才在る林檎は罪深い-1巻-下編
・平凡な日常・
東京に遊び来ていた私は、あの日交差点で倒れ
この病院に搬送された、その後目を覚まさす事も無く
夏が終わり、秋冬春、約9ヶ月眠り続け
今日目を覚ました・・・・。
涙を流していた女性は、私の母親らしいのだが
困ったことに、俺は自身に関する記憶が無い
母親は私の名前を坂神夕夜、19歳であると説明した
頭上にかけられた、カレンダーは3月になっていた
私の体の大部分の肉は無くなり、皮と骨の状態であり
腕を揺らすだけで、折れてしまいそうな印象を受けた
深呼吸をするために息を吸い込むと久々の動きでむせ返った
母親らしき人が私の背中を擦り、心配してくれる
人の暖かさを感じる、あれ?喋るってどうやるんだっけ?
声が出ない、足が動かない、文字が認識できない、
腕は動いても、だるさと重たさを覚える
だけど9ヶ月も動かさなければ、そうなるのは必然だった
目覚めた一日目は、現状を理解する為、色んな話を聞く
私の名前、住所、年齢、家族構成、私を理解することに尽力した
二日目、文字を学ぶ、零からになるかと思いきや
ただ記憶に蓋がされていたようで、学んだそばから理解ができ
一回から二回の説明で運用ができる段階まで回復した
三日目、一冊の本を読むことにした、その本のタイトルは
・・・・・(人間失格)・・・。
一人の男が、人生に振り回され、薬や心中に手を染めて
生きていく、そんな物語であった
何か文句を言いたいが、何を言えば良いのか解らず
只々息を呑んだ、心中は毎回、自分だけが生き残り
罪を問われる、死ねない事が彼への罰なんだろうか?
・・・四日目、病院の様子がこの3日間とは明らかに違う
・・・戻ったと言う表現が正しい気がする・・・。
体の怠さや重さは無い、枕元のジャージを羽織り
ベットから降りる、靴が見当たらず素足で歩く
・・・足裏が冷える、外から入ってくる薄明かりを頼りに
病室の扉をスライドすると、廊下に出た
やはり少し薄暗い、今何時なんだ?
俺は時計を探す、しかし廊下で見つかる訳もなく
探すことを断念する、次に廊下の蛍光灯スイッチを探す
しかし見つからず、壁に左手を当て歩き始める
足元に細心の注意を払い、歩いた
窓ガラスの破片、レ☓ブロックが落ちていないことを祈り
一歩また一歩と足を踏み出す、少し歩いたところで
壁に触れていた、左手に出っ張りを感じ
両手でベタベタと触る、多分これが望んでいた物だ
その出っ張りに力を入れると廊下に光が灯る
すぐ横に階段があり、その真反対には
ユメジの部屋と書かれた紙が貼り付けてあった
俺は扉前に行き、ノックを二回した
反応は無い、俺は容赦無く、扉を開いた
内装はダブルベットに学習机、16段の大きい本棚
一般的な部屋だと思う、夢地の姿はその部屋にはなかった
部屋に足を踏み入れた、本が学習机の上に放置で
ベットが乱れ、先程まで誰かが居た印象を受ける
本棚には伝記や小説、学術書が詰まっていた
本棚に目ぼしい物は無く・・・学習机を漁る
ノートが沢山入っており、机の上にも
本とノートが乗っかっていた、ノートに目を通した
かなり汚い字で書かれていた・・・・・。
魔王は白である・・・・可能性が高い
過去事例から敵対は愚策である
才格人間失格は壊れている、敵対は禁止
椎茸茉莉は白、敵対しても大丈夫そう
相対性理論は封殺計能力で武力はない
脅威度B、使用回数に難有り、クールタイムも長い
団体戦に強く、個人戦に弱い、暗殺が効果的である
争いを拒む為、味方に引き込むのが妥当
3日後に透と合流して行動に移す
ここでノートは終わっている
ノートの前後は白紙で誰かに読ませるのを目的にし
意図的に書いたものでは無いだろうか?
このノートが正しいと言う前提で考えると
夢地は何かを探していた、そしてそれを報告していた
報告していた人物は透と言う人物
相手の才能と及び脅威度を調べ、黒か白か
味方か敵か、そして倒せるか?それを調べていたようだ
今明らかなのは、夢地は俺のことを・・・・
敵ではないが味方でもない、敵にしてはいけない
と評価しているようだ
それにしても過去の事例ってなんだ?
人間失格が壊れているって、どの意味で壊れているんだ?
可能性は3つ、1つ目ゲームで言う修正がいる強さである
2つ目他才格者と、才能のルールが違う
3つ目まじで壊れている、本当は対象者を選べた可能性が
・・・取り敢えず、夢地たちを探そう・・・・。
俺は夢地の部屋を後にすると、一階に向け階段を降りた
一階の会議室に行けば誰かしらいるだろうと・・・
階段を降りている時ふと、周りの静けさを感じる
昨日までしていた蝉の音、おっさんの怒鳴り声
慌ただしい人々の声、それらが一切しない
そこに少し寂しさを感じながらも、現実に目を向けた
電気をつけながら一階へと向かう、その間
誰にも合わない、気色の悪さを覚える
足が闇へと飲まれる、電気をつけたはずなのに・・・
周囲を見渡す、俺は状況を理解した・理解してしまった
闇の正体は血液・・階段の踊り場に夢地が転がっていた
俺は階段を駆け下り夢地に近づく・・・・・
目を見開き、口を開け、死体に成り果てた夢地工大
背中や後頭部に傷はなく、胸側から血液がでている
俺は夢地の肩と腰を持ち、ひっくり返した
彼の手からナイフが一本地面へと落ちる
傷は胸ではなく、首元に存在していた・・・・・
この殺し方・・・・まさかね・・・流石に・・・
俺はその場に座り込んだ、尻が汚れるのもお構いなしに
そして只々涙を流した・・・・暫く泣いた・・
息を吸う、立ち上がると、上着の袖で頬を拭った
他の人を探さないと、俺は再び一階へと向かった
一階まで階段を降りると目の前に外への出口がある
その出口付近に近づく、出口のガラスは割れ
破片が付近に落ちていた、他のとは違う遺体を発見する
その遺体は二人で抱き合い、一人の背中からもう一人まで
鉄筋が突き抜け、まるで何かのオブジェみたいに成っていた
そのオブジェは錬時と真希の遺体で構成されていた
俺の呼吸が荒れ初めて、まともに呼吸ができない
思考がぐちゃぐちゃになって、何も分からなくなって
両手で髪の毛を掻き毟り、口から叫び声が漏れる
・・・・・深呼吸をして落ち着く・・・
俺は二人に手を合わせ、他四人を探し始めた
ができれば、見つからないことを願っていた
時間を掛けて一階から五階をくまなく確認する
佐々木さんを会議室で発見
腕や首元など複数箇所から銃痕が付いていた
ほか三人はいくら探しても、発見できず、安堵する
ヴェルと怜名、命ちゃんは逃げられたんだ・・・
確認を忘れていた・・・唯一の避難経路・・・
霊安室、その部屋の確認を俺はすっかり忘れていた
流石に・・・いない・・・・よな?
一階へと降り、慣れた足取りで地下室へと向かう
地下室へと向かう扉はひしゃげていて・・・
階段には死体の山が形成されていた
嫌な予感がした・・余りにも死体の数が多く
足をくじかないように気をつけ、霊安室に向かう
此処にある死体の大半が腹に大きな穴が開いていた
少なくとも死体に知り合いは混ざっていない
霊安室の扉がねじ切れていた・・
扉の中を覗く・・俺は只々呆然とした
二人は見つかった、ヴェルトは入り口付近
命ちゃんは部屋の奥、扉があった場所で亡くなっていた
ヴェルの左腕と右足が消失しているだけでこれと言った
外傷は見受けられない、よく見れば、右目も無い
そんな遺体の上に黒猫が幸せそうに冷たくなっていた
命ちゃんは壁あと一歩の場所で
背中から流血し亡くなっていた
扉があったと表現したが、今はもう扉はない
これは推測になる、命ちゃんを逃がそうとして
ヴェルが犠牲に黒猫は多分怜名だろう
ヴェルはどうやって死んだんだ?
夢地はどうして2階の踊り場で死んでたんだ?
これってもしかして・・・・・内部犯・・・。
霊安室を後にしようと一歩踏み出す
不意に後ろから「おい!」と声をかけられる
「え!!?」俺は振り返った・・・視界の先には誰一人といない
何だ?思考が一瞬止まった・・・その一瞬が命取りだった
俺は襟を掴まれ、後ろに倒れ込む
焦りながらも、尻を守ろうと手を地面に向かい出す
しかし、そこに地面は無く俺の手は空を切る
今俺は背中から落下している、怖くなり目をつぶる
足に衝撃を感じる、だが痛みがやって来ることはなく
状況確認の為に俺はまぶたを開いた
眼の前に蛍光灯と天井、そして夢地の顔があった
ここはどこだ?上半身を起き上がらせて
周りを見渡した、見慣れた部屋、病室のベットであった
近くに夢地と・・・あの時の猫耳美少女が・・・
俺は猫耳美少女を指差し、何かを言おうとするが
何も思いつかず、声が出ない
猫耳少女は、まるで知り合いに合った時の様に
「やっほー起きた?」と軽く発する
それに対して俺の返答は、只々素直に
「誰?」であった
猫耳少女は「え?」と声を漏らす
その反応はまるで知っているのが当たり前かの
ような反応であった、猫耳少女は一方を指差し
「こいつ誰だか解る?」聞いてくる
俺は普通に「夢地」と答える
猫耳少女は頷き、今度は扉の方を指差し
「この人は?」と聞いてくる
俺は扉法を確認して「ヴェル」と答えた
猫耳少女は「じゃあ、私は?」と聞いてきた
俺は直感的に一番ありそうな答えを模索する
そして答えた「もしかして、志姫美さんのご友人ですか?」
その回答を言い終わった、とその瞬間
猫耳少女は近くにあった、本を掴み俺に投擲し
「声で気づけよ、坂井怜名以外居ないだろ」
と叫びブチギレていた
宙を舞った本は俺の鼻にクリーンヒットし
俺の鼻から血が吹き出す、急いで鼻を押さえたが
時すでに遅く、怜名の投げた本と毛布に垂れる
佐々木さんの悲鳴が響く、俺は急ぎ視線を移す
佐々木さんを見つけると、佐々木さんは俺の方を指差す
・・正確には血が染み込んだ毛布などを
・・・・此処で文句を言いたい
この部屋なんで・・・ティッシュがないんだ?
血が手の間から滲み出て滴り落ちている
夢地はあたふたし、怜名はすでに逃亡
何なんだこいつらは・・・・・
俺は止まらない鼻血と、付近に人間に
苛立ちを覚え、ベットを飛び降りる
部屋を出て、隣・・その隣の部屋で
ティッシュを探す、しかし見つからない
四部屋巡ったところで階段の前まで来る
夢地、その表記の部屋に飛び込むと
ティッシュを確認し、手に取り
鼻に当てようとしたが既に鼻血は止まっていた
俺はティッシュを地面に投げ捨てた
背後で音がして振り返る
背後では夢地と怜名による土下座が広がっていた
罵倒してやりたがったが・・・それよりも
笑いが込み上げてしょうがなかった
俺達は笑った、腹を抱え・・。
あの日・・・俺が倒れた日
その日から四日間、眠り続け
呼んだ医者の診断は、血管迷走神経反射
ストレスや疲労で倒れただけだった
取り敢えずベットに寝かせたのだが
その後三日間、目を覚まさず・・・
先程の猫耳少女は怜名の別の姿であり
食事や風呂を行うのが楽な姿らしい
俺は、病室に戻りベットに横になると
夢地が「ちょっと待ってろ」と
言い残し、部屋を出ていった
約数十分後帰ってきた夢地は
土鍋を抱えていた
怜名がベットに机をくっつけると
夢地がその上に新聞紙と土鍋を置く
俺は訝しんだ、これの制作者を聞くと
「俺が作ったけど」そう夢地が言った
何故か凄く嫌な予感がした・・・。
夢地はポッケから布巾を出し
土鍋の蓋を開く・・・・・!!?
予想に反して土鍋からは良い香りが漂う
中身はごく一般的なお粥だった
横から食べようとする怜名を遮りながら
一口、素朴でありながらも胃を満たす
塩がよく効いた、美味しいお粥
胃がホカホカと温まり、口から息が漏れる
不意に涙があふれだし、生を感じる
そのお粥を何も言わずに完食した
完食された土鍋を眺め夢地は
心なしかとても嬉しそうに見えた
俺の視線に気がついたのか
土鍋を片付け、そそくさと部屋を出ていった
怜名と二人きりになった・・・・・
気まずい・・・怜名に何と言えば・・・
頑張って考えた結果、ひねり出された答えは
「今日は・・・良い天気・・ですね」であった
怜名は吹き出した、外を指差し
「いつも道理の灰が降る日だよ」
と腹を抱えて笑い出す
自分の発言に激しい恥ずかしさを覚え
顔が熱くなるのを感じる
俺の様子に気がついたのか、怜名がニヤつく
口を開き「君的には今日は良い日なのかい?」
と煽る様な質問を投げかけてくる
内心今すぐ殴ってやりたい気分であった
拳を握る、肩を叩かれその方向を見える
扉の隙間からヴェルの顔が見え
親指を下に向けバットを表していた
俺は拳を下ろす・・保護者同伴でしたか。
虎の威を借る狐めと心のなかで思った
決して口になんか出してないぞ
痛いのはご勘弁だ・・・・・・。
・平凡な日常2・
その日の昼から午後はゲームで遊び
夜は夢地の美味しい料理( お粥)を食べた
ご飯後も携帯ゲームで遊んでいたが
佐々木さんに没収され仕方なく床につく
目を閉じる、その日は夢を見なかった
幸せでねじまがった、そんな夢を
次の日は、朝から携帯ゲームで遊び
その次の日も同様・・・・・・・
その後変化のない日々を生き
俺が再び目覚めてから九日目
現実に異変が起き始める
最初は些細なものだった
物価の高等、伊藤志姫身の死亡
そして・・・・指名手配
ある日の買い出し、ヴェルと怜名は
買い物袋を持たずに帰宅した
ヴェルと怜名は青ざめ、その手の中には一枚の紙
指名手配 8月17日
本日、八月十七日を持って以下の人物を国家転覆罪
として、指名手配することになりました
以下の者たちは偉人病で得た力を使い日本国を
破壊したとして逮捕状がでている
しかし、相手は才格者である為、生死は問わない
なお重罪人を庇い立てした者は犯人蔵匿罪として
以下のものと同様の罪を課すこととする
偉人取締局 局長 新妻 菫
神大寺 命 鈴木 錬時
小里 仁巳 慈礼 俊太
孝柵 了太 新垣 摩弥
新垣 早紀 猿首 誠
村上 唯笑 古田 透
信条 紗綾 坂神 夕夜
その用紙に見覚えのある名前が三つ
神大寺命、鈴木錬時・・・坂神夕夜
そこに俺の名前もあった・・・
何とも言えない感情が沸き立つ
後悔?哀しみ?そこにあった感情は憤り
それだけであった、俺が何をしたって言うんだ
国家の転覆?冤罪も良いところだ
結局、こうなるのか・・・日向・・。
その後に夢地が口を開き提案をした
「俺とヴェルの二人で憐佳先生に会って来る」
佐々木さんが返事をする
「解りました、でも気をつけてくださいよ」
その一言とともに佐々木さんは、とても険しい顔をした
その後スムーズに霊安室の扉から二人は外へと出て行った
俺達はその日、普段と変わらない日常を送った。
二人が外に行ってから、一日、二日、三日
いくら待っても二人が帰ってくることは無く
それどころか、怜名の姿も見当たらない
何かが可怪しい、あの夢で見た景色が脳裏にこびりつく
佐々木さんがとある提案をした
それは夢地達の捜索だ、今この病院の戦力は恐ろしく低い
だからこそ、三人の生死を知らないと迂闊に動けなかった
しかし、この提案には問題があった
それは地下室の扉の消失だ
ヴェルと夢地は扉使用後に消失するようにしていたようで
捜索は徒歩で行う、うえにすれ違いの危険性もあった
その結果、2つのグループに別れることになった
捜索は、俺と佐々木さんで行い、他三人は待機
そうするしか無いとは言え、一物の不安が湧いてくる
その日はもう夕方だった為、捜索は次の日からになった
次の日、鞄にタオル、鏡の破片を詰めると右肩に下げ
病院の入口に向かった、病院の入口には
大きなリュックを背負った佐々木さんが命ちゃんと
会話していた・・・会話と言っても
佐々木さんが質問して、命ちゃんが頷いてただけだけど
俺はそれを眺めていたけど、大体七回の質問をしていた
質問が終わると佐々木さんが命ちゃんの手を引いた
どうやら、命ちゃんも連れて行くようだ
俺達は三人で病院をあとにした
佐々木さんが命ちゃんの手を引き、俺の前を歩く
その足取りに迷いは無く、行き先が決まっている
そんな印象を受けた、おれはとある事実に驚愕を受ける
神大寺命についてだ、目元にバンダナを巻き
無口で、片耳が使えないはずなのに
彼女は手を引かれ、砂山を歩いていた
なのにも関わらず、彼女はよろけずに歩けていた
俺と同じ・・いや俺よりも早く、彼女は歩いていた
盲目少女が砂山を俺よりも早く歩けるだろうか?
砂で足を取られる、そんな道を・・・・
盲目じゃなければ、少女じゃなければ・・・
そんな簡単な話だろうか?
そんな考察を深めながらも、足は止めずに
只々、歩き続けていた、足が痛み始め
靴に入り込む砂で精神も擦り切れ
佐々木さんと距離が開き始める
だが佐々木さんは遅れる俺に気が付かない
降る灰に視界を遮られ、もう二人の姿は見えない
俺は足を止め、追いかけることを諦めてしまった
置いて行かれた俺は、只々空を眺めていた
代わり映えのない砂山と視界を遮る灰で
二人は俺が居ないこと気が付かない
命ちゃんは目が見えない上、歩くので精一杯で
佐々木さんは、何故かうわの空だった
気がついたとして、戻ってこれるか?
もう、諦めるのが懸命なのかもしれない
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえた気がした
???「夕夜くんーどこに居るの?」
俺は返事をしなかった・・・何かを言おうとはした
だが掠れた音が出るだけだった
もう諦めていた、灰色の空が俺の顔を覗いていた
とうの昔にこの現実は理解できない物になっていた
壊れ果てた現実、頻繁に見る現実味のある夢
今この現実が夢である事を切実に祈るしかなかった
???「やっと、見つけた」
その声と同時に視界に二人の姿が映り込む
佐々木さんは俺に手を伸ばし、笑顔を見せる
俺は手を借りて起き上がる
佐々木さんは、リュックを靴の上に降ろすと
中から飲料を取り出し俺に差し出した
俺はそれを受け取ると、飲み干す
喉の調子が良くなったのを確認して
「ありがとう」そう佐々木さんに言った
佐々木さんは頷き、俺から空のボトルを受け取る
俺は佐々木さんに疑問を投げかけた
「どうやって俺が居ない事に気がついたんですか」
佐々木さんは明らかに挙動不審になる
追撃のように俺は別の質問をした
「その後どうやって、俺を見つけたんですか?」
佐々木さんは命ちゃんと向き合うと
命ちゃんが首を横に振った・・・・
佐々木さんは説明を始めた
佐々木「夕夜君が居ない事に命が気がついたの」
俺は聞き返す「命ちゃん・・・・・が?」
佐々木「夕夜君の足音がしないって」
俺「じゃあどうやって此処に来たんですか」
佐々木「普通に来た道を引き返しただけよ」
俺は納得の行かない点はあるにしても
辻褄は合うとして納得することにした
佐々木さんが俺にまた手を伸ばす
俺はその手の意味がわからず固まる
佐々木さんは笑顔で口を開いた
「迷子になりそうだから手を繋いでね」
俺は大人しく手を繋ぐ・・・恥ずかしい
今度は俺も手を引かれ歩き始める
足が取られないルートを進んでるのか
あまり疲労を感じずに進むことができた
それでも疲労は貯まる、休憩をはさみ
騙し騙し、足を動かし続けた
その日、夢地たちは見つからなかった
佐々木さんがテントを張っていた
野営するようだ・・どうやって入ってた?
大きいリュックだとしても入らないだろ
そんな疑問を抱え、その日は眠る
次の日も同様に佐々木さんの手を取り
歩き始めた、足の痛みに耐え
それでも、休憩は挟みつつ、夢地たちを探す
その日も、夢地達の発見にはいたらない
その後、約三日結果は出ないまま、歩き続けた
だが、夢地たちは見つからなかった
この選択が本当に正しかったのか、それすらも
もう怪しかった、体調が可怪しい
脳裏に夢地達、三人の死に様がこびりつく
俺の心が折れそうだった、だが止まる訳にはいかない
まだ結末は訪れていないのだから・・・・
捜索の為、病院を出てから六日目
目を覚まし、いつも道理、上着を羽織る
靴を脱ぎ、砂を外へと放り出す・・・・・・
あれ?、俺はとある異変に気がつく
神大寺命・・・目が見えているのか?
いつもより早く準備が終わった俺はテントの外で
二人の身支度を眺めていた、その時違和感を感じる
命ちゃんの動きが余りにもスムーズ過ぎた
物を持つ時や靴を履き直す時
些細なことだが手探りしている感じが一切感じられ無い
まるで、そこに物がある事が解っているかの様に
感覚的に解ります、の説明で納得できてしまうような
その程度の話だが、佐々木さんの反応と合わせると
神大寺命の才能が関係あると思う
そもそも、指名手配されていた人物にも違和感がある
錬時、命ちゃん・・そして俺、そもそも
ヴェルや怜名のほうが指名手配されそうなのに
俺の才能は、自分で解っているけど理不尽なものだ
それと同等の能力を保持している可能性が高いのかな
疑問が解消される前に二人は準備を終わらせた。
・権利有る才能・
七日目・・・八日目・・・俺達は捜索を続けた
しかし結局夢地たちは見つから無かった
代わり映えしない景色に嫌気が差した
けれど進むしか無い、そうするしか無いんだ
九日目、今日も朝から捜索・・・・
未だ夢地達の痕跡すら掴めていない
もう廃病院の方に戻ったのではないか
もう、良いのではないか・・・俺は疲れていた
どの方向を向いても、同じ景色が広がる
砂漠の真ん中で佐々木さんはとある発言をする
「やっと半分に到達した」・・俺は耳を疑った
目印も無い砂漠の中で彼女は現在地を知っていた
これが能力による物では無いのだとしたら
俺は夢地達の失踪に佐々木さんが関与してると
思うしか無い、空から地上を見る能力か
スマホの地図アプリのような能力が絶対あるはずだ
俺は、佐々木さんの裾を引っ張り問いかけた
「もう半分来たんですね?」と
その問いに佐々木さんの足が止まった
少しの沈黙の後、佐々木さんはボソリと呟く
「流石に、その先を知るのは、早い気が・・」
佐々木さんは、指を口元に持っていき
一言「ナ・イ・ショ」と言った
俺達は、また足を動かし始める
結果的に見れば、その日のうちに
俺達の目的は達成されることとなる
一番最悪な形で・・・・・・・・・・
最初に見つかったのは・・ヴェル。
重装備(防弾チョッキ、ヘルメット)を装着
した死体の山?を辿った先で見つける
ヴェル自身に外傷は無く、その代わり
左腕と右足の消失、右目が欠損していた
この光景に俺は見覚えが合った
まあ夢の中ではあるが、確かに見覚えがあった
霊安室にあったヴェルの状態と酷似していた
ただし、まだ命ちゃんは死んでいないし
怜名の遺体がヴェルの上で寝ていることもない
だから、まだ間に合う・・・間に合うはずなんだ
そう思って心を落ち着かせるしか無かった
俺の頬を涙が伝う、それを服の袖で拭う
・・・・後、二人・・夢地・・・・怜名。
その後、辺りを捜索するが、残り二人の
情報は出てこない、発見出来たのはリボンが一本
ヴェルの遺体付近、そこに赤いリボンが落ちていた
それをおもむろに、拾い上げる
「チリンッ」・・・静寂の中に鈴の音が響く
佐々木さんが俺に急接近し
手の中にある赤いリボンを凝視していた
そしてポツリと呟く「これ・・・怜名ちゃんの・・」
佐々木さんは堪えていた涙を流し、只々叫んだ
だから俺も気がついてしまったんだ・・・
怜名が死んでしまったと言う事実を
俺の瞳からも涙が溢れ出す、自分を攻め始める
俺に何か出来たんじゃないのか
彼女らが死んだのは俺のせいではないのか・・
そんな後悔ばかりが俺を締め付けていた
彼女たちが死んだ状況を知っていた
それでも、俺一人で抱え込んで誰にも話さなかった
誰かに話していれば、先に行動に移していれば
彼女たちはまだ生きていたかもしれない
「はぁ・・」俺の口からため息が漏れ出す
無駄な考えはよそう、死んだ人間はもう戻らない
それより、夢地を探さないと・・・生きてるかな
一人で逃亡してくれていたら、二人を囮に使えば
・・・・そんな訳はない
夢地工大と言う男は面倒臭がりだが卑怯者では無い
結果は解り切っている・・・・
夢地工大は生粋の面倒くさがりである
しかし、その実彼は責任感が強い男でも有る
俺の目覚めた場に居たのは夢地工大
異界のスーパーで志姫美から俺を守ったのは夢地工大
俺にお粥を提供したのは夢地工大
夢地工大は死にやすいのでは無いのだろうか
そう思う理由は佐々木さんの対応
命を大事にしろ、良くある光景なのではないだろうか
この事から、彼だけが生きていることなんて事・・・
ある訳が無いんだ、夢地が二人を逃がした場合
俺は視線をヴェルの遺体から真逆の方向に移す
重装備軍団の遺体を逆にたどれば、彼らが来た場所に
いるはずなんだ、夢地工大が・・・
俺は一人で歩き始める、少し歩いた後、後ろを覗く
佐々木さんと命ちゃんが付いて来ているのを確認し
また足を動かす、数十分も歩くと死体の数も減り
重装備から、だんだん軽装備へと変わっていく
軽装備(ジャージやパーカー、衣服類のみ)
そいて、ぱったりと死体は無くなった
それでも歩き続けた・・一分・・二分・・・
意外と時間がかかったが、視界の端に夢地が居た
無事に夢地の遺体を見つけ、安堵した
・・・無事に?どこが無事なんだろうか?
人が三人も亡くなったのに
この捜索に意味など無かった
坂神夕夜は深呼吸をした・・・・・
そして夢地の遺体を詳しく調べる
靴を脱がせ、上着を脱がせ、隅々まで
解ったことがある
夢地の傷は五箇所、両手両足、そして脇腹
どれも、丸い穴が空き流血の跡が付いていた
脇腹のは、背中に抜ける傷で、細長い物?
両手両足の傷は少し奇妙であった
綺麗な円を描く傷は歪みもなく
まるで最初から開いていたかの印象を受けた
佐々木さんが不意に「あっ」と声を上げた
何か見つけた様だが、それ以降何も話さない
俺はもう一度夢地の体を調べる
左腕二多分刃物で付けた傷・・七と刻まれていた
佐々木さんの態度が明らかに可怪しい
焦っている、紙を掻き毟り
何度も何度も、戻らないと・・・狼が
そう発言し、右手の爪を噛み始める
そんな、佐々木さんの左手を命ちゃんが引っ張る
佐々木さんは我に返り
右手を水で洗い流しタオルで拭き取る
俺と命ちゃんの手を取り駆け出した
佐々木さんは焦っていた
何故焦っているのか解らない
しかし、漢字の七と狼が関わること
だけは今解っていた
向かっている先は、廃病院
ササキ産の戻らないと、と言う発言から
錬時と真希が危険であることが伺えた
夢地達の遺体を見つけるまで
約四日、徒歩プラス捜索を踏まえても
二日〜三日は掛かる、足が痛む
しかし人命に関わってる現状
そうも言ってられない、砂に足を取られて
足を少し捻る、ずきずきと足が痛む
だが止まる訳には行かない
痛みを抱え、それでも走った
進行方向に人影を見つけるそれは数十人の団体で
俺達と向かう方向が一緒であった
佐々木さんは足を緩めた
そして開口一番に「ごめん」と口にした
数十人の団体の格好に見覚えがあった
どこぞで死んでいた、死体の格好と酷似していた
防弾チョッキにヘルメット
顔はヘルメットで隠れていた
佐々木さんが口にしていた・・・狼
進行方向はやはり廃病院
佐々木さんも命ちゃんも戦闘能力者では無い
俺がどうにかしないと、俺はそう決断した
佐々木さんはもう一度言った
俺の手を強く握り「ごめんね」と
俺はそれを辛い事を任せてごめんね
勝手に思った、その後佐々木さんは俺の手を
離して急に空に手を伸ばした
そして唱えた「我が才は贖罪の為に」
彼女の声が二重に聞こえ
彼女の右腕が発光し服の袖と包帯が弾け飛ぶ
光り輝く文字で(時は金成り)の表記
佐々木さんは命ちゃんの耳をふさぎ
言葉を発した「権能、時は金成り」と
視界に居た団体に変化が起きる
叫び声とともに防護服の中身が消失した
ヘルメットと防護服が地面へと落下していく
そこには服しか残らなかった
佐々木さんが後ろに倒れ込む
急いで佐々木さんを支える
俺の視線は佐々木さんの方に釘付けになっていた
途端に聞き覚えのない声が聞こえた
その声は「満足した?」と問いかけていた
声の主を探す・・その場には命ちゃんしか居ない
佐々木さんは、神大寺命を見ながら答えた
「ええ、でもごめんなさい、残りは二人でいって」
俺はゴメンネの意味が解らない
だって別に調子が悪いなら少し休憩すれば・・・
神大寺名は只冷静に「後、何分?」と言った
佐々木さんは涙を流し、掠れた声で答えた
「後ね・・・・・三十秒」と言う
佐々木さんの体は更に発光してその後、霧散した
その間、彼女はごめんねと言う謝罪を呟き続けた
彼女が居たはずの場所に、服すら残らず
残っていたのは、色の違う灰のみであった
俺の理解は追いつかなかった
理解が追いつかないにも関わらず、涙は流れた
空気が読めないのか、神大寺命は淡々と語りだす
「彼女は自分の魂を燃やし、自分の思い描いた
才能を開花させた、これはその結果に過ぎない」
俺は今、苛立ちを感じていた、神大寺命に対して
デリカシーの無さに、だが彼女は話を続けた
「彼女の才能は、他者の生命の為に自分の
生命を消費続ける、そんな下らない才能だ」
この女をぶん殴ってやりたい
だが、俺は少女に手を出すような外道ではない
だから、俺は一つ彼女に質問を投げかけた
「お前は誰だ?」その問を聞いた、神大寺は
ニヤリと笑い、そして問いに答えた
だがその答えは俺にとって予想外の物であった
「私の名前は神大寺命、一応八歳だ」
余りにも普通も答えすぎた
逆に不気味さを感じ、嫌悪感が沸き立つ
今度は彼女が俺に質問を投げかけてきた
「この世界はどう終わると思う?」
俺は少し考える、しかし答えを出せず
質問で返す「この世界の終わり?」
その返答に神大寺命はため息をして、別の質問をした
「人が死んだらどうなると思う?」
俺は良く考え自分なりの答えを出した
「死んだ後は、審判が行われ、天国か地獄に行く」
その答えを聞いた神大寺名は口を大きく開け笑った
そして一言「良いね」と言い、衝撃的な発言をした
「私は神大寺命と言う人生を既に九回生きている
今回は十回目、それと今は九歳だった」
・・・前の周回?・・・意味が解らない・・
彼女はため息をして語りだす
「神大寺名は盲目の少女であり雉鳩のメンバー
であり、サイクルのメンバーである」
サイクル?何のグループなんだ?彼女は続ける
「サイクルの活動理念は、解明すること」
俺は聞き返す「何を?」
彼女はまたニヤつき答える
「まあ、なんでも言いじゃん、それともう行くよ」
神大寺命はそう言い終わると、右手を空へと伸ばす
俺は彼女の右腕を掴み問いかけた
「どこに?」彼女は俺の方に視線を移し
「次の周回へ・・もう無理な周回を捨て」と言った
俺が思考を詰まらせている間に、彼女は唱え始めた
「我が才は探究の為に」
俺は彼女の手を離すと、後ろへと飛び退く
彼女の右腕の包帯が弾け飛び(三重苦)の文字が
手の甲には二百四十三秒の表記が
どちらも発光した文字で書かれていた
そして彼女の声で聞こえる「権能、三重苦」と
神大寺命がいきなり、大声で笑い始めた
俺が困惑していると、彼女は呟く
「今までの九週は全て無駄だった・・・」
佐々木さんの時と違い、彼女に重い雰囲気は無かった
彼女は「お前を呪うぞ、坂神夕夜」
そう言うと左腕に巻かれたミサンガを外し
俺へと投げた、ミサンガに視線を奪われその間に
神大寺名は消え、その場に灰しか残っていなかった
俺は再び、ミサンガを眺め立ちすくんでいた。
*才在る林檎は罪深い 一巻下 完*