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情報素理論と魔術

トトリの章


 さて、魔術師(またはその雛鳥)の諸兄においては、情報素魔術に関心があってきたのであろうから、前書きはこれぐらいにし、本題である魔術としての情報素理論について触れようと思う。

 しかしながら、本書は秘匿されない入門書であり、師を持たないものが見ることも十分考えられる。そのような初学者が十分な理解と修練を経ずに、魔術をいたずらに行使することによる危険性を排除するべきである。従って、すべての者に対し魔術の行使方法そのものを伝えることは適切とはいえない。

 そこで本書は安全にその技量を確認し、適した範囲の情報を提供するため、本章次ページに簡易的な魔術暗号をしかけている。この仕掛けによって何ら害されることのないようになっており、ただ、魔術の基礎的な技能がない場合、限定された情報のみ提示するようになっている。

(訳者註、本訳においては、その性質上、仕掛けを省き、限定的な情報のみを提示しています。完全な情報を手に入れたい魔術師は、安全文で記された原書を手に入れてください)

 <仕掛け文省略>


.情報素理論と魔術

 魔術とは何か、と問われれば一家言ある魔術師もさぞ多かろうと思うが、情報素魔術の視座においていうのであれば、相似と補完であり、情報素の置き換えであると解釈する。

 そもそも、ほぼ全ての魔術は、相似を理論根源としている。いくつか例を示そう。


・レプリカ

 一番分かりやすい形であろう。例えば、「人」に相似のある「人形」を用い、人形に害を与えることで人に影響しようとするであるとか、あるいは人形を身代わりにするであるとか。

 人形は人と相似しているが、人ではないので、同一でない情報素子による力の影響の分を他の情報素子で補う必要がある。例えば、操作する人の一部を組み込むであるとか、儀式場を整えるであるとか、時間を限定するであるとか


・儀式場

 儀式場、すなわち閉ざされた、限定的な界を用いて、類似していて、より大きな場(または小さな場)に影響する魔術。

 例えば宗教系においては、思想の調律や制限、呼吸法(歌や踊りによるものも含む)、食事や薬物による統制などで、儀式を行う個々人の実在性を同質に持っていく。これによって、儀式場内で限定的な、確率実在〜偏実在を形成する合意世界〜確率世界を形成する。より形成しやすい環境で成立させたのち、それをより広範囲な、例えば一般社会(あるいは微細な、例えば個人)の領域と対応させることによって、魔術的変化を引き起こす。これは情報素子を現実と相似させ、補完する行為である。


・伝統的に継承された手順によって行われる魔術

 魔術は、師匠と弟子の関係により継承されていく。これ自体は技術系においても普通であるが、魔術的には方法の継承以外にも重要な意味を持つ。

 例えば、ある個人Aがいかなる過去の魔術にも結びつかない新たな魔術を行使したとする。この際に行われた魔術は奇跡に近く(というよりは奇跡そのものである)、つまり様々な条件が満たされてなければ成立しないことが多いため、行った当人といえども同じ条件を再度整えて行うことは困難である。

 ただAは既に一度行使した実績があるため、その際の状況を元に同様の行動を行うことで過去のA自身と相似させ、再度の実行、つまり魔術としての確立を狙うのである。

 そしてAの弟子であるB、Cは、Aが出来たのでBも出来るCも出来るといった形で、過去の師の行いを継承することで、相似を積み重ねていき、いつしか魔術成立の鍵が要件から手順へと移行し、手順という情報素子の補完でもって、要件の情報素子を補うわけである。


・ミクロコスモスとマクロコスモス

 人体の内臓における通常と異なる調律を行うことで、内臓に対応する環境に対し影響を与える(ミクロコスモス)。あるいは、ある一定の時期の星の配置によって環境に影響をあたえる(マクロコスモス)。


.相似と補完

 さて、相似とは、異なる2つに共通する、同一の属性のパラメータである。つまり、共通の情報素子である。そして情報素子の補完とは、異なる情報素子の情報素子量でもって、他の情報素子の情報素子量を補うことである。

 相似と補完、この2つの方法により操作した場の情報素子量が魔術が存在するという状態の情報素子量と同一になる時に魔術が成立する。そして、これを目指すのが情報素子魔術であり、あるいは過去の魔術理論が目指したものがこれである。


.情報素理論魔術の実際と計測

 さて、情報素子量を同じにするには、まず目的の情報素子量を計測する必要があるだろう。まずは、ナザレのイエスの復活を例に情報素子量を考える。

 情報素子量は絶対的なパラメータであるが、観測上は相対的なパラメータである。今回は2020年の米カンザス州の個人の1単位を素とする。

 まず、場の情報素子を考える。キリストの復活年を考えると現代とは約2000年の開きがある。場所はエルサレムの墓であり、カンザスの家とは距離、環境が異なる。

 次に復活である。復活自体は、直接的な観測情報がないため素の情報素子量は少ない。一方で、キリスト教として教理にあるため、そちらの情報素子量を拾うことになる。

 最後に復活者である。アブラハムの宗教においては復活は特別な個人によるものではないものの、来たる日以前に復活するとなれば、誰でも情報素子量が一致するとは言えない。

 これらの相違に対して情報素子量を計算する。

 計算方法は主に二つあり、トーマス法とウォーカー法がある。今回の場合、対象が個人であるのでトーマス法となる。

 トーマス法は個人の認識が元となる。つまり、ある個人が観測した二つの情報それぞれを1秒魔術的忘却を行使した際に生じる情報素子量の変動を、マクレーンの天秤により、いわゆる"魔力"の変動として示し、その差分を情報素子量として示す。

 そして、この情報素子量を元に、相似情報を魔術として組み込むことを考える(無論、すべてを全く無関係なもので補うことができないわけではないが、効率が悪い)。場の情報素子では墓、復活の情報素子は「ヨナのしるし」(墓もここに含まれるが)や十字架、復活者の情報素子は過越の食事、7つの言葉、ゲツセマネの祈りが比較的簡単であろう。

 ただ、当然これ単体では機能しない。ここまでのプロセスは近似であって、そのものではないからである。

 足りない不足分をトーマス法で計測する。必要な情報素子量は、影響範囲によっても異なる。完全な復活であればかなりの人数の情報素子量を補う必要があるが、例えば自身の中でのみ復活するのであれば一人分で済み、あるいはイエスの復活のように、宗教信徒数名に復活を見せるような場合も、その数名の情報素子量を補えば済む。

 不足分の情報素子量は近似とは別のアプローチで補う必要がある。いわゆる”魔法”と聞いてイメージするものは、大抵これを行なっている訳である。例えば詠唱、呼吸法、呪文の記述、瞑想、儀式などがこれにあたる。キリスト教ベースの信仰がある信徒を集め、自身を含む複数名の詠唱と瞑想でこれを補った。

 これで復活の儀式が完成した。あとは何らかの方法で死ぬだけである。注意すべきは、過越の食事のような時間制を持つ儀式で補った場合、情報素子量が保たれる期間は短くなる。トーマス法によるモニタリングが必要となるだろう。


.情報素魔術における補完

 先の例は、一般的な魔術に対し情報素理論による説明である。だが、情報素魔術を見たことがある魔術師諸兄が想像する”情報素魔術”とは少し異なるだろう。

 想像される”情報素魔術”は、より簡素で少ない儀式、詠唱や、そもそもそういったメカニズムを伴わないものであるだろう。

 情報素魔術は軍事魔術の系譜の中で形成され、魔術の軍事的利用が戦略レベルのみから戦術レベルにも用いることが求められ、取り回しの良さを求められた背景があり、情報素魔術として喧伝されたためである。

 先の例と想像される”情報素魔術”は、いずれも情報素魔術の体系で構築された魔術に相違ないのだが、情報素魔術に特徴的な特性は、相似にあたる部分を減らし補完を増やすこと、そしてそれに伴う不安定性を情報素子量計測などを含むモニタリングで補うことで成立している。

 先の復活の例をもとに、実際の軍事的環境下での情報素魔術を考える。

 復活を正確に行うのであれば先の手順を含む大規模な儀式が必要となるし、あるいは膨大な情報素子量を補わなければならない。

 しかし、軍事レベルで完全な死からの復活は必要でなく、必ずしもそこまでいかなくても良い筈である。

 つまり、致命傷を治療可能レベルまで戻すであるとか、治癒性を飛躍的に向上させるであるとかであれば即死や魔術実行不能でない限り同等であり、不完全な模倣であっても情報素子量が補える可能性が高まる。

 実効性、即時性を考えると、場を整える時間は少ないだろう。過越の食事であれば前準備で済むので、そこは行なっておき、治癒の象徴を別途組み込むことと、簡易詠唱によって情報素子量を補う。あとは先に例としてしめした継承による情報素子量の補完、複数人による相互作用による補完、キリスト教的バックグラウンドの充実などによって情報素子量を補い、軍事レベルでの情報素魔術を成立させている。


.ウォーカー法について

 先の方法は個人がベースで他社が介在しない環境の前提、秘教的アプローチの前提があったためトーマス法を用いたが、例えば魔術戦等の複数人の環境で影響させることを目的とする場合はウォーカー法が用いられる。

 これは事象を目視できる4km圏内、またはその他の観測法で体感される(と想定される)最大距離のいずれかの範囲内に存在する半数以上の人間が、基準点で基準魔法であるトマスの光を行使した際の観測できる状況を一単位として、魔法複雑性を示すアテナイ尺度と観測比率を用いる。

 アテナイ尺度は事前に確認するにしても、当然、実際の環境下でトマスの光の行使、環境内の人間の観測確認を行なっていては対象者に観測され対処される。そのため、対象者に体感させることなく近似値を計測できる循環波魔術を装置によって発生させ、それを元に、情報素子量の補正を行う訳である。

 (熟練した情報素魔術師の諸兄は、このレーダー様装置と、対抗するための観測装置の魔術兵器競争について詳しいことと思う)

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