第十五話
駿から突然のLINEがきたのは、テスト1週間前の夜だった。
「次の土曜日空いてる?勉強教えてほしいんだけど。」
テスト前は部活がないため予定は空いてる。私はすぐに返信をした。まさか、デートより先に会えるとは。
「もちろん。場所と時間は?」
勉強を教えるか…。
中学生の頃、似たようなことに誘われた記憶がある。あの頃までは私も優等生をやっていたのでよく友達に「勉強を教えてほしい」とせがまれたものだ。
しかし、いざ勉強会とやらに参加しても会場は某ファストフード店であってもちろん勉強などするわけもなく、帰りにプリクラとやらを撮らされた。
あの一回以来、テスト前に人の勉強に付き合わないことにしていたが、駿なら大丈夫だろう。
ちょっとすると返事がきていた。
「場所はどこでもいい。図書館とか。」
某ファストフード店の名前をあげられなくてよかった。駿は本気で勉強する気なのだとわかる。
とくに良い場所が思い浮かんだわけでもないため、図書館がありがたいと返事をしておいた。
「じゃあ次の土曜日に西区図書館でいいか?静羽の家からちょっと遠いかもしれないけど。」
西区図書館は駿の最寄りの近くだ。駿の家は学校から少しの遠いので、たしかにうちからも遠い。だが、そこなら知り合いに会う心配はなさそうだ。
駿からのメッセージに了解スタンプを送った。ついでにスマホのスケジュールアプリに予定を登録して、少しの間眺めていた。
彼氏とテスト前に勉強か。普通の高校生みたいだ。嬉しくなっていつもよりも寝付きが悪かった。
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「明日、友達と勉強しに行くからお昼ごはんはいらないから。」
そんなことを母に言ったのは金曜日の夕食時だった。
「あら。珍しいじゃない。勉強を教わるってこと?」
「そうそう。」
普通に嘘なのだが。
両親には、まだ駿のことを教えていない。
ばれてしまっても、本物の彼氏ではないため大丈夫だろうと思いつつ、本物の彼氏ではないことに問題があるとも思う。
「怪しまれないようにちゃんと考えて行動しなさいよ。」
「はーい。」
母の言葉に軽く返事をしておいた。
もちろん両親は、私が本来は頭脳明晰なことも、学校で馬鹿を演じていることも、その理由も、全てを知っている。
今のような状況になっても、私を見捨てないでいてくれるのだから大切な存在だ。
「そういえば、冷蔵庫にシュークリームが入っているから、早いうちにたべておいて。」
「ありがと!お父さん。」
だから、両親に対して反抗期なんて考えたこともなかった。
両親はいわゆるエリートという層に分類される人たちだ。
二人揃って一流の国立大学を卒業しており、揃って国家公務員なのだ。二人は別々の省庁に勤めているが、そこで縁があって今に至る。
そんな両親の期待に応えるべく、私も幼い頃から熱心に勉強に取り組んだ。
それが、いけなかった。
年齢に見合わないほどの頭脳の発達を、この国に買われたのだから。