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第十三話

  

「しずはー。大丈夫?」

  

 4時間目が始まる前に、優花とまいまいが保健室に来てくれた。 

 

 「うん。大丈夫だよ。」

 

 先ほど熱を測った時には平熱に戻っており、保健室の先生にも教室に戻ってよいと言われた。まあ、原因が寝不足だから寝れば治るのはわかっていたのだが。

 

「もうちょっとで四時間目始まるけど、静羽出れそう?」 

 

「うん。平気。」

  

 私たち3人は保健室を後にして教室に向かった。



「いや。やっぱり駿ってかっこいいよね。」


 教室に戻る途中、優花はそんなことを言っていた。

 

「静羽を抱えた姿を見て、女子はみんな盛り上がってたよ。恋愛に興味なさそうな子も内心盛り上がってるはず!」

 

 そう言うまいまいも盛り上がっているではないか。

 

 なんか複雑な気分だ…。


「まあでも私も、ちょっとドキッとしちゃったよ。」

  

 これは本心だ。さすがにここで嘘をつく理由はない。


「やめてよ!静羽が恋敵になったら、勝てる気がしない…。」

 

 意外にも優花はそんなことを言った。

 

「いや。私、馬鹿だからさ。駿みたいな優等生は興味ないと思うよ。」

  

「いや。明るくて元気良くて、愛嬌がある子の方が楽しいと思う…!」

  

 もうすでに私たちは恋敵なんだよなと思ったが、色々とめんどくさくなるので考えないでおいた。

 

 

 教室に入ると、みんなが私に声をかけてきた。

 

 「大丈夫?」「心配したんだよ?」

  

 心配してくれていることはありがたいが、みんなの言葉に愛想よく答えていくのは少し疲れた。

 

 「はーい。皆さん席に着いて。」

  

 チャイムと共に、先生が教室に入ってきた。

 

 四時間目は数学で今日は問題演習だ。

 

「へんな病気とかじゃないんだよな。」

  

 隣の席の健太が授業中に話しかけてきた。

 

「まさか!ただの寝不足だよ!」

 

 私は元気に答える。

  

「なんだ。つまらないな。いつも元気な奴に限って、実は追い詰められてるみたいな、悲劇のヒロイン・シチュエーションかと思ったのに。」

 

 機転を聞かせて悲しい表情を浮かべてみる。

 

「私、生まれつき……。」

 

 健太は息をのむ。


 「馬鹿なの!」


「ふふっ。なんだよ!天才かよ!」


 授業中ということもあり私たちは声を殺して笑った。


 まあ、いつも元気なのには理由があるという推測は当たりなのだが。

  


 授業開始直後は少し賑やかな雰囲気だったが、5分もたたないうちにみんな黙々と問題を解くようになった。さすが進学校。

 

 私たちも話をやめて問題にとりかかる。


 ふと右斜め前を見た瞬間、駿と目が合った。私はニコッと笑って見せたが、駿は目をそらした。

 

 なんだ。集中しろってことか。

 

 私はおとなしく教科書とノートを開き、問題を解き進める。

 

 これくらいが普通だろうと思い、大問3でペンを止める。

 

 私はじっくり考えるフリをしながら、脳内で昨晩手をつけたリーマン予想について考えた。




 放課後、私は大事を取って部活を休むことになった。


 もう元気だから部活に参加させてほしいと何度も顧問の先生に懇願したが、昨日から体調が悪かったと勘違いされているため休むしかなかった。


 どうせ早く帰るなら、どこかに寄り道でもしようじゃないか。甘いものでも食べようか、カラオケでもいいかも。

 

 「坂口さん。」

  

 色々考えながら一人で駅まで歩いていると駿に声をかけられた。

 

 周りには他の生徒がいるため、堅い会話にしなければ。

  

「おう。優等生くん。今日は助けてくれてありがとう!」

 

 「…。」

 

 駿の反応はなかった。

 

 デフォルトの会話ってこんな感じだったっけ…?

  

「こっちだ。」

 

 駿に引きずりこまれ、私たちは右の角を曲がった。人のいない方を選んだのか。

 

「少し遠回りになるけど、こっちでいいか?」

  

 駿は私に尋ねる。

 

「いいよ。」

 

 遠回りになるといっても10分くらいしか変わらないし。


 二人きりになったのはいいものの、駿は何も話しかけてこなかった。

  

 これじゃまるで、私の秘密を知られてしまった()()()みたいだ。

  

「えっと…。何か用でも?」


 私は駿の方を見る。


 わざわざ人のいない道を選んでいるのだから、何か言いたいことでもあるのだろう。


 「いや。別に。」

 

 表情から察するに駿は何かに怒っている。


 自分が何か怒られるようなことをしたか考えてみるが、思い当たる節はない。

 

 心理学者アドラーの「個人心理学講義」という本で怒りに対するエピソードを読んだことがある。たしか…。

 

「お前が数学の授業中に楽しそうに笑ってたなって。」

 

 私があれこれ考えていると駿はそんなことを言った。

 

 ああ。そういえば授業中に健太と盛り上がったな。あの後、駿と目が合ったのにすぐそらされてしまったし…。

 

 なんだ。つまりこいつは嫉妬していたと言うことか。

 

 見上げると駿は顔を赤く染めていた。


「私が笑顔を振り撒くのは、秘密を守るため。だから気にしないで。それに、本当の私は駿にしか見せてないよ。」


 いつもの馬鹿っぽい声ではなく、落ち着いた声でそう言った。


「お前が誰とでも仲良いのは、そういうもんだと思ってる。でも、楽しそうにしているやつを見ると、ずるいなって思う。」 

 

 駿はぼそぼそと言った。

 

「でも、安心して。駿以外に二進数は使ってないから。」


 二進数がどうだとか、そんな会話で本当の笑顔を見せたのは駿だけだ。 


 駿の方を見上げると、やっと目が合った。 


 どうやらわかってくれたようだ。 



「朝からいろんな心配かけさせた罰だ。」

 

 駿はそう言って私の手を握った。

 

「仕方ないな。」

 

 私もその手を握りかえす。これは罰なんかじゃないでしょう…。

 

 駿は、ずるい男だ。

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