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呪いと祝福、そして人の話  作者: 灰色
本編 ファイル1 呪いと祝福
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ファイル1 呪いと祝福8

 透に名前を呼ばれ、係員に連れて来られた紀子は成美の両親と入れ替わり被害者席に着くと、清花を見て小さく笑った。

「驚いた?」

「いえ・・・途中から気付いてました」

「そう? 裁判が始まる前、私の所には月白先生しか来ないから驚いちゃったわ」

「それに関しては自分の力不足です。先生はヒントをくれていたけど気付かなかった」

「まぁ、初めてだしいいんじゃない? むしろ先生が異常なんだと思うわよ」

 二人の間に正幸が割って入る。その手には成美の遺品のキーホルダーがあった。

 紀子がスマホに着けている物と非常に似ており、可愛くデフォルメされた羽の生えた豚型のキーホルダーで、豚の胸には大きなハートマークがあった。成美は水色、紀子のは赤色をしている。

「これをどうぞ。出来るだけそのままにしてあります」

 紀子の差し出した手に、正幸が丁寧にキーホルダーを置いた。

「ありがとう。お帰り・・・成美」

 遺品を受け取った紀子は手に取ると、愛おしそうに見つめた。両親とはまるで違う反応がそこにはある。

「あの、吉川先輩」

「何?」

「それ、呪想具として使うとこうなるけど、大丈夫?」

 と、清花がチョーカーに着けている、黒ずんだ小鳥型のキーホルダーを見せた。

「ああ、それ見た時に気になったけど、やっぱりそうなんだ?」

「はい、これは私が中学時代の時の親友の物です。親友はイジメで自殺しました。その時、私が呪罰を行う立場で・・・イジメていた三人を呪い殺したの」

 静かだった周辺が再び騒めきだした。ピンマイクを通して基本的に全ての会話は聞こえるように流れている。

 暫く炭のように黒くなった小鳥型のキーホルダーを見つめた紀子が口を開く。

「天海さんは、それを見てどう思う? 辛いとか、やるんじゃなかったとか思ってる?」

 清花は紀子の指摘に笑顔で答える。

「いえ、誇らしいと思ってる」

 そう言うと、再びチョーカーを首に巻いた。

「だよね。ありがとう、気を使ってくれて。大丈夫だから」

 紀子も笑顔で答え、清花と正幸は自分の席へと戻っていく。二人が席に着くと、透は声が入らないようにピンマイクを手で押さえ、小声で話しかけた。

「二人とも落ち着いたか?」

 二人は小さくハイと答え頷く。

「その・・・吉川先輩の事に気付かなくて、すみませんでした。先生は最後まで忘れ物は無いかと聞いてくれたのに」

「気にしなくていい、初めてだからな。仮に気付いても言いにくい事もある。次に生かすといいよ」

 透は二人を責めず、優しく微笑んだ。清花と正幸はそんな透を見て改めて頷く。

「さて、ここからは天海さん。君の好きな物が見れるぞ。薄偽りない本音ってやつだ」

「どうして先生それを知ってるの?」

「彩織ちゃんから君の事は聞いてたからな」

 と、そこで透は前へ向き直り、ピンマイクから手を外すと場内へ向けて口を開いた。

「吉川紀子さん、もし何か言いたい事があるのなら、言ってほしい」

「はい、まず月白先生たちに謝りたい事と、成美から月白先生に伝言を預かってます」

 紀子が裁判長席の方を向いた。

「本当は成美のおじさんとおばさんが浮気している事を知っていました。成美本人から聞いて。ただ・・・成美が殺される前くらいに電話が来て、その事は裁判が始まるまで黙っているように言われたんです。先生たちが自力で知ったのならいいけど、そうじゃないなら本番で暴露してほしいって」

「なるほど。確かに、この場で急に暴露されればインパクトは強いな。しかし、俺が呼びに行かなかったらどうしてたんだ?」

「その時は成美との最後の会話を録音していたので、その証拠を持ってカレスに行って、自分が被害者席に立つ予定だった。ただ、成美は先生なら絶対に私を呼びに来るって確信してたみたいだけど。それと月白先生へ成美から伝言が一言」

「それは?」

「・・・ありがとうって。それだけ」

「分かった。確かに受け取ったよ」

 そこまで言うと、紀子は加害者席にいる成美の両親の方へ向いた。

「さて・・・」

 高志はすでに落ち着きを取り戻しているが、両親は怯えた表情で顔をうつ伏せている。

「おじさんとおばさん、さっきも言ったけど成美は二人が不倫してた事知ってたよ。家が地獄みたいだって言ってた。家に帰れば当たり障りのない会話しかない。自分の事を聞いてくるけど、それは自分たちの事を聞かれてバレるのが嫌だって丸わかりだったって」

「・・・」

 両親は黙って紀子の言葉に耳を傾けていた。

「離婚しないのも、幸せそうな家族の振りしてるのも、自分の為じゃなく、まるで自分のせいだって言われてみたいで家に帰りたくないって。ただ野村先生には本当に感謝してた。野村先生だけは下心とかなく、親身にしてくれた。先生のそばが一番落ち着けて居心地が良かったって」

「でも僕は・・・彼女を裏切っていた」

「うん、婚約者の事だよね? それは流石に成美もショックを受けてた。でも、やっぱり先生の事が好きだって、今先生のそばを離れるのが怖いって。親友を前にして言うんだもの、ちょっと妬けちゃったわ」

「成美さんはそんなに僕の事を・・・」

「でも野村先生、私は貴方を殺すから。今なら成美が何を求めているか分かるからね。先生、成美は本当に先生の期間が終わったら別れる気でいたの。だから夜の公園で先生に会ったのは成美にとって賭けだったんだ」

「賭け?」

「そう、そしてその賭けに成美は勝った。だって先生、成美の事、もう忘れられないでしょ? それがあの子の望みだった。そして私は先生を成美の傍に送らないといけない・・・あの子が寂しくならないように」

「そうか・・・分かったよ。後の事は君に任せる。吉川さん、こんな役目をさせてしまって本当にすまない。もし彼女に会えたら何か伝える事はあるかい?」

「・・・バカって伝えといて」

 高志はどこか達観した表情で分かったとだけ答えた。

「月白先生、おじさんとおばさんはどうなるの?」

「そうだな。今回直接を手を下したのは野村さんになる、だから君が呪い殺せるのは彼のみだろう。両親に関しては上原さん次第。呪いは勿論死んだ人の想いも連鎖する。もし、死んでほしいくらい恨んでいたら死ぬし、そうじゃないならそれ以外の何か。そもそも恨んでいないなら何も起こらない」

「そっか、じゃあそこは成美に任せようかな」

「呪殺に関しては1日から3日で選べる。そこは好きにしていい」

 すぐ死なないのは、死への恐怖を思い知らせるためだった。呪いによる呪殺の場合は、裁判が終わり次第独房に収監される。死ぬ事が分かってやけを起こさせないために。

「それでこれってどうすればいいの? テレビとかで見てるけど、実際使うとなると分からなくて」

 紀子が透の方を向いて聞いた。正幸が答える。

「使い方は簡単で、それを握ってもいいし手に触れなくてもいい。願いを込めれば、それで世界は呪いを形成して呪罰が完了します」

「なるほど、本当に簡単なんだね。じゃあ早速・・・」

 紀子は成美の遺品であり、友情の証であり・・・今な呪想具となってしまったキーホルダーを握り絞めると目を閉じた。思い出されるのは幼馴染として一緒に過ごした日々に、喧嘩して、そして最後に仲直りをした瞬間だった。

「・・・成美、貴女の願いを叶えるよ・・・でも、本当はもっと一緒に居たかったな」

 そう呟いた時、呪想具が黒い光を放ち、消えたと思った瞬間、成美の両親と高志の身体の中心から黒い光が放たれて消えた。

「あぁああぁあ! あ、足が・・・私の足が!」

 苦悶の表情で叫んだのは成美の両親だった。両親の両足が黒く変色し、全く動かなくなっていた。

 もう、どこへも自由に行かせる事はしない。それが成美の両親への願いだった。そして高志の両腕が炭のように黒なり、手の甲には数字の1が白い文字で浮かんでいた。

 呪殺対象は基本的に両腕など、分かりやすい場所が黒く変色し、死ぬまでの日数が白く数字で表示される。自分の変わり果てた両腕を見ても、高志は言葉一つ発せずただ静かにそれを受け入れていた。

 紀子は真っ黒になった成美のキーホルダーを見つめると、自分のスマホに着けた。満足そうだが、同時にどこか寂しそうな表情でもあった。

「・・・」

 そんな様子を清花はチョーカーを指でさすりながら無言でうっとりとした表情で眺めていた。そこには清花が求めいたあらゆる感情があった。建前のない、嘘偽りのない人としての心そのものだった。

 暫く様子を見届けると、透が立ち上がる。それを見て清花と正幸も立ち上がった。

「呪罰は執行されました。ここまで協力してくれた全ての人に感謝を、そして少しでも傷ついた方の慰めになる事を願います」

 透の凛とした声が裁判場に響き渡り、三人が深く頭を下げる。こうして上原成美の呪罰裁判は終わりを告げた。

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