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第十六話

土曜日

 

「次はー、水分西みずわけにし。お出口は右側です。」


 10時に西区の駅で待ち合わせということで、私は45分ほど電車に揺られ駿の最寄り駅で降りた。 

 

 改札を出ると駿はすぐに私に気づき、手を振ってくれた。


「お待たせ。」 

 

 駿は青いチェックのシャツに黒いズボンで、頭がよさそうな雰囲気だ。 

 

 今日の私は薄水色のロング丈のワンピースに、黒いカーディガンを羽織っている。 

何となくペアルックみたいだなと思い、少し照れくさかった。 

 

「かわいいな。似合ってる。」  

  

 駿はストレートにそう言ってきた。 


「やめてよ。別になんでもいいでしょう。」 


 不意に直球の「かわいい」をくらってしまい、思わず私は赤面する。 


 そんな私の反応を見て、駿はまたクスっと笑った。 


「だから、やめてって。」 


 私もつられて笑ってしまう。 

  


「テスト前って、学校の授業も自習になる時があるだろう?あの時って静羽は何をしてるんだ?」 


 図書館までの道中で駿は私にそんなことを尋ねてきた。 


「あー。基本的にはちゃんと教科に即した自習をしてるよ?」 


 私は笑って誤魔化す。 

 

「化学基礎の時は元素記号を覚えたりとか…?」 

 

「っ…!ばれてる!」 


 前にも言ったが、教科書の内容くらい一度読めば覚えられる。そして教科書の内容は4月の授業中に読みきってしまうため、要するにに5月からはずっと暇なのだ。 


「去年の化学基礎のテスト前の自習で、静羽はずっと教科書の最後のページの元素記号表読んでただろう?」 


「それ、去年の話だよ?まさか、駿はそんな頃から私を観察してたの?」 

 

 たしかに去年の化学基礎のテスト前、勉強することがなかったため50分かけて元素記号を全て覚えた。 


 しかし、それを目撃されているとは。 

 

「引いたか…?少なくとも俺は去年のその頃からお前を見ていたけどな。」 

 

 駿はぽつりとそう言った。


 そんな前から私のことを見ていてくれたんだ。 


「別に、引いたりはしないけど…。なんか恥ずかしいね。」


 去年からということは、駿はおそらくあっちの静羽しか知らない頃から私に気があったということか。 


「ねえ。駿は、学校での私と本当の私、どっちの方が好きなの?」 

 

 好奇心でそんなことを聞いてみた。 


 あっ。さすがにこれは答えに困るか。変に気を使わせてしまうと思い私は「やっぱり何でもない」と言おうとした。 

 

「本来の静羽に決まっているだろう。」 


 駿はそう言った。 


「たしかに、好きになったのは学校での静羽だった。笑っているお前が好きだったし、たまにでも話しかけてくれると盛り上がったし。」 


 去年まで、私たちはほとんど関わりがなかった。たまに私の方から駿に声をかけて。それも優等生君と茶化した記憶ばかりだ。でもたしかに、駿に話しかける時は他の人とは違う盛り上がりがあって楽しかった気がする。 

 

「でもな、学校でのお前は、少し完璧すぎるんだよ。」

 

 駿は赤い信号が青く変わるのを眺めながらそう言った。 


「いつ誰に対しても同じ笑顔を振り撒いて、隙なんて一切ない。あっちの静羽がみんなから愛されているのは、愛されるように生きているからだ。」


 愛されるように生きているか…。


 その通りだと思った。笑顔も嘘も全部そのためだから。

 

「でも、あの笑顔が演技だってわかって正直ホッとした。あっちの側の静羽は、計算され尽くしていてもはや人間味がないから。だから俺は、本当のお前が笑ってる姿が好きなんだ。」


 核心を突いている駿の言葉にドキッとした。人間味がないか…。


 私の演技はまだまだだなと思った。


  

 そうこうしているうちに、私たちは目的の西区図書館に着いた。

 

 入り口に立てかけてある看板を見て、私たち二人は呆然とした。


 「本日休館」


 蔵書点検のため、今日から3日間休館するらしい。


 せっかくここまで来たのだし、勉強せずに帰るのはもったいない。仕方なく私は某ファストフード店を思い浮かべる。そこなら勉強できるだろう。

  

 というかちょっと待て。駿ほど隙の無い人が図書館が休館であることを知らないはずがない気がする。 

  

 あれこれ考えているうちに駿が口を開いた。


 「じゃあ、うちにでも行くか。」



 え…?

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