First.
「……なにこれ」
私は誰に言うわけでも無く、つぶやいた。
私は本が大好きで、暇さえあれば本を読んで過ごす。
だから今日も、まだ読んでいない本を求めて本棚を物色していた。
そうしてしばらくして、見覚えのない背表紙の本を見つけた。
なんとなく気になり、本を手に取って椅子に腰掛けた。
本の題名は『魔物辞典』
こんなものまであるのかとすこし驚いて、何気なくページをめくると、そこには何故か一枚の紙が挟まれていた。
その紙に書かれていた文章を読んで、思わずつぶやいてしまった。
……いや、たしかに嫌われてたよ?
悪口を言われたし、魔法でよくイタズラもされた。
城の一部を崩壊させたとき、私がしたことに仕向けられたときもあった。さすがに魔法が使えないのにそんなことはできないということで、すぐに嘘だとわかったらしいけど。
いや、たしかに私には魔力が無いらしいよ?
魔力の有る無しなんてわからないけど。
誰を見てもなにも違いなんてわからないし。
いや、たしかに『欠陥王女』なんて呼ばれたよ?
でもまさか悪口じゃなくて二つ名だったとは。
それからしばらくってどういうこと?
たしか私が王様にこの東の塔に住みたいといったのは四歳の誕生日の前日で、むしろ早いと思うけど。
たしかに王様すごい乗り気で二回も了解してたよ?
この国の法律のせいで私を殺せないから、視界に入らなくなるだけでも嬉しかったのかもね。
てか王様なにやってんだ。
見馴れない本がよくあるのはこのせいか。
いつのまにか本棚増えてるのはこのせいか。
いくら魔法でどうにかなるにしても、限界がくると思うんだけど。
実用的な本があるのは嬉しいけど。
……てかなんで知ってるこの文書いた人。
私はこの塔に住むと同時に死んだことになっているはずなのに。
生きてることを知っているのは王様だけのはずなのに。
なんで王様が二つ返事で了解したことまで知ってる。
あのときは王様がちゃんと人払いをしていたのに。
なんで開かずの間に私が住んでいることを知っている?
いや、そもそもこの人はどうやってこの本に紙を挟んだ?
この人は一体、なんなんだ?
「わかんないな……」
また小さくつぶやいて、再び紙を見る。
そこには、あいかわらず飾り気の無い黒い文字が書かれている。
……このことは、もう気にしないようにしよう。
もともと私が知る情報はとても少ない。
へたな詮索は、するだけ無駄というものだ。
私はそう考えて、改めて本を読みだした。
レーゼトア王国の城には、開かずの間がある。
以前は書庫だった東の塔が、開かずの間だ。
この国のものでなくても、知る人は多い。
だが、そこは依然として『開かずの間』だ。
誰も塔には入れないし、誰にも塔は壊せない。
塔に入ることができるものは、塔に入るためだけの『鍵』を持つものか『鍵』の所有者が許可したものだけだ。
しかし、『鍵』が紛失してしまったため、誰も東の塔に入ることは叶わなくなった。
かくして、東の塔は『開かずの間』となったのだった。