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炎に愛された聖女【ウィリアム視点】

前回の脅しに負けたシトラが、ウィリアムと婚姻を結ぶことになった未来です。



俺は、人間が炎を使うようになった時と同時に生まれた。

それはもういつだったか覚えていないが、おそらく精霊の中でも最古と呼ばれているのだから、途方もなく生きているのだろう。


俺の存在を定義させた、人間という存在には過去には関心があったが、過ぎた知恵を持ち始めた人間により、仲間が殺されていくとそれは無くなった。いつしかそれは戦争となり、昨日まで盃を交わした精霊が死んでいくのを見て、俺は人間に対する憎しみよりも、自分達に力を与えた神々を恨んだ。神が精霊を生み出さなければ、精霊を愛さなければこんな事にはならなかったのだから。



同じ上位精霊である水の精霊が、聖女召喚の魔法を作りあげそれを発動させた時、召喚に答えた聖女が人間だった時も、俺はどうしようもなく神を恨んだ。まだ赤子のような人間の女は、予言の神の加護を得て神の言葉を発する事ができた。女が平気で唱えるその言葉は、自分と同じ人間を肉の塊にするものだと言うのに、女はそれを知らないのか涙一つも見せない。……俺は、ただ従うだけの人形のような女に、ひどく苛立ちを覚えた。


ある夜に、俺は女の部屋の寝ずの番として、女の部屋の前の扉で見張りをしていた。正直、この中にいる女がどうなろうと知った事ではないが、それでも精霊の最後の砦である聖女なのだ。戦争が終わるまでは死なせる訳にはいかない。

そのまま扉の前で座っていると、中から啜り泣くような声が聞こえてくる。その声のか弱さに驚き、俺は賊でもいるのかと思いノックもなしに扉を開けた。


「っ!?」

「…………」


部屋の中には、床に座り込み泣いている女がいた。今まで微笑む所しか見た事がない女が、体を丸めて目を腫らして泣いている。その光景に声も出せずにただ凝視をしていた。……女の方は俺の登場に驚いたのか、涙を浮かべた目を大きく開けている。長い長い沈黙の末、俺は絞り出すように声を出した。


「……何を泣いている」


その言葉に目線を下に向けた女は、やがて震える唇から小さな声を漏らす。


「私が殺した……人達の事を考えたら、涙が止まらなくなって」


思いがけない言葉に、俺は目を大きく開けて女を見る。この女は、あんなにも人間を殺していた女は、今何を言っているんだ?


「なら何故殺すんだ?俺達精霊に加護を与えるだけでもいいだろう」

「………私は精霊を守る為に呼ばれただけの存在なのだから、私の力で少しでも精霊達が生きるなら、私がしたほうがいいでしょ」


そう言いながら女は、また涙が出てくるのか表情を歪ませて下を向く。そのあまりにか弱い、小さな存在に、俺は今での苛立ちや憎しみが、とんだ勘違いだった事に気づいた。


そうだ、この女は、シルトラリアは望んでこの世界に来たわけではない。勝手に呼ばれて、望まずに精霊の兵器となっているのだと。……俺は、どうして今まで、彼女が平気で人を殺していると思ったのだろう。


彼女の側に膝を付き、俺は涙を浮かべる彼女の顎を触りこちらを向かせる。彼女はそれに抵抗はしない。ただただ真っ直ぐに俺の目を見る。その目を見ていると、今まで感じた事がないような、胸が締め付けられる感覚が襲い始める。


「……シルトラリア、今ここに誓おう。俺が………俺が命尽きるまで、貴女を守り、貴女を泣かせるような戦争を終わらせると。………だから、せめて今だけは、泣かないでほしい」


俺の発する言葉に、彼女は目を大きく開ける。

だかそれは直ぐに、どこか悲しそうな表情へと変わる。





俺は、永い年月の中で初めて、個人を守りたいと思った。

















「ウィリアム!話聞いてる!?」


かつての記憶を思い出していた俺の目の前に、あの時床で丸まり涙を流していた女性が、怪訝そうな表情でこちらを見ていた。建国された際に建てた屋敷の執務室で、俺はどうやら話す彼女の言葉を聞かずに物思いにふけていたらしい。初めて出会った頃よりも幾分か年齢を重ねた、もう立派な淑女である彼女を見て、俺は口を開いた。


「ああ、聞いている。ウェディングドレスの生地だろう?好きなようにすればいいじゃないか」

「選べないから聞いているんでしょーがっ!!!」


そう怒鳴りながら彼女はいくつかの生地をこちらに差し出す。俺はそれを見て、怒っても可愛らしい彼女を見て、そしてその中から一つの生地を手に取り彼女に渡す。


「これがいい」

「これ?………随分と、シンプルな生地だね。もっとウィリアムなら派手なもの選ぶかと」

「こういう落ち着いた色合いの生地の方が、可愛らしい貴女に似合うだろう」


可愛らしい、という言葉にだろうか、彼女は怪訝な表情のまま頬を赤くさせていく。……そういう所が可愛いのだと、分かっていないのだろうが。俺はそのまま彼女の腕を引っ張り、椅子に座る自分の膝の上に彼女を乗せた。それには流石に表情を保てなかった様で、恥ずかしそうに体を離そうとする。そんな彼女の腰に腕を回すと、さらに顔を赤くさせた。


「ちょっ!は、離してよ!」

「嫌だ」

「1000歳超える精霊の癖に!子供みたいな事言うんじゃない!!」


狼狽えながら叫ぶ彼女を抑えて、そのまま口付けをすると彼女は固まる。顔を離すと、非常に唆る表情を向けているのには、思わず無表情になってしまった。そんな彼女に向けて、俺はずっと考えていた事を告げようと口を開く。


「シトラ、俺と契約してほしい」

「契約って………契約魔法の事?」


彼女は同じ言葉を繰り返すが、それに俺は頷く。


「そうだ。俺と契約して欲しい。そして貴女が死ぬ時に、俺も一緒に死ねる様にして欲しい」

「…………」


見る見るうちに表情を暗くさせる彼女の頬を、俺はゆっくりと触れる。


「俺は、貴女が死んだ未来で途方もなく生きるのは、もう疲れたんだ」

「……ウィリアム」

「貴女が命を落とした時に、俺も連れて行ってほしい」


そう笑いながら、俺はもう一度愛おしい彼女に口付けをする。急に大人しくなった彼女は、それを静かに受け入れてくれた。






……そうして長い口付けが終わった後、彼女はかつてのあの時と同じ、悲しい表情を向け、あの時と同じ言葉を口にした。





「……どうしようもない精霊だなぁ」


















「で、紋章を付ける所だが。貴女は確か、かつてあの獣人との契約を舌につけていたな?」

「そうだねぇ〜まぁ、契約が神とのものになってから消えたけど……それが何か?」

「いや、あの獣人にだけは負けたくないんでね。舌以上の場所を考えている所だ」

「……………へ?」

「そうだ、あるじゃないか。……この先もずっと、俺しか触れる事ができない所が」

「ちょっ!?まっ、待ってくださいウィリアムさん!?」

「待つわけないだろう」

「いやいやいやいや!?待って!?なっ、ちょっ、どこ触ってんだ変態!!!!!」

「魔法を使っても無駄だからな、俺にも周りにも防御魔法をしている」

「それが年上のやる事か!?まっ、待っ………うぎゃーーーー!!!」



なんだか悲しいような話になってしまいまして、申し訳ございません。

ブックマーク、評価ありがとうございます!

今での結末後の小話を活動簿にちょろっと載せているので、よかったら見てくださいませ!(本当に小話)

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