Sixth.
「ハァ……」
私は森の中で、小さくため息をついた。
もうすっかり日は落ちていて、ただでさえ暗かった森の中はさらに暗くなっていた。今夜は月が出ているので昨日よりは明るいようだが、木々に遮られていたのであまり意味がなかった。
「まさか地図が間違ってたなんて……」
そう。
なぜ私が未だに森にいるかというと、なんと東の塔で覚えておいた地図が間違ったものだったのだ。
それで丸一日では森を抜け出すことができず、結局二日目(予定)に突入してしまったというわけだ。
……後で地図買って覚え直さないとな。
「……ハァ」
再びため息を漏らしながら、アイテム袋から干し肉を二枚と水の入った瓶をひとつを取り出す。すこし少ないが、これが夕食だ。
それから固い干し肉を水を飲みながらなんとか完食すると、次は寝床の問題が浮上してくる。
どこに寝ようかと結局獣道を再び歩いていると、空の色が変わらないのに少し周りが明るくなってきた。
……ちょっと待て。なんか昨日もあったぞこのパターン。
そしてやっぱり絶対に気のせいじゃない嫌な予感がする。
「……行くか」
ため息を吐きたくなるのを少し抑えて自分自身に言い聞かせるようにつぶやくと、私は光の方向に足を進める。
それから徐々に近づいていくにつれ、話し声が聞こえてきた。
……どうしよう。すごく聞き覚えがある。
とりあえず頭の中で不安要素に蓋をしてからさらに近づいていくと、案の定昨日とほとんど同じ状態で大剣さんとナイフさんが討論していた。
今回の討論の内容は……私だった。やっぱりなぁ……。
物凄くいやだけど、(面倒事の予感しかしないから)とりあえずその話はまたぶっ千切らせてもらおう。
「すいません、そこのお二方」
そう話しかけると、今度は二人とも無言で武器をつきつけてきた。
想定の範囲内のため、驚きはしない。むしろ当然の行動だろう。
「あなたは何者ですか?」
……これは少し難しい質問だ。できることなら嘘をつきたくはないし……
「そうですね……通りすがりの警告者……とでもいっておきましょうか」
「警告……?いったい何を知らせに来たんだ?」
「真に受けるんじゃありません。こんなの嘘に決まっているでしょう」
「でも話聞くぐれぇはいいんじゃねぇのか?
こいつが本当に賊の類いならこんな無防備なのもおかしいし、魔物にしたって全然魔力を感じねぇぞ。
だいたい、本当に賊か魔物ならあんな状況でじっとしてるか?
普通なら我先にと逃げ出すのが関の山だろ?」
「ぐっ……」
あ、大剣さんがナイフさん説得してくれた。ありがとうございます。
ちなみに先程の話に備考をつけると、実は『サイレントバード』という魔物はこの森の中でも二番目くらいに強かったりします。
だから人型に変身できるくらいの魔力がある魔物も大抵は戦いを避けるんです。まぁ始めから人型の魔物もいるけど……この森にはたしかいないはずだから除外。
……というより、よくそんなのから逃げられたなこの二人。
「で、警告ってどういうことなんだ?」
「……まぁ、そうですね。とりあえず火を消してください。」
「それで?」
「それだけです」
「…………」
「…………」
「(沈黙が痛い……)…突然ですが……『グランドスネーク』をご存知ですか?」
「…なぜいきなりそんな話になったのかはわかりませんが……知っていますよ。一晩で国を滅ぼしたという有名な魔物ですね」
「…………」
「実は、その有名な魔物はこの森で眠っているんですよ。」
「「……はぁ!!?」」
「ちなみに、あの山脈が『グランドスネーク』が擬態した姿です」
「ほとんど目の前じゃねーか!」
「『グランドスネーク』はこういう環境の変化に敏感に反応して起きやすくなり、今まではここらに住んでいた魔物がこういう火を消していたんですが……こうなっていると無理ですからね」
「よし、今すぐ消すぞ!」
「氷魔法を……」
「あ、消すなら水でお願いします。それも環境の変化に含まれてしまいますから」
そんなこんなで10分後。
「おし、消えたな」
「よかったです」
「……消火をしたの私ですよ」
「細かいこと気にするんなよ。老けるぞ?」
「誰のせいで……!」
「(やっぱりこの二人、意外と仲良いなぁ…)それでは、私はこれで。さような…」
「「ちょっと待った」」
ガシッと両肩を別々の手で掴まれる。
……なんとなく予測はしていたが、やはりおとなしく逃がしてはくれないようだ。そっとため息を……
「……あ」
「なんですか?またなにか……」
「どうした?何かいたの……」
……ゴゴゴゴゴゴゴ…………
「……私の錯覚かもしれませんけど…あの山脈、動いてませんか?」
「…………」
「…………」
「…………とりあえず……逃げましょうか。今のうちなら目が覚めきっていないので……早くこの森を抜け出せば、なんとかなるかもしれません」
「……そうですか…そうとわかれば、さっさと逃げますよ!」
「当然だ!こんなところで死んでたまるか!!おい、お前もボケッとしてねーでさっさとこい!」
「ちょ、私は関係な……うわあぁぁああ!!」
こうして私は大剣さんの肩に担がれ、あっというまにさらわれていったのだった。……なぜこうなった。