ロサンゼルスの夜
小百合を抱いて彼女の奥深いところまで貫くとき、いつも僕は不安な気持ちになる。彼女の身体を常日頃我が物にしている男がいるのだと。結婚しているのだから当然の話だ。僕は彼女が日本に帰省したときに、肉体の疼きを治めるためのただの喋る人形なのだから。三年前からは。
「アメリカにはいつ帰るの?」
「明日よ。夜の飛行機に乗って」
「貴重な日本での一日を、ここで浪費してもいいの? 山梨の実家から東京まで来るのに、時間もかかる」
「あなたが欲しいから、と肯定してほしいみたいだけど、勘違いしないでね。涼介に会うのはついでだから。大学の同期の友達に会っているの。毎年のことよ。もう一段落したら、シャワーを浴びて出かけるから」
早めに済ましてよね、といわれないだけマシだった。
「旦那は不自然に思わないのか?」
「ジャックは、お父さんと釣りに出かけているのよ。趣味がふたりとも同じだから」
「五年付き合った僕たちが別れたのは、小百合が海外に転勤することが決まったからだ。君が言い出したことで、僕も納得していた。だけど、年に一度こうやって押しかけてくるなら、なぜ君はあの国で結婚したんだ? 僕は待っていてもよかったのに」
「プロポーズされたからよ」小百合はいった。当たり前だというように。「涼介は今でも好きだよ。でも、異国の地でずっとひとりで夜を過ごすのは耐えられない。パートナーが必要だった。だからジャックを選んだの。あなたと遠距離で続いても、絶対に浮気する確信があった」
「だけど今は不倫をしている」僕は言い返した。
「ただの息抜きだよ」小百合のキスで黙らされる。「あなたにとってもね。たまには今と違う抱き心地の方がいいでしょ」
「僕の恋人を知っているの?」
「知らなくてもわかるの。好きな人に女ができたかなんて。あなたも私を忘れられないのよ。何年経っても」
僕は高みへと達した。小百合は受け止め、シャワーを浴びると服を着て靴を履いた。
「じゃあ、また今度ね」そう言い残してアパートを出ていった。
僕はまた、長い月日を待ち望むことになった。来年は、小百合の転勤が終わる年だ。彼女はそのままアメリカに住むだろうか? きっとそうだろう。日本での仕事を辞めて。だけどきっとまた、僕のところへ戻って来ると、ベッドに残るぬくもりが思わせてくれた。
それにもしも破られても、今度は僕が約束を守る番だ。好きな女なら、追いかければいい。
後日僕は、アメリカ行きのチケットを手配した。