STORIES 081: 友達になんて戻れない
STORIES 081
その日、私はあの人とお別れをした。
もう会えないなんて残念だね。
友達としては最高なのに。
またいつか会えるといいね。
ポツリポツリと呟かれる言葉たちに、全く同意できなかった。
そういうところだよ…言おうとしたけれど、やめた。
私たちは、もう別れるのだから。
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友達に戻れるくらいなら、別れたりしなかった。
ふたりで過ごす時間が耐えられなくなったから。
ふたりで過ごせない夜も耐え難くなったから。
だから、すべてを終わらせることにした。
もうそこには戻れない。
友達でもいいから、繋がっていたい?
ふたりで共有してきた過去を守りたい。
ふたりで共有できないことはもうしなくていい。
だけど、私にはたぶん割り切れない。
もうそんなふうに思えない。
友達に戻るってなんだろう。
私は友達と寝たりはしない。
私は友達の唇に触れたりもしない。
そこには、天と地ほどの隔たりがある。
行ったり来たりは出来ない。
なぜ友達じゃ駄目だったのだろう。
なぜそのままで満足しなかったのだろう。
なぜその場に留まっていなかったのだろう。
もといた、平和で満たされた世界に。
何を望んだというのだろう。
異性とは友達になれない?
私には異性の友達はたくさんいる。
男性も女性も中性も、いろんな友達がいる。
もちろん、付き合い方は少しずつ違う。
けれど友達になることに性別なんて深い意味はない。
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好きって何?
嫌いって何?
安心って何?
不安って何?
信頼って何?
失望って何?
依存って何?
利用って何?
愛情って何だろう?
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誰よりも近くにあなたはいた。
心も、身体も。
他の誰も代わりにはなれない。
あなただけの場所があった。
あなただけの。
私だけの場所もあったはず。
それを誰かに譲ることなんてできない。
隣に座って眺めているなんて考えられない。
とても耐えられない。
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だから別れた。
もうその場所には近寄りたくもない。
そのくらい愛した。
愛していました。
もう終わってしまったけれど。
それでいいのよ。
いまさら、友達になんて戻れない。
戻らなくていいんだよ。