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半分こ  ~ 勘違いから始まる、ほのぼのストーリー ~

掲載日:2026/10/16

読んでいただきありがとうございます。

今回は短めです。

「ルピタ!お前との婚約は、今日を持って破棄させてもらう」


「まあまあ、コルトどうしたの?大きな声を出しちゃって」


「だから、結婚破棄だと言っている」


「はいはい、わかりました。玄関先で話すことでもありませんから、どうぞ中へ」


「いや、これ以上だな、近づけない!」


「…………。」


「お嬢様、あの腕にぶら下げている女性は、侍女のメイアですよね…………。」


私の隣で、大きなため息をついた、侍女のサラが囁いた。


「そうね、明らかにサイズの合わないドレスに、緑色のカツラ、ある意味どこに、あんな緑のカツラがあったのかしら?」


私………デビス伯爵家のルピタは、朝早くに変装した侍女を片手にぶら下げた、幼馴染であり婚約者の、マイヤー伯爵令息のコルトに、謎の婚約破棄を告げられている。


「ルピタ!何をぼそぼそと話している、とにかくだな、俺はこのメイアいや、メープル嬢との真実の愛に目覚めたんだ、なにしろ婚約破棄だ」


マイヤー伯爵家の家業は、代々薬師の家系だ。煎じ薬やポーションを手広く手掛けていて、先日さらに事業も拡大したばかり。


なにか、仕事をお手伝いしていて、変な薬草にでもあたったのかしら?


「はいはい、承知しました。婚約は家と家との繋がりですから、私達だけでは決定できません、明日にでもみんなで話し合いましょう」


「いや、父上達にはだな、ルピタから、俺の愚行にほとほと愛想が尽きたとして、婚約を破棄してくれ」


「何を言っているんです、それではコルトとメープル様の婚約が結べませんわ。真実の愛について、ちゃんと話し合いましょう」


私の言葉を聞いて、コルトに張り付いていたメイアが、両手を上げ、そのまま地べたに張り付くように頭を下げた。


「ルピタ様~。申し訳ありません、嘘です、嘘なんです。うぅ~ううう」


メイアは、声を上げて泣き出す。


もー。コルト、大事な侍女を泣かせるなんて、後でゲンコツ。


私はメイアに歩み寄り、手を差し出す。


「大丈夫、最初からメイアだと知っていたわ、それにコルトがわがまま言ったんでしょ」


ちらりと、横で硬直しているコルトを見上げる。


「でもでもだな、婚約破棄した方がいいんだ」


「はー。どうしてそう思ったのか、ゆっくりと聞いて差し上げます」


私は、サラに目を向ける。


「はい、お嬢様。サロンに準備いたします」


私は頷くと、メイアの肩に手を置いた。


「メイアは、サラのお茶の準備を手伝ってくれる?そのドレスも着替えるといいわ」


「うぅ~。ルピタ様」


顔を上げたメイアは、涙でボロボロだ。


私は、コルトのポケットからハンカチを取り出して、メイアの顔を拭う。


「おい、ルピタ!俺のハンカチ」


コルトの伸びて来た手を、叩き落す。


「誰のせいで、メイアがこんなに泣いたと思ってるの」


「…………ごめん」


「さあ、メイア、とびきり美味しいお茶をお願い」


「はい、ルピタ様」


メイアは漸くほほ笑んで、サラの後を追う。


「さあ、コルト。どうして朝早くこんなことをしに来たか、じっくり聞くから、お茶にしましょう」


しょんぼりした様子で、私の後をついて来るコルト、どうしたのよ…………。


あんな顔、初めて見た。


サロンに向かう間に、小さく芽生えた私の不安は、どんどん大きくなる。


ソファーに腰かけても、湧き上がる不安の波に、どう話を切り出すか、考えがまとまらなくて、ぼんやりと庭を眺める私の前に、サラがティーカップを置く。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


サラの声に、弾かれたように庭から眼を戻すと、コルトの若葉色の瞳と眼があった。


ずっと黙り込んでいる私を、真っ直ぐ見つめている。


はあ。あの時と同じね。


「ねえ、コルトあの時のこと覚えてる?」


「あの時?」


「うん、まだ5歳くらいだったかしら?二人で迷子になった時」


「覚えてる」


迷子と言っても、マイヤー伯爵家の大きな薬草園と林をかけずりまわって遊んでいるうちに、帰り道がわからなくなっただけなのだけど、小さな私達には一大事だった。


夕方になり、どんどん空が暗くなる中で、泣きそうな私の手を握り。


コルトは、小川の水車小屋を見つけて中に入る。


小屋の中には農具や麻袋があり、ふたりで袋を広げて座った。


歩き疲れて、足がジンジンする。


「僕がついてるから、朝までここに居よう、夜は野犬が出るから」


「うん」


私はコルトと繋いだ手の上に、反対の自分の手を重ねる。


「コルト、手が冷たいよ」


「少し、寒かったからな」


コルトが、重なる私達の手に、ハアーっと息を吹きかける。


「夜はもっと寒くなるかな…………。」


小屋を見回したコルトは、棚の上にある大きな麻袋を、ジャンプして引きずり下ろす。


「少し埃っぽいけど、無いよりましだろ」


コルトは自分も、私の横にぴったりと座り、二人の肩に袋をかけて体を包む。


「あったかいね」


コルトの体温が、伝わってきて暖かい。


…………。


グ~。


コルトのお腹の虫が鳴く。


「ふふふ。お腹空いたね…………そうだ!」


私はポシェットの中に、サラがクッキーを入れてくれたのを思い出した。


包みを開けると、チョコチップクッキーが1枚。


「コルトこれ食べて」


クッキーを、コルトに差し出す。


コルトはクッキーを受け取り、パカっと半分に割った。


「じゃあ、半分こだ」


コルトは、クッキーの半分を自分の口に放り込み、残りを私に差し出す。


「いいよ、コルト食べて、お腹空いたでしょ」


「何言ってるんだ、こんな時は半分こに、決まってる」


コルトは、私の口にクッキーを押し当てる。


押し負けた私は、モグモグとクッキーを食べて飲み込んだ。


「美味しいだろ」


「うん。美味しい」


それから私達は、暗闇の中で、いろんな話をして過ごした。


話の途中で、私は眠ってしまったけれど、コルトは眠る私をしっかり抱えて、木の棒を両手で握り、構えたまま座っていたと、後でお母様から聞いた。


…………そうよ、あの日から、私はずっとコルトのことが好き。


「コルト!」


黙り込んでいた私が、突然大きな声を出したから、コルトの肩がビクリと揺れる。


「はい!」


「私はコルトが大好きです。あの日からずっと、コルトと生きていくって、決めていたわ、今までだって、なんでも相談して乗り越えてきたじゃない」


「うん」


「コルト、半分こって言ったじゃない、一緒に生きていくんだもん、良いことも悪いことも半分こじゃないの?」


「…………。」


「私のこと、嫌いになったの?」


「嫌いになんかならない」


「じゃあ、なんで婚約破棄なのよ~。コルトが大好きなのに!」


ついに私の両眼から、涙が溢れでた。


慌てたコルトは、直ぐに私の隣に座り、両手で涙を拭う。


「ごめん、俺の説明が足りないばかりに、ルピタを不安にさせた」


コルトが私を抱きしめようとすると、風圧と共に、コルトの頭に扇子が振り下ろされる。


!!!ヒルダ様。


「いったー。母上どうして、いきなり叩くのですか?」


「もー。夕べから、ガタガタ何かをしていると思えば、朝早くから出かけた上に、ルピタ泣かせてるじゃないの!叩かれて当然よ」


「そうだな、何がどうしたらこうなる」


「父上!」


振り返ると、コルトの両親の後ろには、私のお父様とお母様もいる。


「コルト君、まずは今の状況を説明してもらえるかな?朝から我が家の玄関が、にぎやかだったからね」


サラとメイアが、人数分の新しい紅茶を持ってやってきた。


お母様が皆に席を勧める。


「ほら、ちょうど紅茶も届いたことだし、座って話しましょうかね」


お母様達が向かい合うソファーにそれぞれ座ると、サラが座面だけの小さなベンチを持ってきて、私とコルトはそこに並んで座る。


「さあ、コルト君どうぞ」


お父様に促され、深刻な面持ちで、コルトが話し始めた。


「昨晩、俺は両親が破産寸前だと話しているのを聞いたんだ」


……………………。


「がはははは。何を言ってるんだうちの息子は、我がマイヤー家が破産するはずなど無い、お前も手伝っているのだから知っているだろう」


「父上!昨晩、執務室で母上と話している声を、確かに俺は聴いたんです、だから…………だからそんな破産寸前のマイヤー伯爵家に、大事なルピタを迎えるわけにはいかないと、婚約破棄を決心したのに」


「はははっははは、面白いなコルト君」

「ふふふふ。それで朝の騒ぎなのね」


今度は、私の両親が笑い出す。


キョトンとする私とコルトを他所に、両親達の話に花が咲く。


「まー本当に若いって、かわいらしいわね」


「いやいや、そんな勘違いとは」


ヒルダ様が、扇をパチンと鳴らす。


「あーわかったわ~。貴方、夕べ砂漠の国のハサン様の荷物がもうじき届くと、話をしたじゃない、それをコルトは、聞き間違えたんじゃないの?」


「あー。話したな、もうすぐ届くと」


「いえね、私の友人が異国に嫁いだのですけれど、その国は砂漠が多い国で、旦那様の名前は、ハサン・アリー・モハマド様と言うのです、その国で薬師をしておいでなの」


「やはり異国には、その国に古くからある我が国にはない材料が沢山ありますからな~」


叔父様が、おひげをガシガシと撫でる。


「その砂漠の国には、サソリという、虫みたいな生き物がいるのですけど、毒針を持ってますの」


「やあ薬も量や、使い方を間違えれば、毒になると言いますが、そのサソリは塩ゆでにして乾燥させ、粉末にするとしびれを止める薬として、砂漠の国では使われているのだと聞きましてな、それを取り寄せることにしたのです」


「遠い国なので、なかなか荷物が届かなかったのですけど、漸く隣国にまで到達したとの知らせが昨日ありましてね」


「ほう、しびれに効く薬なのですか」


「まあ、物を確認してみないとわかりませんが、私も薬師の端くれ、いろんなものに興味がありましてな」


「粉で来るのですか?それともサソリそのままで、送られてくるのですか?」


「どちらも送ってくれるそうです」


「まあ、一度異国の生き物を見てみたいわ」


「届いたら直ぐに連絡しますわね」


両親達の話を聞きながら、フリーズしているコルトの手を握る。


「俺の、聞き間違い?」


「どうやら、そうみたいね。ふふ」


コルトが、いきなり私を抱きしめた。


「あーーー。ごめん。俺のとんだ勘違いで、ルピタを泣かせた、不安にさせた!」


コルトの腕に、どんどん力が入る。


「おい、コルト君。よく私の前で、娘をそんなにガッシリ抱きしめられるものだな」


「まあまあ、貴方。今日は大目に見てあげましょうよ」


「あらあら本当に、家の息子がすみません、ルピタが大好きすぎて…………。」


ヒルダ様はもう一度、コルトの頭に扇を振り下ろした。


かなりいい音がしたが、コルトはびくとも動かない。


クスクス笑いながら、お母様が立ち上がる。


「皆さんお腹が空きませんか?そろそろお昼の時間ですし、ダイニングに、ランチを準備させていますので、ご一緒にいかがでしょう」


「やーこれはありがたい、お言葉に甘えさせていただきます」


「シェフ自慢の、ローストビーフを準備しましたのよ」


「まあ。デビス伯爵家のローストビーフは絶品ですものね」



賑やかに話しながら、両親達はサロンを出て行く。


……………………。


「コルト」


「ルピタ」


漸く、私を抱きしめる腕を緩めたコルトと、手をつなぎ見つめ合う。


「これからはちゃんと話してね」


「うん。勝手に判断しないで、ちゃんと話し合う」


「良いことも、悪いことも」


「美味しいものも、不味いものも」


「嬉しいことも、悲しいことも」


「楽しいも、苦しいも」


「幸せも、不幸も」


私は、テーブルからクッキーを、一枚摘んで半分に割った。


「「みんなみんな、半分こ」」


ふたりで、クッキーを頬張って笑う。


手をつないで、みんなが待つダイニングに向かった。



~ 終わり ~





(#^.^#)

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