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兄と妹が結婚する事になった未来【シトラ視点】

ジェフリーとシトラが結婚する未来になった世界線です。


「シトラ、ジェフリーと婚姻を結んでほしいと言ったら……嫌かな?」


ある朝食、深刻そうな表情で父が私に告げる。隣で同じく聞いていた兄は、食後の紅茶を吐きそうになり咽せている。私はそんな兄を見つつ、父の言葉に首を傾げる。


「……お兄様とですか?」

「お前ももう18歳というのもあるが………お前への縁談話を、毎回毎回毎回!……断るのも嫌になってきてな。それならもういっそ、私が一番信頼している息子に嫁げばいいのではと思ったんだ」

「父上、急すぎです!妹も混乱します!!」


兄は顔を真っ赤にしながら立ち上がり父に叫ぶ………が、これはいい話かもしれない。恋愛結婚を望んではいるが、そもそも好きな人がいない現状で、適齢期である私にも、公爵家と縁を結びたい子息達から婚約話がきているのは知っている。……恋愛結婚を諦めて、そうなった時に誰を夫にするか。……今の悠々自適な公爵家ライフを過ごすためにも、兄と婚姻を結べば安泰かもしれない。それに兄は顔も良く優秀で、そして婚約者はまだいない!

私は立ち上がり、大きく頷く。


「わかりましたお父様!私、シトラ・ハリソンは、お兄様と婚姻します!!」

「は!?」


兄は信じられないものを見るように、声を再び荒げて私を見る

………しかしそれは見なかった事にした。悪いねお兄様!私は今の生活を続けたいんでね!







両親は、「これでシトラを嫁に送り出さなくて済む!」と大喜びし、婚姻の話は猛スピードで進む事になった。友人達にも報告をすると、物凄い形相で父の罵倒を始めたのは、兄妹で結婚する事になった私達を心配しての事なのだろう。全く優しい友人達だ。



私と母、そして兄は猛スピードに進む結婚式の準備の為、ハリソン家御用達の仕立て家に来てもらい、ウェディングドレスの生地選びをした。あまりにも大量にある生地達に戸惑うが、そこは母の力も借りて、何とか選ぶ事ができた。………隣にいる兄は、ドレスの生地を見て、私を見て、今の状況を理解していないような表情をしていたが。

………そんなに嫌なのか、私と夫婦になるのは。同じく兄の表情を見ていた母は「夢と思ってるのね〜」と呑気に言っているが、どういう意味なのだろうか。



私と婚姻を結んだ兄は、私が話しかけると答えてくれるが、それ以外はどこか遠くを見ているような表情をしていた。仕事も手が付かないのかぼーっとしている。普段の真面目な兄じゃない……これ絶対、婚姻が嫌なんだろうなぁ。と薄々感じているが、それとは真逆に両親も、そして使用人達もそんな兄を微笑ましく見ているのが疑問だった。父に何故、公爵家の皆はこの結婚に喜んでいるのか聞いてみても、「その内わかる」と言われるだけで、それ以上は何も教えてくれなかった。その内っていつだ。







そんなこんなで、時は過ぎ結婚式当日、私は仕立て屋と使用人達の、これまで見た事もない気合の入れように震えながら、ウェディングドレスを着る。身体中を揉まれ叩かれ押され、ようやく準備が終わると皆、私の姿を見て「坊っちゃま……よかったですね!!!」と居ない兄の事を想い泣いている。いや、だから何でだ!?……すると、部屋のノックが鳴って、そこから新郎服を着た兄が現れる。


「シトラ、準備ができたと聞いた…………………………」


美しい顔立ちの兄は、白とシルバーを基調にした新郎服も、普段は降ろしている前髪も整えた姿も、とても似合っていた。こちらを見ると、兄は目を大きく開いて固まってしまったので、もしかしたらこのウェディングドレスは、似合わなかったのではと心配になってきた。私はそんな兄に近づき、苦笑いをしながら兄を見つめる。


「に、似合わないですかね?」

「……………………い、いや、すごく、綺麗だ」


それならばどうして!そんなにカタコトなんだ!?普段ならもっとスマートに、似合うと言ってくれるだろう!?……何故使用人達は、もっと泣き出すんだ!?


そこから私は、兄と使用人達をギリギリまで宥めたり、意識を戻そうと肩を掴んで前後ろに揺らしたのだった。






結婚式は、公爵家の人間二人という事もあるが、それよりも両親と使用人達が、恐ろしいほどの気合の入れようだった為、かつての王族の結婚式よりも豪華になった。……兄は隣で、客人に受け答えをしてはいるが、こちらを見ると一瞬固まり、そして自分の頬をつねって「夢じゃない」と何度も行っている。………一応、この結婚式が終わったら、私と兄は両親の勧めでしばらく、公爵家の別邸で過ごす事になるのだが、大丈夫だろうかこの調子で。


……本当に兄が私との結婚が嫌で、それでも両親と、しょーもない妹の事を考えて承諾したのであれば、世継ぎの為にも愛人の一人や二人は許そう。そうだ、別邸に着いたら伝えておこう。そう決心した。






結婚式も無事に終え、私達はそのまま、しばらく過ごす予定の別邸へ向かっている。あまりにも急な婚姻だった為、別邸の使用人は三日後に来る事になっている。三日間は妻として、手料理でも振る舞うべきなのだろうか………前の世界では、卵焼きとウィンナー焼く位しかした事ないのだが、大丈夫だろうか?私は馬車の席の向かいで、外を呆然と見ている兄に、恐る恐る話しかける。


「お兄様、結婚式楽しかったですね!」

「………ああ」

「きっ、今日は疲れましたし、ゆっくり寝ましょうね!」

「………うん」



駄目だ!あまりのショックで、兄の意識がない!!明日からの新婚生活も不安しかないぞこれは!!


しばらくして馬車は止まり、公爵家の家よりも少し小さい別邸へ着いた。使用人が居ない為か屋敷は明かりがなく、私は後ろに着いてくる兄を、何度も振り向き着いてきているが確認しながら、父から貰った鍵を玄関の鍵穴にさす。


何年も来ていない屋敷なので、中も埃があるのでは、と思っていたがそんな事はなく……というか、花瓶に真新しい豪華な花が飾られていたり、つい先ほどまで使用人がいたのではないか、と思ってしまうほど整えられていた。


「家族でこの家に来たのは、もう何年も前だと思っていましたが……物凄い綺麗ですね」

「……………」

「……お、お兄様……大丈夫ですか?」


私は一緒に入ってきているであろう、兄の具合を見るために後ろを振り向く。

だがそれと同時に、玄関の扉にロックをかける音が聞こえた。



そして目の前の、兄が私を見る表情が、ひどく劣情を含んだような熱っぽい目線で、私は目を大きく開けて驚いた。

兄は、そんな目線を私に向けたまま、ゆっくりとこちらへ近づく。


「………もう、俺は兄じゃない」

「えっ!?……あ、そうですね」

「じゃあ、俺の事は「()()()」じゃないだろう?」


今まで見たこともない兄の表情と姿に、私は後ろに下がりながら、ずっと恥ずかしくて言えなかった言葉を、目線を泳がせながら小さく呟く。




「………ジェフリー…………」




それを聞いたジェフリーは、一気に距離を詰めて、劣情を含んだ顔を私に近づけた。














息子と娘の結婚式が終わった公爵家では、ハリソン公と夫人がバルコニーでワインを飲んでいる。ハリソン公は夫人に笑いかけた。


「二人っきりにするのは、三日じゃ足らなかったかもしれないな」


それに夫人も楽しそうに笑う。


「あの子ったら、最後の最後まで、夢じゃないかと思ってましたものね」


ハリソン公はワインを一口飲み、そして夜空を見つめる。夫人も同じように星を見た。


「可愛い息子と娘の孫を見れるのが、今から楽しみだよ」

「ええ、きっとすぐですわ」



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