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創世のオラクルム  作者: 甘味料
第一章
3/9

1-3 特別

夕暮れ時、空はわずかに赤く染まり、太陽がゆっくりと地平線に沈みつつあった。西の空には、まるで燃え上がるような赤い光が残り、空気がひんやりと冷たくなってきていた。


アトランティア帝国の小さな村の外れにある、木々が生い茂る静かな修行場。そこにはルクスがひとり、集中した様子で体を動かしていた。村の人々は既に家々に帰り、家の明かりがぽつぽつと灯り始めている。しかし、ルクスは気にすることなく、ただひたすらに動き続けていた。


「...まだ足りない。」


自分の呼吸を感じながら、ルクスは手のひらを前にかざし、わずかな風を感じ取る。ルクスの修行は、普通の業とは一線を画していた。彼は体術、剣術、そして精緻な技術を駆使した手順を一つ一つ繰り返し、その中で思い悩んだり、時折足を止めたりしている。しかし、そんな時も心の中で常に「特別業スペキアーリス・ファクルタス」という言葉が浮かんでは消え、心を圧迫していた。あの時叔父さん自然系、付与系、、”特別業スペキアーリス・ファクルタス”っていってたよな


ルクスが黙々と剣を振り下ろす。風を切る音が響き、汗が流れる。普通の業を使いながら、彼は思索の中でエレティクの教えを反芻する。


その時は突然訪れた


修行が続く中、少しずつルクスの体力が限界に近づき、怒りや悔しさ、そして力を思い切り込めようとしたとき彼の手に力が入りすぎ、剣が砕けそうになる。

ルクスは驚き、汗を拭いながら再び気を取り直して剣を握り直そうとするが彼の体にふとした違和感が走った。


右手に感じる、微かな光。それと同時に、左手に伝わってきた、ひんやりとした闇の感覚。その違和感が、彼にとっては初めてのものだった。


その瞬間、ルクスははっと息を呑んだ。

心臓が一瞬、鼓動を早め、すべての動きが止まる。

右手が淡く輝き、左手が深い闇に包まれていく。ふと手を見ると


右手が光っていたのだ!


それだけではない

左手は夜の暗闇よりも深い闇に染まっていたのだ。


「こ、これは、、、」


僕はその時もう一度あの言葉を思い出した ”特別業スペキアーリス・ファクルタス


特別業スペキアーリス・ファクルタスだ!!!」


”エレティクに会わなければ”


僕はいつもの広場に向かった。風を強く感じて走った。


両手はいまだに異様な見た目をしていたが


「叔父さん!!」


「叔父さんって呼ぶのはいいんだが、

人前ではそうだなラートって呼んでく.......ってその手は、どうした」


エレティクは一瞬、言葉を飲み込んだ。目を閉じ、まるで思い出したかのように顔をしかめ、深く息を吐いた。


「……そうか。

お前もまた、 “選ばれた”か。」


その言葉が、ルクスの胸に鋭く突き刺さった。それは、恐れでもなく、喜びでもなく、ただひたすらに重く、深い意味を持つ言葉だった。


しばらく黙っていたエレティクが、ゆっくりと顔を上げる。彼の目には、長年隠してきた感情がわずかに滲んでいるのを、ルクスは見逃さなかった。


「しかし……まさか、そんな業を。この世界は、やはり――いや何でもない」


「お前は、この力を持っている限り、逃げることはできない。」エレティクは低い声で続けた。「それをどう使うかは、お前次第だが、まずは世界を知るべきだ 世界は広い。」


ルクスは少し息を呑んだ。ここから先、何が待ち受けているのか、まだ見当もつかない。でも、叔父さんの言葉には力があった。ルクスは無意識のうちに頷いていた。


「お前がそれを背負う覚悟ができたのなら、共に行こう。」エレティクの声は、どこか覚悟を決めたようなものに変わっていた。「お前がその力を持っていることには、必ず意味がある。だが、今はそれを無駄にしないために、知識を集めることが先決だ。」


ルクスは黙って頷き、決意を新たにした。これから何が待ち受けているのか、まだ全ては分からないが、この力をどう扱うかは、彼自身の手の中にある。


「行こう、ルクス。世界はお前を待っている。」エレティクは、ゆっくりと歩き出した。


その言葉に、ルクスは心からの答えを返す。


「はい、、」


ルクスは、エレティクとともに旅に出る決意を固めたが、その前にどうしても済ませておかなければならないことがあった。家に帰り、静かな部屋に入ると、ふと立ち止まり、家族のことを思った。


「ごめん、母さん、父さん…。」


ルクスは深いため息をつきながら、机の上に置かれた紙とペンを手に取った。心の中で、どんな言葉を伝えるべきか悩む。だが、決して後悔しないように、そして何もかもを一言でまとめる覚悟を決めて、手を動かした。


彼はペンを紙に走らせ、文字を綴る。


「父さん、母さんへ。


突然のことで驚かせてしまうかもしれませんが、僕は今、旅に出ることを決めました。これから何が待ち受けているのか、何が起こるのか、まだ分かりません。けれど、これが僕にとって必要なことだと感じています。


僕が旅に出る理由は、今は言葉にできませんが、これが僕の運命なのだと信じています。もし、心配しているのなら、必ず戻ってきます。大丈夫です。


また必ず会いましょう。


ルクス」


ルクスは手紙を慎重に折り畳み、机の上に残しておいた。他に何か書き加えることはなかった。今の自分にできる最良の方法で伝えることは、それしかないと感じていた。


家族のことを考えると、胸が痛む。しかし、この決意を覆すことはできないと確信していた。手紙を置いた後、ルクスは軽く息をついた


ルクスは家を出る前、しばらく立ち尽くしていた。部屋の中には母親がよく座っていた椅子があり、父親の昔の剣が壁に掛かっている。そのどれもが、今や彼の心に重くのしかかる。家を出る決意を固めていたが、それでもまだ何かが引き止めているような気がした。


「母さん、父さん……」


と、静かな声で呟きながら、ルクスは家を出る準備を整えた。外はすでに闇に包まれ、風が強くなってきていた。月明かりが木々の間から漏れ、彼の影が長く伸びる。


「叔父さん、待たせてるな」


と心の中でつぶやき、家を出る一歩を踏み出した。その一歩が、これまでの平穏無事な日常からの離別を意味していた。今後どんな試練が待ち受けているのか、何も分からない。しかし、もう後戻りはできない。


足元の草が音を立て、ルクスは足早に広場へ向かった。途中、村の外れを過ぎると、薄暗い空気が広がり、あの時の感覚が胸に蘇った。手のひらをかざすと、あの微かな光と闇が再び感じられる。右手の光、左手の闇。どちらも彼を導く力の一部であり、決して避けることはできない。


広場にたどり着くと、そこにはすでにエレティクが待っていた。彼は一言も発さず、ただルクスを見つめている。ルクスが近づくと、エレティクは静かに頷き、言った。


「準備はできたか?」


ルクスは深く息を吸い込み、しっかりとした声で答えた。


「はい。」


「ならば、行こう。」


エレティクはそう言うと、ゆっくりと歩き始める。その後ろを追いながら、ルクスは心の中で母親と父親に別れを告げた。


――これからの旅が、彼にとってどれほど厳しいものであれ、進むべき道を歩む覚悟を決めていた。


二人の足音が夜の静けさに響き渡り、やがて森の中へと消えていった。















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