Fourth.
あれから、私は何の問題もなく町から出た。
警備はもともとやる気がなかったようで、注意力が散漫になっていた。……できれば、もう少し真面目に仕事をしてほしいものだ。
町から出ると草原が広がっており、そのむこうには深い森と山が見える。まだ夜が明けていないが、暗いうちに町を出ておいたほうが私には都合がいいのでそのまま薬草採取ついでに深い森に入ることにした。
普通の人なら魔物の活動が活発になる夜に、それも草原よりも遭遇しやすい森に入るのは自殺行為となるが、私はその普通に該当しないため、あまり心配はない。
暗い森の獣道を、ゆっくりとした足取りで進んでいく。
時折木々の隙間から見える小さな星空を見ながら薬草を探していると、空の色が変わらないのに少し周りが明るくなってきた。
どうやら森の中で薪を焚いてているらしく、獣道から少し外れたところから赤っぽい光が見える。
おそらく冒険者なのだろうが……なぜだろう。
あそこにいる人が、すごく嫌な目にあう気がする。
おそらく気のせいではないこの予感を伝えるべく光の方向に足を進めていると、だんだんと話し声が聞こえてきた。
……いや、話し声にしては少しばかり大きすぎるか。
なんにせよ、無用心ではあるが。
小さくため息を吐きつつさらに近づくと、木々がなくなって少し広めの空き地のようになっている場所に出た。
光源となっている焚き火はその空き地の中心にあり、焚き火を中心に魔物避けの魔法陣が描かれている。…あの巨大な生肉については気にしないことにしよう。冒険者は二人いて、その中で話し合っていた……というより、討論をくりひろげていた。
どうやら魔物の倒し方について言い合っているようだが、とりあえずその話はぶっ千切らせてもらおう。
「すいません、そこのお二方」
「!?」
「!?」
そう話しかけると、とくに声が大きかったほうの冒険者は身の丈大の大剣を、もう一方の冒険者は禍禍しい形のナイフをつきつけてきた。……どうでもいいけど、このナイフ、どこで売ってたんだろう。
「貴方はなんですか?何をしにこの森に?」
目が笑っていない笑顔でナイフをつきつけてくるナイフさん。
(とりあえず武器名を名前として呼ぶ)
一方、さっさと魔法陣に引き返していこうとする大剣さん……ってあれ?……あれはもしや………
「おい、さっさとナイフしまえよ。怯えてるじゃねえか」
「なんで仮面ごしでそんなことわかるんですか。おかしいでしょう」
「勘だよ、勘。それに、そいつまだガキじゃねぇか」
「ガキかどうかは関係ありません。ようはこの森で真夜中にたった一人でいることがおかしいんです」
「あの……すいません」
「あぁ?なに言ってやがんだよ。そこら辺のガキでも草原にたむろしてるぐれぇのヤツは棒切れで倒すぐれぇはできるだろ?」
「それはあなたの家が特殊なだけです。普通は絶対無理ですよ」
「なんだと!?」
「あの……ちょっといいですか?」
「「何だ」ですか」
「(……意外と仲良いな、この二人)ただのお節介かもしれませんけど……早く逃げたほうがいいですよ」
「いや、お前が言うことか?」
「そうですよ。この森は未熟な魔法使いがうろついていい場所ではありません」
「私はある意味特殊なので大丈夫です。……ついでに言うと、私は魔法使い見習いですらありませんよ。このマントは露店で購入したんです」
「うそつけ。魔法使いのマントが露店で売ってるわけねぇだろ?」
「なんでそんな下手な嘘をつくんですか?もしかしてわけありとか……」
「(……なんでこんな即効で否定されるかな…)あぁ……もうなんでもいいから早く……あ。」
「どうした?」
「やっと自らの非を認めたんですか?」
「……あ~あ。一応、忠告はしましたからね。
……私はもう、知りませんよ………」
「はぁ?どういうこと…………ってうわぁあああぁぁぁあぁ!!?」
あ、ナイフさんがさらわれた。
「な、なんだ!?一体なにが…………ってギャアアァァアァァァ!!」
あ、今度は大剣さんがさらわれた。というかあの状況で武器手放さないって大剣さんすごいな。
呑気に人がさらわれているところを見ていると、魔法陣の周りにはいつのまにか五羽ほどの巨大な鳥ががいた。
あれが大剣さんとナイフさんをさらった犯鳥で、『サイレントバード』という夜行性の怪鳥だ。音をさせずに飛ぶことができるため、大抵の人は狙われていても気付かない。
私が気付けたのも、一瞬だけだが姿が見えたからだ。
そのことがなければ気付くことはなかっただろう。
「……あ、薬草」
魔法陣の周りをうろうろしている『サイレントバード』から目を横に向けると、そこにはたくさんの薬草が生えていた。
これ幸いと早速懐のアイテム袋から草刈り鎌を取り出すと、私は『サイレントバード』の隣で手際よく刈り取っていった。
薬草を50本と毒消し草を20本ほど採取して草刈り鎌と一緒にアイテム袋にいれた時点でふと顔をあげると、いつのまにか10羽に増えていた『サイレントバード』がじっとこちらを見つめていた。
なにか用でもあるのだろうか……あぁ、そういうことか。
心の中でそうつぶやくと、私は立ち上がって魔法陣に近づき……魔法陣の一部を消した。これでもう魔法陣としては使えない。
おそらく、火を消したくても魔物なので魔法陣の中に入れないので、私に視線で訴えかけていたのだろう。それか魔法陣の中にある生肉目当てで。
「これで入れますよ」
「私にはこれ以上のことはできません。あとはお好きなようにどうぞ」
私はそう言って胸に手をあて、恭しく頭を下げた。
ちなみに、お辞儀のときに胸に手をあてるのはただのクセだ。
しばらくして頭をあげると、すべての『サイレントバード』があきれたように口を開けていた。
……あれ?やっぱ変?