「そうだ(です)ね」」
「おおう」
思わずショックからorzの体制になる。
「だ、大丈夫ですよ」
「そ、そうだよ。リリアの真価は戦闘能力じゃないから」
「う、でも……」
確かに、勉強は出来る。
前世の記憶から、知識を持つことの大切さは、身に染みて分かっていたため、貪欲に知識を求めた。
子どもの柔らかい脳のおかげか、その知識はどんどん頭の中に入ってきた。
「そのせいか、勉強だけなら学園一なのだけど、知識を使いこなせているとは言い難い……」
さらに言うならば……
「人望もあんまりない」
現に、友人と呼べる者は、ここにいる二人しかいない。
公爵家令嬢という肩書もあるのに、男どもは寄ってこない。
婚活の場と化していることから、少しは寄ってくるかなと思っていたのだが、見事によってこなかった。
女は、強力なライバルと言うことで、寄ってこないことは予想していた。逆に、嫌がらせなどがありうると思っていたが、それすらも無かったので拍子抜けしたものだ。
「なんで声をかけてくれないの? 普通に対応するよ。遠巻きにこそこそするだけって、私、どれだけ嫌われているの?」
「……ねえ、いまだ気付いてないの?」
「……みたいですね」
エヴァとカリーヌの言葉の意味も判らないまま、私は沈み込んだまま昼休みを送ることになった。
「えーっと、初めまして、カリーヌです」
「カリーヌさん? なにを言っているのですか?」
「いや、言わなければいけないような気がして……」
「? まあ、良いです。それより、リリアさんです」
「うん、なんと言うか、鈍いと思っていたのだけど、ここまでとは思ってなかったよ」
「そう……ですね。学園に入学して四年。すぐに気付かれると思っていたのですが……」
「うん。子どもの時から勉強ばっかりしていたのが、あだになっているのかな?」
「カリーヌさんは、リリアさんとは幼いころからの知り合いでしたね」
「父様が、リリアのお父様の親友だったから、その伝手でね」
「うらやましいです。私も、もっと早くお友達になりたかったです」
「勉強ばっかりしているリリアを、遊びに引きずり出す(文字通り)のが役目だったけどね……。それよりも、今のことだよ」
「そうですね。あそこまで気にしていたとは、思いませんでした」
「う~ん。リリアは、虚勢を張っているという訳ではないけど、他人に弱みを見せることをよしとしないところがあるからね」
「その弱みを見せてくれるほど信頼してくれたのはうれしいですけど、複雑です」
「どうする? 『会』に呼びかける?」
「『リリアーヌちゃんを見守る会』……ですか? 止めておいた方が、賢明でしょう」
「あー。暴走する?」
「するでしょう。百人単位で」
「押さえつけすぎたかな……」
「リリアさんに、不埒なまねをしようとしていた人を締め付けるだけのつもりだったのですが……」
「効きすぎたということね」
「消極策ですが、転入生に期待しましょう」
「あー。良いかも」
「変なうわさをふきこまれる前でしたら……」
「いける、か……」
こうして、二人の少女による、リリアーヌお友達ゲット作戦が発動される。
この行動により、彼女はすでに折れていたフラグに代わり、新たなフラグが乱立することになる。
そのフラグを折るために更なる苦労をすることになるのだが……
「さあ、リリア。いこ」
「ちょ、いこって、どこに?」
「良い所ですよ」
「良い所って、なんか嫌な予感しかしないのだけど」
「「気のせい(です)よ」」
まだ、彼女たちは知らない。
忙しすぎて、執筆する時間があんまりなかった風生です。
この話も、もともと長編予定だったのですが、時間が取れず書けないまま過ぎていくよりはと、プロローグ部分に加筆して載せることにしました。
そのうちに、連載化するかもしれませんが、今の忙しさが去ってからということになりそうです。
主人公設定
ゲーム
学園パートのボス。公爵家令嬢として、良い物を食べ、甘やかして育てられたため、肥満体に育つ。わがままな性格で、人のものを際限なくほしがる性格から、学園内では嫌われていた。だが、身分から、逆らえる者はおらず、触らぬ神に祟りなしといった風であった。体格からくるパワーはすごく、しっかりレベル上げしておかないと、パーティー全滅もありうる相手。
短編
現代日本人の記憶がよみがえったことから、自分の運命を知り、それを覆そうと努力する頑張り屋。ゲームと同じく甘やかされていたが、自我がはっきりしていたせいか、歪むことはなかった。とある一部を除いて、あまり成長していない。ゲームと同じ銀髪蒼眼だが、顔は大きく違いかわいい系の美少女。その容姿と、頑張る姿から、学園内では妹キャラとされており、非公認の『リリアーヌちゃんを見守る会』(会員数三百五十七人)がある。