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スコーバレーの雪に照らせ  作者: 山手順一郎
7/9

君のために生きる

 父親が逮捕された。人を殺して。トラックドライバーだった父は、急に飛び出してきた七歳の子供の命を奪った。罪名は、過失運転致死罪。僕はただ彼を気の毒に思い、彼女を憎悪した。家族の生活は小さな女の子に破壊された。

「悟、優花のことを頼む……」面会したときに父はいった。母さんが優花を生むときに亡くなったから、父は妹のことを溺愛していた。亡き妻の忘れ形見として大切に育て上げた。しかし優花はまだ高校生だ。僕はすでに就職して別の家に住んでいるから、彼女は実家で独りきりになる。

「私たちと一緒に住みましょう」同棲相手の日向子はいった。ひとつ年上の可愛い恋人は僕もかなりショックを受けているだろうと、やさしく気遣ってくれた。

 二人で住むマンションの、隣の部屋の住人とも彼女はうまくやってくれている。日向子と一条真奈は同い年だった。日向子は今大学二年生だが、真奈は三年生だった。一浪して志望大学に入った日向子より、真奈は有名な大学にいた。知的な美女で、僕も仲良しだ。


「初めまして優花です。そしてお兄ちゃん、久しぶり」妹の優花はぺこりと頭を下げた。

 日向子も愛想よく迎える。「こちらこそ。悟くんとお付き合いさせてもらっている佐藤日向子です。どうぞ、上がって。悟からよく話を聞いているのよ」

 僕は廊下を歩き、優花を空き部屋に連れていった。「ここで寝ればいいよ」

「ありがとう、お兄ちゃん」彼女はいった。「日向子さんはすっごい美人だね。さすが、イケメンはやるなあ」

 日向子は今朝から張り切ってご馳走を準備していたが、さすがに作りすぎた。僕と彼女だけではとても食べきれない。しかし優花は躰は細いのに大食いだった。「日向子さんの料理、すっごく美味しい」

「優花ちゃんのためなら毎日作ってあげる」日向子は喜んだ。「悟は以外と少食だから、作り甲斐がないの」

「お兄ちゃん、そうだっけ?」

「仕事を始めたらなぜか少食になったんだ」

「普通、逆じゃない?」と日向子。

「近くのスーパーに就職したんだよね。廃棄とか食べてるんじゃないの?」優花は疑う。

「うちの店は全部捨てる決まりなんだ」建前ではそうだけど、勝手に皆持ち帰っている。店長も別に気にしない。というか、自分でも休憩中に余った弁当を胃袋で処理している。

「そうだ。サークルの後輩に、アルバイトを探している子がいるの。あのお店に紹介してあげられない?」

「店長に尋いてみるよ」と日向子にいった。

 父が前にいた会社をリストラされ、学費が払えずに大学を中退して、僕は働き始めた。同学年だった日向子とは今でも関係が続いているし、職場が近いという理由で、「うちに住めば?」と彼女は言ってくれた。今の状況になったときと同じように。


 優花が僕たちの生活に加わってから一週間が経った。「大学行ってくるね」といって、日向子は家を出た。僕のシフトは昼からだ。それに今日は休みだ。

「お兄ちゃん、久しぶりにゲームしようよ」テレビを見ていると優花がリビングにやってきていった。「家を出るとき持ってきたの」

優花の学校は夏休みだ。

 僕はワイドショーを諦めた。「懐かしい。やろうか」と、格闘ゲームに興味が湧いた。

 一時間ほど勝ち負けを繰り返して、優花が突然「日向子さんとよくセックスしてる?」といった。

 僕はコントローラーを放して優花を見た。すると妹も僕を見つめている。媚びた目で。「なにいっている優花。教える義務はない」

「欲求不満なんじゃない?」優花は僕に躰をすり寄せて腕にしがみついた。胸が当たる。

「そんなことない」だが僕は勃起している。

「私はそうだよ」優花は耳元で甘く囁いた。「悟お兄ちゃん。久々に私のこと抱いてよ」

 くっついて甘える彼女を離れさせることが出来ないでいると、そのままキスをされた。思いきり抱きしめたい衝動を必死に抑える。優花は美少女だ。僕が高校生で彼女が中学生のときは、実家でよくセックスをしていた。仲のいい兄妹の、行きすぎたスキンシップ。あのときより、優花はさらに綺麗になった。成長して、躰つきが大人に変化しつつある。

「まずいよ。僕には今、恋人がいるんだぞ」そういったが、昔の唇を思い出して味わっていた。僕の下半身はさらに硬くなって、妹に押し付けている。

「浮気しちゃうから、駄目だっていうの?」

「そうだ」

 優花は吹き出した。「兄妹でのセックスがいけないんじゃなくて?」またキスされる。今度は濃厚な。「お兄ちゃん、学生のときも彼女いたでしょ。なのに毎日私とやってた」

「お前と関係をもってから告白されたんだ」

「浮気されたのは私?」

「そうなるね」

「私を拒否しようったって駄目だよ」優花は僕のズボンの膨らみを、やさしくさすった。

「優花、いい子だから大人しくしてくれよ」僕はやさしく頭を撫でてあげた。「あの頃は僕も若かったし、お前は幼かった。子どもの過ちだ」

 優花はちょっとふてくされて、「私も十分大人だよ。高校生だけど躰は大きくなって、胸も膨らんだ」そして、「お兄ちゃんのも、こんなに膨らんでいるじゃない」握られる。

「ああ……。優花。本当にお前は可愛い子だ」

 胸の高鳴りを誘惑の所為にして、僕からも彼女にキスをした。「お前が、悪いんだぞ。これはお仕置きだ。裸にしてしつけてやる」

「うんいいよ。服を脱がして、お兄ちゃん」


「それで、僕は優花とセックスをしたんだ」全裸の僕はいった。裸の彼女に告白をする。

「悟、浮気したんだ」セックスをしながら、彼女はいった。「いけない子だね」

「嫌になった?」嫌われるんじゃないかと、不安になった。

「全然」彼女はベッドで腰を動かして喘ぐ。「今も私とセックスをして、浮気をしているじゃない」一条真奈は僕に抱きついてキスをした。「そのかわりに、日向子ともちゃんとセックスをしてあげるんだよ。あの子も悟が好きなんだから」

「それはもう、しょっちゅう抱いているさ」

「それでも性欲を解消しきれないから、私の部屋に来るんだね」真奈はまた動き始めた。上から見下ろされて、その魅惑的な眼差しに興奮させられる。「私はそれだけで嬉しい」

「セックス依存症なんだ、僕は」下から突き上げながらいった。「可愛い子と肌を重ねていないと、段々自分を保てなくなってくる」

「私のこと、可愛いと思ってくれている?」

「当たり前だろ。君はストライクゾーンだ」今度は僕が彼女にキスした。「ど真ん中の」

「イケメンでスケベって最高。私も大好き」真奈は僕の上で震え僕も彼女の下で果てた。


「大丈夫だよ。悟は、妹思いのいい子だね」大学助教授の佐倉美紀は、僕の屹立を握っていった。「彼女から誘ってきたのでしょう。なら男の子はちゃんと面倒見てあげなきゃ」

「先生、僕は美人や美少女とずっとセックスしていないと壊れてしまいそうになるんだ」僕はフェラチオされながら、そう告白した。「だから、大学にいたとき先生に誘惑されたのは嬉しかった。好みの女の人だったから。浮気がいけないことはわかっているけれど、セックスはやめられない。溜め込んでいると不安で堪らなくなるんだ」

「何が不安なの?」全裸の美紀は、ベッドに寝そべる僕に跨がって挿入しながら尋いた。

「僕は人殺しなんだ」父と同じことをした。

「それは前も聞いたわ。あなたは悪くない」彼女の吐息が荒くなる。「友達が自殺したのでしょう? 悟が中学生の頃に、同級生が」

「ひかるは、僕の親友だったんだ。僕は彼が自殺するのを止められなかったんじゃない。見殺しにしたんだ」

 彼女のキスで口を塞がれた。舌をねっとり絡めていると安心する。僕はしがみついた。

「大丈夫、大丈夫。悟はすごくいい子だよ」

「先生、先生」後悔と罪悪感を忘れるためにセックスをする。美紀は甘えさせてくれる。夢中になって、僕は今夜家に帰らなかった。どの家にも。


 伊野ひかるは僕と同じで、顔がよかった。中性的で綺麗な顔立ちで、どちらかというと女子に可愛いと言われるタイプではあった。しかし彼は発達障害で、中学生になると学校生活に適応するのが困難になってきていた。だから友達といえる生徒は僕ひとりだった。

 卒業する間際彼に相談されたことがある。「僕はこの先、生きている意味あるのかな」

「なんだよ突然」彼が受験に失敗したことは知っていた。どの会社にも就職できなかったことも。親にネグレクトされていたことも。それでも僕は「あるだろ普通に」といった。

「なんで?」

「ひかるは僕の友達だから」と僕は答えた。

「……そっか。ありがとう。悟はいい奴だね」それだけいって、彼は卒業式の日に行方不明になった。警察が長い間捜索した結果、山奥で首を吊って自殺しているのが発見された。

 何故あのときそれだけしかいえなかった?

 僕はもうどうしようもないクズだ。親友といえばよかった。この先も付き合おうって。


 罪悪感が僕を苦しめ、自分の存在に疑問を持つようになった。しかしセックスはそれを忘れさせてくれる。求められているからだ。素敵な同棲相手に。可愛い女の子に。美人な大人の女性に。そして美少女の、我が妹に。僕の容姿やセックスの技量を褒めてくれる。それだけで安心してこの先も生きていける。だからセックスすることは、止められない。浮気や近親相姦も我慢することができない。


 職場で店長が僕を呼び、今晩申し訳ないが新人アルバイトを教育してほしいと頼まれ、了解した。僕が口利きしたのだから当然だと思った。新田慎君は大学一年生でまだ高校生みたいで初々しかった。若くてハンサムな顔だった。昼間のパートの主婦たちの間でも、評判がよかった。彼は真面目に働いて、少しでも学費を抑えたいとシフトにも多く入ってくれた。日向子はいい子を紹介してくれた。

「久保さんは廃棄弁当食べないんですか?」

「ああ。彼女が夕飯作ってくれているから」

「日向子さんと付き合えるなんていいなあ」

 自分が太らない体質でよかったと思った。真奈や美紀の手料理を食べた日にも日向子のご飯を毎日食べているから、腹がいっぱいになって、売れ残りに手をつける余裕がない。

 セックスした後の仕事は疲れる。新田君が入ってくれて、僕の作業の負担が少し減って助かる。午前は優花がコンビニに行った隙に家を抜け出して、隣の家に移動した。今日はいつもより早く仕事に行くと書き置きして。真奈とシャワーを浴びてから仕事場に来た。

 休憩時間に、今日は朝まで残業するからと日向子に連絡しておいた。本当は美紀に呼び出された。仕事終わりのセックスも疲れる。


「悲しいけど、私たち別れることにしよう」

 今日は休みなのに最悪の日になるらしい。「なんでだよ、日向子」僕は覚悟していた。どうやってバレたのか。誰とのセックスを?

「昨日優花ちゃんが、お財布を忘れて取りに戻ったら、見たの」コンビニに着く前にか。「悟が、真奈の家に入っていくところをね」日向子は少しだけ涙を流したけれど、大泣きしなかった。恐ろしいことに怒りもしない。ただ淡々と別れ話は進んで、「優花ちゃんは私が面倒見るから安心していいよ」と彼女はいった。

 優花はこの場にいない。夏休みが終わって学校に。修羅場とは程遠いやりとりで、僕は荷物をまとめて浮気相手に電話し、隣の家に引っ越した。


「私のこと、怒っているよね」結局、優花は実家に戻った。僕が帰省したとき話をした。父はまだ、帰ってこない。

「当然、怒ってなんかいない」僕はいった。「ごめんな優花。迷惑かけて」

「なんでお兄ちゃんが謝るの?」

「それは僕が浮気したからだろ」

「私とも浮気したのに?」

「それは違う。僕は、お前にも浮気をした」

「自覚あるんだ」

「もちろん」

「じゃあ、私とのセックスは?」

「もうしない」

「なんで? やっぱり嫌いになったでしょ」

「僕はお前を愛している」僕は優花にいう。

「可愛い妹として」

「……ありがとう。じゃあ、これからも仲良くしようよ」

「自分の価値を見つけたんだ」

「なんの話をしているの?」

「お前を大学に進学させるために金を稼ぐ」僕は、父に頼まれた言葉を思い出していた。「仕事が生き甲斐になったんだ」

「意味わかんない」

「僕はお前を性欲の捌け口にしていたんだ」

「それは違うよ。お兄ちゃん。だって私も、お兄ちゃんを愛している」恥ずかしそうに。

「セックスは、気持ちいい。そして楽しい。でも、だからといって、耽るものじゃない」僕は指摘した。「お前にも彼氏がいるだろ」

優花はぎくりとした。「なんでわかるの?」

「僕はお兄ちゃんだ。可愛い妹の変化なんて気づくさ。優花は恋愛を楽しめよ。青春を」

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