才在る林檎は罪深い-1巻-中編
・国鳥に平和を2・
顔元にフサフサとした毛が張り付いてくる、俺は息苦しさの中目を開ける
黒くふわふわしたものを顔から引き剥がし、腹の上に置く
俺の腹の上に黄色の瞳が2つ、黒い物体が話しかけてくる
「おはよう、今日の買い出し、私も連れて行ってくれない?」
よく目を凝らす、それは黒猫の怜名だと気がつく
「でも防衛係担当じゃなかったっけ?」俺は怜名にそう問う
怜名は笑みをこぼす、ボンッ 何かがベットの上に飛び乗ってきた
それは口を開くと「私の才能は言わば複製」
その声色は怜名であると思わせる程似ていて口から「双子?」と漏れ出す
黒猫がため息を付いた、俺の顔に近づくと右頬を肉球で押され
強制的に左側を向かされた、視界に埋め尽くされる程の黄色の眼球
口から悲鳴が出そうだった、しかしその前に複数の黒猫に口をふさがれる
怜名が「にゃん」と鳴く、その瞬間黄色の瞳が闇へと消えていった
「じゃあもう行くね」そう一言発すると、黒猫はベット下の闇に消えた
俺はため息をつくと目を閉じた。
眩しい光を眼に喰らい、俺は起き上がる
しかし、不思議なものだ昨日から生物の音が全く聞こえない
鳥のさえずりも、虫の音も、車や電車の稼働音も聞こえない
東京にいるんだっけか、、、、、、。
俺は枕元のジャージを羽織り、廊下に出た
階段を降りるとすぐに入り口があり、そこから外に出る
外はあいも変わらず雪が振り続けていた、俺は手を伸ばし雪に触れる
「温かい」それが俺の感想だった、低温やけどだと思い手を引く
指先に灰色の粉がつく、俺はしゃがみ、雪をすくい上げ観察する
焦げのような黒い粕が混入している、降り注いでいるこれは何だ?
そう思っていると不意に後ろから声が聞こえる
「それは火山灰だよ」
俺は振り返る、黒猫の怜名が毛づくろいをしながら鎮座していた
「火山灰?」そう聞き返した、黒猫は首を縦に振った
黒猫の後ろから夢地が歩いてくる、黒猫は地面へとまた消えた
夢地は周りを見回し首を傾げた
「怜名居なかったか?」夢地はそう俺に問いかける
俺はこの男に恨みがあった、だから適当に答えた
「居ません、それより今日の夢地さんの予定は?」そう問い返した
夢地は考えながらその問いに答えた
「俺?・・・・俺はねー・・・買い物に同行するわ」
夢地はそう言い自分の頭を左手でかいた、夢地は手を差し伸べ
「ほら行くぞ」と言った、俺は夢地の手を払い除け立ち上がった
病院に向かい歩き出す、俺を何歳児だと思っているんだか
夢地は残念そうに手を見ていた、俺は少し可愛そうかなと思ったが
バッサリと切り捨て「置いて行きますよ」と急かした
・買い出し組・
夢地は渋々、病院内に戻った、夢地の背後の灰色の世界で
一匹の獣が笑っている気がした。
二人は病院内に戻ると、夢地は受付を昨日とは逆の道へと歩き出す
通路の突き当りの階段を降りる、一階に居たはずなのに・・・。
階段を降りた先に部屋があり、部屋の扉に文字が書かれている
夢地という男が解らなかった、到着した部屋は霊安室
夢地は扉に鍵を差し回す、扉は悲鳴をあげながら開く
特に悪臭などはせず、かなり冷えこんでいた
そんな部屋に足を踏み入れる、俺は自分の目を疑った
彼らは・・・霊安室を食料保存庫代わりに使っていた・・・。
とても正気じゃない、頭がおかしすぎる、そう思った
地面にスノコを敷き、その上に牛乳や卵等の日持ちしない食材から
乾パンや冷凍食品などの保存食等が整頓されていた
・・・あまりの衝撃に気が付かなかったが俺の正面に扉が見えた
シンプルで曇りガラスがはまった、よくあるタイプの扉だ
ただ1点を除いて・・・・・その1点とは・・・・扉の縁
扉の縁になにかの爪の跡と赤い液体が付着していた
まるで、何者かがその部屋に無理やり引っ張り込んだような
そんな跡だと思った、背後から甲高い声が聞こえた
「見ちゃったねww」背筋が凍る、人ならざる者の気配を感じ
後ろを向いた・・・ヴェルが居た、パーカーを身にまとい
フードを深く被り、そのフードの隙間から触手と舌を伸ばす
顔はよく見えないが、彼女・・・・・ヴェルであることは解った
恐怖は初対面時に比べ大分マシになった・・・と思う
それでも彼女から漂う異型の気配は衰えることを知らず
俺の心臓を締め付ける、息苦しく、身体も動かない
強い恐怖心で無意識に破片を構える
すぐに夢地が俺とヴェルの間に入ると、俺の破片を取り上げた
そして俺の頬に一発食らわせ、両腕で俺の肩を揺らす
俺は夢地の顔面に握りしめた拳で殴った
夢地は左手で顔を押さえながら、ヴェルの方を親指をさした
俺は指された場所に視線を移す、そこに異型の姿はなかった
あったのはフードを深く被り眼にクマを作った大人しそうな少女
その少女は俺の顔を覗き込んでいた、俺の心臓はまた正常に鼓動を始めた
俺は大きく息を吸って、吐いた、深呼吸を終えると、俺は問いかけた
「お前って、ヴェル?」ヴェルは頷くと満面な笑みを浮かべ
服をまくり腹を見せた、臍の下に(我が神に捧げる)と表記があった
しかしヴェルが何故それを見せたのかは理解できなかった・・・・。
戸惑う俺と、疑問を浮かべるヴェルを見かねて、夢地が会話に割り込む
「そんなことより、今日の買い物は、鬼殺し店に行って
昨日飲んだジュース、菓子パン、怜名の食料を買って帰宅するだけ」
夢地のその発言を合図にヴェルは俺の横をゆっくり通り過ぎ
扉の前で止まった、ドアノブを掴み、何かを唱えた
「分ぐる良い、無ぐるウナ府、クトゥルフ、以下省略」
ヴェルの言葉に答えるように扉は悲鳴を上げて変形を初める
中心に吸い込まれたかと思うと一瞬のうちに鉄扉に変貌する
ヴェルはドアノブを回し引っ張る、扉の先はどこかの駐車場に
繋がっていた、夢地は振り返ると俺の前まで歩く
右腕の裾をまくると文字を隠すように包帯を巻いた
ヴェルは「包帯は取るなよ」そう言うと
ヴェルとともに扉を通り抜けた、そして俺を手招きした
俺もあとを追い扉を通り抜けた、そして膝から崩れ落ちた
視界が歪む、耳障りな音が鳴っている、黙れ・・黙れ
黙れ・黙れ・黙れ・・吐き気がする・・・黙れ・黙れ・黙れ
黒い物体が此方を指さしあざ笑う、煩い・黙れ・見るな
黙れ・煩い・・・俺に近づくな・・・笑うな・・黙れ・黙れ
笑い声がやまない・・憎い・憎い・頭が割れそうだ・黙れ
煩い・・煩い・・こっちを見るな・黙れ・・・死んでしまえ
・・ゴンッ 鈍い音がなる、視界のぼやけも薄れ
意識が現実へと帰還する、顔面に痛みを覚える
口の中で独特な鉄のような味が広がる、右頬が痛む
右口内を切っているようだった「意識は?」
夢地の声が聞こえる、俺はゆっくりと頷き、辺りを見回す
閑静な住宅地の駐車場、鉄製の建物を背にして座り込む
俺の、目の前に夢地、左側にヴェルが立っている
ヴェルは目の前の扉に触れ、何かを唱える
数十秒後に詠唱を止め、扉に手をかざした
扉は跡形もなく消えてしまった、夢地の手を借り起き上がる
それを確認したヴェルは駐車場を出ていく
夢地に手を引かれ、俺たちも駐車場を後にした
徒歩五分、目的地についたようだ、倉庫の見た目をした
スーパーマーケット?に到着した、全員無言であった。
・買い出し組2・
到着した、スーパーは至って一般的
入り口にトイレペーパーやティッシュが置かれ・・・・・
・・は?・・・値段・・おかしくね・・。
二千円・・・ティッシュ一袋・・・・税込2,600円
物価が壊れるにしても・・・約10倍・・・・・
夢地とヴェルはティッシュ、一袋を持つと店に入店していく
俺はと言うと値段に気を取られていて置いていかれる
俺は、焦って二人を追うように入店した
入り口から二列目、酒売り場で夢地を発見する
ヴェルを探す、お菓子売り場で店員と談笑する姿があった
その姿に驚愕を覚えた、ヴェルの脚と腕・・・・異形の姿
触手な恰好で当たり前のように店員と会話していた
女性店員、白いワイシャツにジーパン、その上にエプロン
背は低く、童顔、小学生〜中学生を思わせるような姿
そんな小さい子がヴェルに怯えること無く談笑すること
それに心底驚いた、ヴェルは触手をいじりながら
楽しそうに会話をする、時々出る笑顔を棚の裏から見ていた
夢地や他に人への不満、怜名がかわいい自慢、俺のこと
しばらく聞き耳を立てていたが急に声が止む
俺はそれに違和感を覚え、棚からゆっくりと顔をのぞかせる
店員が此方を見た気がした、店員が手を前に出す
その手の中に青く発光する球体が出現する
店員がそれを握りつぶす、右腕の文字が青く発光する
球体は勿論破裂する、その中から液体が飛び散る
「砕け金砕棒」店員のその発言をトリガーに
先程の液体が集まり店員の手元に金棒が顕現した
店員は金棒を引きずりながら俺のいる方に歩いて来る
そして、店員と俺は向き合う形で立ち尽くす
向き合った時に店員の前髪の間から二本の角が見える
店員がボソリと何かを呟く、俺は「何て?」と疑問文で返す
今度ははっきりと店員の声が聞こえた
「覗き見はマナー違反です」俺の脳天に金棒が振り下ろされた
即座に痛みを覚悟した、しかし痛みはまだ来ない
それどころか、首元を引っ張られ、後ろに倒れる
俺の顔面スレスレを金棒が過ぎ地面にクレーターを作った
血の気が引いた、次に備えたが、店員は動きを止めていた
俺の背後に視線が言った店員は少し、凝視を続けていたが
何か解ったのか口を開いた「あれ?工大さん?」
後ろを振り向けばおっさんの顔が近くにあった
俺の背後で首根っこを掴む夢地の姿・・・・・
夢地は申し訳無さそうに、俺のことを右手で指し
「こいつウチの新人の・・・・・まあウチの新人だ」
店員は歯切れの悪い夢地を見て少し訝しんだ、そして
「工大さん、どこでさらってきたの?」と言った
工大は明らかに怪しい反応を見せ、どもっていく
「この子の名前は?通報するわよ」
工大は少し考えた後「こいつの名前はわからない」
そう言った、店員は金棒を構える
工大は早口で「こいつは、GPEだ」
店員は夢地の発言で少し長考する
店員は俺の顔を覗き込むと、ため息一つ
店員が金棒を地面に落とす、落とした瞬間
金棒は消えた、それと同時に額の角も引っ込んだ
店員は前髪を右手でかきあげると口を開く
「はじめまして、この鬼殺し店、店長の志姫美だ」
俺は、店長であったことに驚き声を上げた
「店長!?そんなに小さいのに!」
志姫美の姿が視界から消える、志姫美の姿を探す
志姫美はすぐ近くに居た、俺は志姫美に腹パンされた
その体格からは想像できない打撃を受け
俺の身体は宙に浮く、棚の角に背中を強打する
苛立ちを覚える・・・・・・・・・・「人間失格」
夢地の叫び声が聞こえる、しかし俺にはどうでも良かった
俺は志姫美と向き合った、志姫美は拳を握り構える
俺は、もはや志姫美を止めることを考えいなかった
ただ一つの感情で埋め尽くされる、この人間を殺さないと
・・・カランッ、何かが足元に落ちる、それを拾い上げた
それは鏡の破片だっ・・・・俺の顔面に鋭い痛みを覚えた
鼻からは液体が垂れる、鼻筋を押さえ只々呟く
「人間失格」志姫美は鼻を押さえ悶絶する
俺は破片を握りしめた、手のひらから出る液体を確認し
「人間失格」そう唱える、志姫美は握りしめた拳を開き
声を上げる、構わず俺は破片を首元に持っていく
「流石にそれは許容できない」ヴェルの発言
それを合図に地面から触手が生え、俺の四肢を拘束した
衝撃で破片を地面に落とした、俺はため息をつくと
また一回・・「人間失格」たった一言だった
触手は俺を離し、志姫美を狙い腕に巻き付き始める
ヴェルの戸惑う声が聞こえる、俺はしゃがみ込み
鏡の破片を拾い上げる、そして首元にそれを持っていく
そんな時、左肩に重みが乗り、よろける
視線を急ピッチで左肩へと移動させる
俺の頬にひげが当たる、それは怜名であった
怜名は俺の顔にゴワゴワとした頬を擦り付け
「後は私に任せてくれない?」と言う
俺は納得がいくわけもなく「でも・・」
怜名は肉球を俺の鼻に押し当て
「私がやる」そう言い放った・・・俺は頷く
怜名はヴェルと志姫美ににじり寄る
俺は、肩を叩かれ振り向く、夢地が居た
夢地は紙を差し出し「手伝って」と
俺は、ため息をして「早く行こ」手を引っ張った
夢地とともにメモの商品をカゴに入れていく
菓子パン、冷凍食品、炭酸飲料、乾電池
ごみ袋、牛乳、即席麺、相当な数をつめる
元の場所に戻ってくるとヴェルが正座をして
その上で黒猫が気持ちよさそうに寝ていた
ヴェルは膝を震わせながら、手を地面に当てた
触手が器用にティッシュをカゴに入れる
そのまま触手は俺と夢地の背中を押し
レジへと向かせる、振り返ると
ヴェルは震える足を抑え悶絶していた
レジに着く、レジスターを見つめる少女
・・・志姫美の姿があった・・・・。
俺は、一歩後ろに身を引いた・・・・
志姫美は俺たちに気が付き満面な笑みを浮かべた
俺はカゴを夢路に押し付けて、振り返り歩き出す
しかし、服の裾に重み・・・誰かの手に掴まれる
俺は気にせず、一歩を踏み出す
次は肩を叩かれる、また一歩
腰にあった重みが足元に絡みつく
俺は諦めて振り返る、そこには手を伸ばす夢地
いい年して足に絡みつく志姫美の姿が
余りのしつこさに苛立ちを覚え、舌打ちをする
足元の、志姫美は離れ土下座をしだす
そんなにも、怜名が怖いのだろうか?
苛立ちや怒りはすっかり冷めて
面倒くさいと言う感情だけが残った
何故殺そうとしたのだろうか?
何かズレている感じがする、許せないの?
許す一択でいいだろう、感覚が可怪しい
感覚が麻痺している・・・・・
何故殺す?霧がかったものを覚える
頭の奥底で誰かの話し声が聞こえる
「・・・また人を傷つけたの?、逮捕されちゃうよ」
女性?優しく何処か聞き覚えがあるような・誰だ?
「何言っているんだ、俺は相手に返しただけだよ」
男の声・・・・・俺?・・・何も覚えてない
法が俺達を守らないなら、もういらない・・・。
お前は誰だ?・・・・俺はこんな事言わない・・
本当か?・・・法は俺達を人間の括りから外した
お前は凶器だ・・・・人を殺せる・・犯罪者だ
殺さずに済むならそうあるべきだろ・・・・
そんなんだからお前は・・「おい!」
誰かの声が聞こえた、俺は意識を現実に向ける
夢地が困った顔で地面を指差す
涙や鼻水で俺のズボンを汚す、いい加減泣き止めよ
怒りがこみ上げる、思わずため息をつく
俺にしがみつく志姫美を引き剥がし、「何?」
と怒鳴りつけた、志姫美は声をつまらせ
「あうあう」と泣いている、呆れてしまった
本日何度目かのため息をつくと
もう一度志姫美に問いかける「要件は?」
そう強く言った、志姫美は袖で涙を拭きながら
「ごべんなさい」と謝罪を述べる
俺は只々冷たく「そう」とだけ返した
・・・「ミャーん」一匹の猫の鳴き声
それに続き足音が響く、俺は音の方を向く
ヴェルに抱き抱えられる黒猫
それに満足そうなヴェルの姿が見えていた
黒猫が「そろそろ許してあげなよ」軽く言う
俺は志姫美近づく、志姫美はビクビクと肩を震わせる
俺は右手を伸ばした、志姫美は目を閉じた
俺はそのまま志姫美の頭に右手を置き撫で回した
「おーいー」と志姫美は怒りをあらわにして
頬を膨らせ、顔を真赤に染め上げた
その挙動に、志姫美からはガキ味を感じてしまう
俺は志姫美が嫌いだ、あまり関わりたいとも思わない
関わって欲しくもない、だがこの姿は少し可愛かった。
・買い出し組3・
ヴェルと夢地、怜名と合流して会計を済ませた
俺達四人は店を出る、入口まで志姫美は見送った
俺達は歩き出した、駐車場の半分に来た所
夢地の足が止まる、俺は止まれず夢地の背中に追突する
不満を感じながらも俺は正面を向いた
分厚いヘルメットを付けゴツい服を着た人間4人
Yシャツ腕まくり、サンダルを履いた男が一人
俺達に気づいたのか、足を止める
俺達、Yシャツ、計9人が向き合う
張り詰めた空気を感じ取る、臨戦態勢だ・・・
Yシャツ男がその空気をぶった切り、仲裁する
「争いは望まない、私達の目的は人命救助だ」
ヴェルが一歩踏み出した、重装備連中が動いた
全員腰に下げていた拳銃を手に取り、構える
舌打ちが聞こえる、ヴェルは両手を上げた
そして「クトゥルフ神話」そう言った
その発言後すぐに、拳銃は地面へと落ちた
触手が彼らの首を締め上げる
ミシミシと人間が壊れる音が聞こえる
「ヴェル!ストップ!」
背後からそう聞こえる、触手の動きが止まり
触手に吊られた人間が、宙を揺れていた
俺の横を通り過ぎ志姫美がYシャツ男の
胸ぐらを掴み、腹に一発、鈍い音が聞こえ
Yシャツ男の悲鳴が聞こえる、痛そう・・・
ヴェルは触手から人間を手放すと
黒猫を抱え、店内に戻っていってしまった
俺はと言うと夢地の後ろに隠れていた
志姫美が重装備集団の安否を見ていたが
騒がないところを見るかぎり無事そうだ
Yシャツ男は息を整えると、夢地に謝罪した
夢地も何故だか謝罪をしている
俺は只ひたすらに空気に成っていた
Yシャツ男は俺に気がつくと唐突に自己紹介を始めた
「私の名前は畑町、才能はテセウスの船
才格者取締議会、四季長の春担当だ
一緒に居た重装備連中は市が付けた護衛だ
春は主に、救助をメインに動く機関で
志姫美が頭領の夏が取り締まり
他にも秋の頭脳と冬の殲滅の二人がいる」
俺は凄く思った、この人は中二病だと
畑町は引いている俺に構わず、話を続けた
「テセウスの船は、物体を部分部分で区切り
区切りで部品を取り替えることが出来る
しかしそれはあくまで部品の・・・・・・」
長い話に飽きた俺は軽く聞き流し、周りを観察する
駐車場入り口付近で男が立っていた、何かをしているが
よく見えず、やむおえず、夢地の前に出た
男はスマホ片手に何かを言っていた・・・・・
「だから、標的は見つけた、1分後だ」
そう確かに聞こえた、「夢地・・・」
言い終わる前に、「危ない」志姫美の声
志姫美は畑町を掴み地面にふせさせる
爆音の銃声が鳴く、8発〜10発
俺の腹部に激痛が走る・・・・痛い
怒りが込み上げた、俺が何をしたというのだ?
口元から落ちた液体が服に染み込む
俺は大きく息を吸う、しかし吐けない
代わりに腹部から血が吹き出す
痛みと苦しみで飛びそうな意識を保つ
腹の傷に指を突っ込み、一言だけ発する
「夢地」思ったより大きな声は出なかったが
夢地を正気に戻すのは成功し
威嚇する志姫美を抱え、店内へと逃げていった
それを見届けると前方に視線を移す
7人、ぼやける視界にはそれだけが映り込む
頬が緩む、口から笑いが込み上げた
銃声がまた響く、今度はたくさん
・・・・音が止む「人間失格」
悲鳴が聞こえ、また銃声が先程よりも続く
カチャカチャと空打ちの音が鳴り続ける
俺は大きな笑いを響かせて、また一回
「人間失格」悲鳴、嗚咽、嘔吐音
地獄絵図の中で俺は目を開けた
二人が倒れ込み、一人が泣き
三人が狂ったように引き金を引き叫ぶ
残り一人は既に遠くを走っていた
ため息を付き髪の毛をいじる
俺はこの状況に驚く程、順応していた
まるで殺すのが当たり前かのように
先程の長考に意味など無かったな
辺りの静けさに気がついたのか
夢地、畑町、志姫美が店から出てくる
志姫美は、外の風景を見て嗚咽する
畑町は志姫美の背中をさすり
夢地は俺に駆け寄ると、服を引っ張った
ぼろぼろな服はすぐに裂けた
夢地は慣れた手付きで俺の体を拭くと
バックから、新しい服を取り出し、差し出した
俺は何も言わず、受け取ると、服を着た・・・
夢地工大、この男について、俺は良く解っていない
面倒見がよく、面倒くさがりで、変なおっさん
反射神経は多分あるし、身のこなしが良い
暴れる志姫美をもろともせずに運ぶ
体幹の良さがあり、多分武術の心得がある
先程の襲撃時、胸ポケットに包丁が見えていた
発砲時に車の裏に隠れていたし・・・・・
それならやはり可怪しい、なら俺も連れて・・
夢地は、味方か?敵か?強いのか?
今は解らない、いつかは解るだろう
またその時に考えてみれば良いだろう。
・抜け駆け・
いつの間にか、怜名とヴェル、畑町で
密談を始めていた、耳を澄ませる
怜名「本当にしぶといわね、あの団体」
畑町「こっちでは、CRと呼ばれています」
ヴェル「何の略称?」
畑町「ん?コックローチ」
怜名・ヴェル「あーなるほどね」
畑町「中山先生にお願いしているんだけど」
ヴェル「また手伝う?」
畑町「オタクと先生でいけると思います」
ヴェルは納得言っていないようだが
そこで会話は終了し、畑町は店の方に行く
・・・先程の話を聞く限り、襲撃者は
コックローチ、殲滅は何回か行い
まだ完遂していない、オタク?先生は・・
まだ正直解らない、何故銃を持っているんだ
何処かで盗んだ?にしては・・・多いな
自衛隊や警察から盗んだとすると裏に絶対いるな
内通者もしくわ、才格保持者、コックローチか
そんなこんな、考えていた俺の頬を鋭い毛が刺さる
俺は思考を止め、意識を周囲に向けた
右側にヴェル、左肩に怜名・・・・
怜名が俺の頬を舐める「ファッ」と声を漏らし
俺は一歩飛び退き身構える、怜名が飛び降りた
怜名はヴェルに抱えられる
ヴェルと怜名は「帰るよ」と言い歩き出す
俺も一歩踏み出した、視界には夢地の姿がなく
振り返る、夢地と志姫美、畑町が話していた
まあ、別に放置で良いか、俺は怜名達を追った
二人は、店の裏側では無く、交差点を抜けていく
次第に生活音が響く様になっていく
後を追いかけて、大体10分
何の変哲もない裏路地へと入っていく
裏路地でヴェルは怜名を降ろすと壁に手を当てた
当てた右手を上から下に降ろす
壁の表面が下にフェイドアウトして扉が出現した
その扉は、学校にあるような横開きの扉で
扉には1,325番の表記、鍵付きではないようで
ヴェルはすぐに扉をスライドした
淡い光が扉から漏れ出す
ヴェルは足元の毛玉を回収すると、何も言わず
扉へと入って行った、俺も慌てて飛び込んだ
扉の先は別の路地へと続いていた
正面に民家、背後にマンション
右側の奥には居酒屋、左側は大通り
先程とは景色が一変し、騒音が響く
車の音、人の話し声、蝉の鳴き声
日常、そんな感じの音が聞こえていた
一瞬空間が歪んだ感じがし、嗚咽を一つ
頭を左右に振り、平手打ちを一回
触手の手を借り立ち上がると
ヴェルとともに大通りへと歩き出した
ヴェルは大通りに出る前にまた唱える
「諸お臓器なる、コヲを惑わす、ミョウソウゲル」
ヴェルが一歩、大通りから出た箇所から
異型の部分が消え、地肌へと変化していく
ヴェルの印象が変わる、化けた?
いつもの雰囲気を感じない、ヴェルは歩き出す
俺は足の疲れを感じながらも懸命に追いかけた
しかし、思ったより歩かず3分ほどで駅前?
に到着する、ヴェルはベンチに怜名を置くと
ハンバーガーショップへと入店していく
俺には選択肢がある、1つ、入店
2つ、怜名と待機する
・・・・ショップの店員は無事だろうか?
無銭飲食は流石にしないよな・・・・・・
俺はハンバーガーショップへと入店する
ハンバーガーショップは一階にカウンター
二階から三階が席と言うオーソドックスの
パターンの店でカウンター奥に厨房
カウンターの上に電光掲示板
店員に文句を言う客・・・・・・・
ヴェルは電光掲示板を指さし叫ぶ
最早、耳を済ませる必要もない
「だからー、チーズバーガーは何でないの?」
別に才能の使用もないので、店員には
悪いが放置することにして俺は窓際に座る
窓の外を眺めると、気持ちよさそうな黒猫が
暑いからか舌を出し、腹を見せ眠る猫
一匹の蝶々が、猫の鼻に止まる
猫はくしゃみをする、蝶は羽ばたいた
振動が響く、凄い音が背後からする
後ろを振り向く気はおきない・・・
聞き覚えのある音が聞こえる
ため息をすると振り返った・・・・
宙を浮く店員、前後に揺れる
ほんの少しの間、ほんの一瞬
目を離しただけなのに、店員、ご愁傷様です
ヴェルはカウンターを叩き、叫んでいた
「だからー、広告の品、南国とショコラ
の織りなすハーモニーはいつ入荷なの!!」
死体に話しかけるヴェル、実に哀れに・・・
「ですからー、ニ日後に入荷になります」
死体?はそう叫んだ・・・生きてたか
まあ、店員は体を固定されてるだけのようだ
俺は、また窓の外を眺めた・・・・・・
騒がしい外、逃げ惑う人々、武装集団
・・・・俺は何も見なかった・・・・・
俺は視線を店内に移す・・・・・
「だーかーらー、月が豚に恋をした
の入荷はいつなのって聞いてるの」
ヴェルが店員の胸ぐらをつかみ叫ぶ
・・・・・俺は何も見なかった・・・・
窓の外に視線を逃がす・・・・・・
武装集団はベンチの猫にナイフを向ける
黒猫は気にせず毛づくろいをしている
・・・俺は・・怜名が危険だ!!?
俺は席を立つと、ヴェルの後ろに立ち
肩を叩く、機嫌の悪いヴェルが此方を見る
何も言わずに取り敢えず、窓の外を指した
じっと動かなくなったかと思えば、ため息
「猫の運動の時間だから放置しておきな」
そう一言言うとまた店員に文句を言っていた
俺は店を出た、少しでも加勢しないと・・・
外での攻防は既に終わっていた
視界には、立ちすくむ九人の武装者
その中点に黒猫、黒猫は毛づくろいしている
中点の黒猫から九人に影が伸び繋がっていた
俺が呆気に取られていると背後から声がする
「ほら、大丈夫だったでしょ、怜名だもん」
そう言う、ヴェルが袋を抱え立っていた
俺は驚きを隠せなかった・・・・
不意を突いたとは言え、九人を完封
影に干渉、相手の行動を制限して拘束
いつもの、怠けた姿とのギャップで
一瞬だが、ヴェルより強いのではないかと
思っていたが、触手で再度拘束していた
為に、力関係を把握してしまう
ヴェルは黒猫に近づき、ふわふわな腹に
右手を置き撫で回し、呼びかける
怜名は欠伸をすると起き上がり「にゃん」
と鳴く、その瞬間影が途切れ消える
だがヴェルの触手があるからか
微動だにしない・・・
ヴェルは黒猫を抱え上げるとベンチに座った
地面から触手が生え袋をヴェルに渡す
ヴェルが俺に手招きした、俺はヴェルの隣に座る
ヴェルから紙袋を一つ渡される、紙袋の中身は
ハンバーガー、フライドポテト、ドリンク
の三品、これは食べていいから渡したのだろうか
そう考えながら袋の中身を眺めていた・・・
「早く食べなよ」そう聞こえた
俺は、ハンバーガーを取り出し、包装をめくると
かぶりつく、口の中に濃厚な肉の味わいが広がる
柔らかく、それでいて歯ごたえを与えるキャベツ
ワンアクセントを与えるピクルス
腹を満たすパンズ、久々になる肉に心を踊らせ
食べ進める、サクッホロなフライドポテトに
冷えている炭酸、俺の腹を心を満たし
俺を満足させる、胃に掛かる負担を忘れ
ただ一心不乱に食べ進め、約十分、完食した
食べ終わった後に頂きますを忘れていたこと
に気が付き、「ごちそうさま」を口に出す
ヴェルの方を見ると、まだ食べ終わっていない
理由は膝の上の毛玉かな?ポテトをかじっている
あんな脂っこいもの猫に大丈夫か?
と言うか、猫なのか?人間なのか?
そういう疑問しかわかない
俺はため息を付いた・・・・・
最近良く聞けば解ることを考えてしまう
実に無駄に時間を使っている気がする
黒猫の耳がピクリッと動く
ヴェルは食べるのを止め一方を眺め続けている
ヴェルの視界の先には、杖をついた老人と
いかにも不健康な中年男性が立っていた
老人は、黒いジャケットに白いTシャツ
黒いズボンに白い髪、初見の感想は教員
もう一人は、・・・・・中年・・・・
食べ物のシミが付いたキャラTシャツ
よれよれでパツパツな色落ちしたズボン
サンダル・・全身から気だるさを感じる
老人はスマホ片手に何かを言っており
中年はヴェルの方をじっと見ている
ガタンッ、右側の物音で視線を戻す
そこには黒猫しかおらずヴェルはいない
悲鳴が聞こえ、急いで視線を移す
そこには見慣れた光景、絞め上げる
ヴェルに、何かを言う中年
諫めようと、席を立つとヴェルの元へと歩く
老人が俺に気がついて、手を引っ張り
ベンチに戻っていくる
「自業自得だから放置しておきましょう」
老人の一言で納得して、俺は座って待機する
老人は聞いてもいないのに自己紹介を始めた
老人の名前は、中山恢、神話学者の教師で
右腕の文字は、ANDORAS、年齢は43歳
年齢の割に老けているのは契約の影響
ヴェルに締め上げられている中年
名前は、梶咥也・・む・自宅警備員
才能は、アテナイの学堂、年齢は39歳
ゲームが好きでMMORPGをこよなく愛し
一日に17時間はプレイしていたが・・
才能の覚醒によって、役所務め?になった
アテナイの学堂は非戦闘能力で基本的に
冬季・・・中山もしくわ、夏季・・志姫美
どちらかと行動する事が義務付けられている
日給1万円で、残業手当無し、職務放棄は
処罰の対象、梶の仕事は、事件の先読み
及び解決、アテナイの学堂は咥也の頭に
学者が通る道が形成されそこでは
昼夜関係なしに議論が繰り広げられている
本人曰く、能力を封じてもらわないと
頭が壊れるので仕方なく働いてるそう
今得れた情報はそれぐらいだろう
話を聞いている間に夢地達が到着する
俺と中山は立ち上がると、一歩踏み出す
その時だった、俺の横を黒髪ロングの
獣耳を生やした少女が通り過ぎた
咥也が鼻息を荒くしてその少女を凝視する
咥也の態度にヴェルが激怒し眼が血走る
地面から禍々し触手達が姿を見せ始める
胸が締め付けられる感覚を覚え
眼球が、ヴェルを見ることを拒否する
黒いモヤがヴェルにかかる
空気が振動する・・・そんな
・・・そんな・・・・そんな・・・
まぶたを開く、眩しさで瞬きを数回繰り返す
眼が光に慣れてやっと周りの景色を認識する
まず最初に点滴が俺に刺さっている
俺の横に大きいカーテンが掛かっている
仰々しい機会に白い毛布・・・・・・
そこは病院のベットの上であった
カーテンが不意に開き、女性が入ってくる
女性は俺を見た途端に俺に飛びつき
涙を流し、そして抱きしめた
俺は状況が理解できない・・・・・あれ?
何故だかは解らないが俺は涙を流していた
長い苦しみから開放されたそんな気がしたんだ。
*才在る林檎は罪深い 1巻中 完*