半分こ ~ 勘違いから始まる、ほのぼのストーリー ~
読んでいただきありがとうございます。
今回は短めです。
「ルピタ!お前との婚約は、今日を持って破棄させてもらう」
「まあまあ、コルトどうしたの?大きな声を出しちゃって」
「だから、結婚破棄だと言っている」
「はいはい、わかりました。玄関先で話すことでもありませんから、どうぞ中へ」
「いや、これ以上だな、近づけない!」
「…………。」
「お嬢様、あの腕にぶら下げている女性は、侍女のメイアですよね…………。」
私の隣で、大きなため息をついた、侍女のサラが囁いた。
「そうね、明らかにサイズの合わないドレスに、緑色のカツラ、ある意味どこに、あんな緑のカツラがあったのかしら?」
私………デビス伯爵家のルピタは、朝早くに変装した侍女を片手にぶら下げた、幼馴染であり婚約者の、マイヤー伯爵令息のコルトに、謎の婚約破棄を告げられている。
「ルピタ!何をぼそぼそと話している、とにかくだな、俺はこのメイアいや、メープル嬢との真実の愛に目覚めたんだ、なにしろ婚約破棄だ」
マイヤー伯爵家の家業は、代々薬師の家系だ。煎じ薬やポーションを手広く手掛けていて、先日さらに事業も拡大したばかり。
なにか、仕事をお手伝いしていて、変な薬草にでもあたったのかしら?
「はいはい、承知しました。婚約は家と家との繋がりですから、私達だけでは決定できません、明日にでもみんなで話し合いましょう」
「いや、父上達にはだな、ルピタから、俺の愚行にほとほと愛想が尽きたとして、婚約を破棄してくれ」
「何を言っているんです、それではコルトとメープル様の婚約が結べませんわ。真実の愛について、ちゃんと話し合いましょう」
私の言葉を聞いて、コルトに張り付いていたメイアが、両手を上げ、そのまま地べたに張り付くように頭を下げた。
「ルピタ様~。申し訳ありません、嘘です、嘘なんです。うぅ~ううう」
メイアは、声を上げて泣き出す。
もー。コルト、大事な侍女を泣かせるなんて、後でゲンコツ。
私はメイアに歩み寄り、手を差し出す。
「大丈夫、最初からメイアだと知っていたわ、それにコルトがわがまま言ったんでしょ」
ちらりと、横で硬直しているコルトを見上げる。
「でもでもだな、婚約破棄した方がいいんだ」
「はー。どうしてそう思ったのか、ゆっくりと聞いて差し上げます」
私は、サラに目を向ける。
「はい、お嬢様。サロンに準備いたします」
私は頷くと、メイアの肩に手を置いた。
「メイアは、サラのお茶の準備を手伝ってくれる?そのドレスも着替えるといいわ」
「うぅ~。ルピタ様」
顔を上げたメイアは、涙でボロボロだ。
私は、コルトのポケットからハンカチを取り出して、メイアの顔を拭う。
「おい、ルピタ!俺のハンカチ」
コルトの伸びて来た手を、叩き落す。
「誰のせいで、メイアがこんなに泣いたと思ってるの」
「…………ごめん」
「さあ、メイア、とびきり美味しいお茶をお願い」
「はい、ルピタ様」
メイアは漸くほほ笑んで、サラの後を追う。
「さあ、コルト。どうして朝早くこんなことをしに来たか、じっくり聞くから、お茶にしましょう」
しょんぼりした様子で、私の後をついて来るコルト、どうしたのよ…………。
あんな顔、初めて見た。
サロンに向かう間に、小さく芽生えた私の不安は、どんどん大きくなる。
ソファーに腰かけても、湧き上がる不安の波に、どう話を切り出すか、考えがまとまらなくて、ぼんやりと庭を眺める私の前に、サラがティーカップを置く。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
サラの声に、弾かれたように庭から眼を戻すと、コルトの若葉色の瞳と眼があった。
ずっと黙り込んでいる私を、真っ直ぐ見つめている。
はあ。あの時と同じね。
「ねえ、コルトあの時のこと覚えてる?」
「あの時?」
「うん、まだ5歳くらいだったかしら?二人で迷子になった時」
「覚えてる」
迷子と言っても、マイヤー伯爵家の大きな薬草園と林をかけずりまわって遊んでいるうちに、帰り道がわからなくなっただけなのだけど、小さな私達には一大事だった。
夕方になり、どんどん空が暗くなる中で、泣きそうな私の手を握り。
コルトは、小川の水車小屋を見つけて中に入る。
小屋の中には農具や麻袋があり、ふたりで袋を広げて座った。
歩き疲れて、足がジンジンする。
「僕がついてるから、朝までここに居よう、夜は野犬が出るから」
「うん」
私はコルトと繋いだ手の上に、反対の自分の手を重ねる。
「コルト、手が冷たいよ」
「少し、寒かったからな」
コルトが、重なる私達の手に、ハアーっと息を吹きかける。
「夜はもっと寒くなるかな…………。」
小屋を見回したコルトは、棚の上にある大きな麻袋を、ジャンプして引きずり下ろす。
「少し埃っぽいけど、無いよりましだろ」
コルトは自分も、私の横にぴったりと座り、二人の肩に袋をかけて体を包む。
「あったかいね」
コルトの体温が、伝わってきて暖かい。
…………。
グ~。
コルトのお腹の虫が鳴く。
「ふふふ。お腹空いたね…………そうだ!」
私はポシェットの中に、サラがクッキーを入れてくれたのを思い出した。
包みを開けると、チョコチップクッキーが1枚。
「コルトこれ食べて」
クッキーを、コルトに差し出す。
コルトはクッキーを受け取り、パカっと半分に割った。
「じゃあ、半分こだ」
コルトは、クッキーの半分を自分の口に放り込み、残りを私に差し出す。
「いいよ、コルト食べて、お腹空いたでしょ」
「何言ってるんだ、こんな時は半分こに、決まってる」
コルトは、私の口にクッキーを押し当てる。
押し負けた私は、モグモグとクッキーを食べて飲み込んだ。
「美味しいだろ」
「うん。美味しい」
それから私達は、暗闇の中で、いろんな話をして過ごした。
話の途中で、私は眠ってしまったけれど、コルトは眠る私をしっかり抱えて、木の棒を両手で握り、構えたまま座っていたと、後でお母様から聞いた。
…………そうよ、あの日から、私はずっとコルトのことが好き。
「コルト!」
黙り込んでいた私が、突然大きな声を出したから、コルトの肩がビクリと揺れる。
「はい!」
「私はコルトが大好きです。あの日からずっと、コルトと生きていくって、決めていたわ、今までだって、なんでも相談して乗り越えてきたじゃない」
「うん」
「コルト、半分こって言ったじゃない、一緒に生きていくんだもん、良いことも悪いことも半分こじゃないの?」
「…………。」
「私のこと、嫌いになったの?」
「嫌いになんかならない」
「じゃあ、なんで婚約破棄なのよ~。コルトが大好きなのに!」
ついに私の両眼から、涙が溢れでた。
慌てたコルトは、直ぐに私の隣に座り、両手で涙を拭う。
「ごめん、俺の説明が足りないばかりに、ルピタを不安にさせた」
コルトが私を抱きしめようとすると、風圧と共に、コルトの頭に扇子が振り下ろされる。
!!!ヒルダ様。
「いったー。母上どうして、いきなり叩くのですか?」
「もー。夕べから、ガタガタ何かをしていると思えば、朝早くから出かけた上に、ルピタ泣かせてるじゃないの!叩かれて当然よ」
「そうだな、何がどうしたらこうなる」
「父上!」
振り返ると、コルトの両親の後ろには、私のお父様とお母様もいる。
「コルト君、まずは今の状況を説明してもらえるかな?朝から我が家の玄関が、にぎやかだったからね」
サラとメイアが、人数分の新しい紅茶を持ってやってきた。
お母様が皆に席を勧める。
「ほら、ちょうど紅茶も届いたことだし、座って話しましょうかね」
お母様達が向かい合うソファーにそれぞれ座ると、サラが座面だけの小さなベンチを持ってきて、私とコルトはそこに並んで座る。
「さあ、コルト君どうぞ」
お父様に促され、深刻な面持ちで、コルトが話し始めた。
「昨晩、俺は両親が破産寸前だと話しているのを聞いたんだ」
……………………。
「がはははは。何を言ってるんだうちの息子は、我がマイヤー家が破産するはずなど無い、お前も手伝っているのだから知っているだろう」
「父上!昨晩、執務室で母上と話している声を、確かに俺は聴いたんです、だから…………だからそんな破産寸前のマイヤー伯爵家に、大事なルピタを迎えるわけにはいかないと、婚約破棄を決心したのに」
「はははっははは、面白いなコルト君」
「ふふふふ。それで朝の騒ぎなのね」
今度は、私の両親が笑い出す。
キョトンとする私とコルトを他所に、両親達の話に花が咲く。
「まー本当に若いって、かわいらしいわね」
「いやいや、そんな勘違いとは」
ヒルダ様が、扇をパチンと鳴らす。
「あーわかったわ~。貴方、夕べ砂漠の国のハサン様の荷物がもうじき届くと、話をしたじゃない、それをコルトは、聞き間違えたんじゃないの?」
「あー。話したな、もうすぐ届くと」
「いえね、私の友人が異国に嫁いだのですけれど、その国は砂漠が多い国で、旦那様の名前は、ハサン・アリー・モハマド様と言うのです、その国で薬師をしておいでなの」
「やはり異国には、その国に古くからある我が国にはない材料が沢山ありますからな~」
叔父様が、おひげをガシガシと撫でる。
「その砂漠の国には、サソリという、虫みたいな生き物がいるのですけど、毒針を持ってますの」
「やあ薬も量や、使い方を間違えれば、毒になると言いますが、そのサソリは塩ゆでにして乾燥させ、粉末にするとしびれを止める薬として、砂漠の国では使われているのだと聞きましてな、それを取り寄せることにしたのです」
「遠い国なので、なかなか荷物が届かなかったのですけど、漸く隣国にまで到達したとの知らせが昨日ありましてね」
「ほう、しびれに効く薬なのですか」
「まあ、物を確認してみないとわかりませんが、私も薬師の端くれ、いろんなものに興味がありましてな」
「粉で来るのですか?それともサソリそのままで、送られてくるのですか?」
「どちらも送ってくれるそうです」
「まあ、一度異国の生き物を見てみたいわ」
「届いたら直ぐに連絡しますわね」
両親達の話を聞きながら、フリーズしているコルトの手を握る。
「俺の、聞き間違い?」
「どうやら、そうみたいね。ふふ」
コルトが、いきなり私を抱きしめた。
「あーーー。ごめん。俺のとんだ勘違いで、ルピタを泣かせた、不安にさせた!」
コルトの腕に、どんどん力が入る。
「おい、コルト君。よく私の前で、娘をそんなにガッシリ抱きしめられるものだな」
「まあまあ、貴方。今日は大目に見てあげましょうよ」
「あらあら本当に、家の息子がすみません、ルピタが大好きすぎて…………。」
ヒルダ様はもう一度、コルトの頭に扇を振り下ろした。
かなりいい音がしたが、コルトはびくとも動かない。
クスクス笑いながら、お母様が立ち上がる。
「皆さんお腹が空きませんか?そろそろお昼の時間ですし、ダイニングに、ランチを準備させていますので、ご一緒にいかがでしょう」
「やーこれはありがたい、お言葉に甘えさせていただきます」
「シェフ自慢の、ローストビーフを準備しましたのよ」
「まあ。デビス伯爵家のローストビーフは絶品ですものね」
賑やかに話しながら、両親達はサロンを出て行く。
……………………。
「コルト」
「ルピタ」
漸く、私を抱きしめる腕を緩めたコルトと、手をつなぎ見つめ合う。
「これからはちゃんと話してね」
「うん。勝手に判断しないで、ちゃんと話し合う」
「良いことも、悪いことも」
「美味しいものも、不味いものも」
「嬉しいことも、悲しいことも」
「楽しいも、苦しいも」
「幸せも、不幸も」
私は、テーブルからクッキーを、一枚摘んで半分に割った。
「「みんなみんな、半分こ」」
ふたりで、クッキーを頬張って笑う。
手をつないで、みんなが待つダイニングに向かった。
~ 終わり ~
(#^.^#)




