蚕の中
蚕の幼虫に産みつけられた寄生虫。それが彼だ。
彼はその身を包んでいた卵から出ると、目の前に広がる光景に歓喜した。
幾ら食っても無くならないであろう、柔らかな肉や臓器。止めどなく流れ続ける、翡翠色の体液。
彼は酒など知らないが、まさに酒池肉林の楽園であると実感し、生まれて初めての感傷に浸る間もなく、暴飲暴食の愉楽を享受するべく、多肢五体を投げ出したのである。
それから数ヶ月がたった頃の彼の様子は、以前とは打って変わって、つまらなそうにしていた。
もちろん、宿主は彼がその中に居座っていることを除けば健康であるし、成長につれ、肉はさらに肥えていた。
しかし、彼はその目の前に広がる肉の山を、今はただ、水道水を飲むように咀嚼していた。
そして「若い頃の肉は美味かったな」と呟くのだ。
宿主が蛹に籠って動かなくなると、彼は、宿主の身の肉が硬く、不味くなる前に全て喰らい尽くし、宿主がそうしたように、次なる進化を待つことにした。次の世界はこんなにつまらなくはないだろう、きっと見知らぬ素晴らしい世界が広がっているのだろうと期待を込めて。
やがて、その時は来た。彼はかつて宿舎が組み上げた蛹を破り、外の世界をついに見た。
煌々と世界を照らす太陽、終わりなく続く草原に、色とりどりの花の数々、そして、宿主の気門を介さない、外界の空気を。
そして彼はこう呟いた。
「やっぱり、あの頃は良かったなぁ」




