第十七話
「じゃあ、うちにでも行くか。」
目的の図書館が休館だったため、どこか勉強できる場所はないかと思っていたのだが。
まさか駿の家だなんて。というかこれ、計画的犯行か?
「家には誰もいないと思うし。」
親はいないのか。なら気を使わなくてもいいのか?
「ここから5分くらいだし、それでいいか?」
「うん。」
断る理由もなかったため、私は駿の家に行くことになった。
「お姉さんとか、家にいたりしないの?」
家に向かいながら駿に尋ねてみる。
「姉ちゃんは大学の近くで一人暮らしなんだ。隣の県だし、まず帰ってくることはない。母さんも、今日は姉ちゃんに会いに行くって言ってたし。いないはずだ。」
「大学生なんだ!」
駿のお姉さんは今年で二十歳になるようだ。歳の近い兄弟がいるなんて羨ましい。
「それに、父さんは単身赴任で西の方に行ってる。来月帰ってくるらしいからそっちも大丈夫。」
なにもおこらなければ、二人きりということか。
「駿はさ、私のこと親に話してるの?」
駿は首を横に降った。
「一方的に付き合ってもらってるわけだから、まだ言ってない。というか、母さんが冷やかしてくるだろうから面倒なんだ。」
「じゃあ、今日見つかっちゃったらどうするの…!?」
なんか、色々と緊張するんですけど!
「見つかってしまったら全部話すつもりだ。」
そう言った駿と目が合う。つまり私は「彼女」として駿の親に会うわけか…。
弱気な顔をした私を見て駿はこう続けた。
「大丈夫だ。俺は親に見せられないような女と付き合ってるつもりはないから。いつも通りのお前でいろ。」
「つまりどっちの?」
「どっちでも。自然に出た方にすればいい。」
駿はこういうときに意外としっかりしてる。
自分はせっかちで意志の強いタイプであるため、人と一緒にいる時は大概頼られる側だ。
というか、みんな決断力が無くいつまでも行動しないから「頼れない」と言ったほうが的確だ。
その点、駿は決断力も行動力も優れている。
なにかあったとしても、駿がどうにかしてくれそうと勝手に思えて、心強い。
本当の私を知っているのは、駿でよかったなと思うのであった。
「着いたぞ。ここが俺の家だ。」
駿はそう言って周りの家より一回り大きい白い家を指差した。
この辺りは都会なのに、大きな一軒家だなんて駿は金持ちの息子なのか。
「お邪魔します。」
玄関に入ると、広い廊下に繋がっていた。少し洗剤の香りが漂っており、清潔感を覚える。
「洗面所はそこだ。タオルは掛かってるのを勝手に使って。」
共に手を洗い終えると、駿の部屋に案内された。
「ここが俺の部屋だ。」
入ったその部屋は、想像の倍くらい整えられていた。
「すごい綺麗だね。男子って、みんな部屋が汚いものかと思ってた。」
「そいつらと一緒にされるのは困るな。」
駿はそう言って笑った。
よく見ると部屋には大量の参考書が置かれている。
「すごい量の参考書だね。」
私は思わず呟いていた。駿は地頭が良いのかと思っていたが、どうやら努力型らしい。
「こんなにやっても、おそらく本気を出した静羽には勝てないんだろうな。」
駿はそう言った。
といっても、駿はほとんどの教科で90点台を取っている。5教科500点中、安定して470点くらい取るらしくその実力は本物だ。
今度、外部の模試で対決しようじゃないか。
「気になる参考書でも読んでて。俺は飲み物を取ってくる。」
駿はそう言って部屋を後にした。
私は「物理基礎良問集」を手に取って、床に腰をおろした。
その瞬間、ベッドの下に何かが隠してあることに気がついた。見た感じ、雑誌の束だと思われる。
そうだ。いくら優等生の駿といえども、男子高校生だ。
表に出せないような本が隠してあってもおかしくない。
私はベッドの下に近づいてみる。間違いなく雑誌の束だ。
中を開く機会は二度とないと思われるので、私はそっと手を伸ばした…。