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フェルマータ  作者: すてるす
9/9

8話『afflitto』

しばらくの沈黙があった。


電話越しなので、長すぎるようにも感じた。


「そんなこと……考えたこともなかったな」


美憂から応答が返ってくる。


僕は


「そうですよね。普通はこんな事考えませんもんね。僕がちょっとおかしいだけで……」


言いかけた所です、遮るように、美憂から応答が返ってくる。


「おかしくはないよ。嘘をつくのは良くないと思う。でも、そのぐらい悩んでて、一人で抱え込んでるんでしょ?他にこの事について話した人っているの?」


「ええと、山下ぐらいです……」


「山下くんには話したんだね。でも、珍しく、山下くんが拓人の話を他の人に伝えないとなると、山下くんも拓人のために親身に考えてくれているんだね。山下くんは何て?」


「どちらにも終わりは必ず設定されてて、その終わりまでの時間をどう演奏するか、過ごすか、じゃないかって……」


「なるほど。山下くんもいい事言うね。ただのチャラ男じゃないんだ。ちょっと見方変わったかも」


「でも、僕が思い描いてるのは……最後の1音が、フェルマータで、会場に響き渡って、それを会場ごと閉じ込めて……」


僕は美憂だけに、初めて使う言葉で、気持ちを表現し、話す。


「……永遠なんです。永遠が欲しい。演奏も、高校生活も」


また少し沈黙が訪れる。


美憂から応答が返ってくる。


「拓人、残念だけど永遠なんてないよ」


わかっていた。


わかっていたけど、残酷な一言だった。


美憂は続ける。


「確かに楽しいよ。私も。演奏も、高校生活も。でも、必ず月日が流れて、終わりは来ちゃう」


僕は泣きそうになっていた。


「終わりが来るなんて、残酷すぎます……」


美憂は間を少し置いてからまた話し始める。


「終わりって言うよりも、変わっていくと言った方がいいかな。変わっていくものがあるからこそ、いい事もあるんじゃないかな。ずっと変わらないなんて、おかしいもん」


「変わっていくからこそ、いい事……?」


「そう。私たちの恋愛だってずっと出逢いのままだったら、おかしいでしょ?」


「でも、僕はあの瞬間でさえ、閉じ込めたいと……」


「それは心のアルバムにしまう。嬉しい事や、楽しいことは、心の中にとどまり続けるはず」


「心の、アルバム……」


「私たちだって、これからいっぱい遊んだり、楽しんだり、時には喧嘩したりすると思う。むしろ、そうなっていかないと、おかしいのよ。それは月日が流れてこそ出来ることなんだと思う」


「それは……そうですね」


「その方が何度も繰り返す、いや、拓人のニュアンスなら、刻を止めた永遠なんてものより、よっぽど良くない?」


僕は何も言えなかった。


それでも、美憂に言われてもなお、永遠を欲しがっている。


でも、永遠なんてものは絶対存在しない。


音楽にも、楽しい事にも終わりが来る。


それは、もう運命なのだから。


「拓人?大丈夫?」


スマートフォンから美憂の声がする。


何か言わなきゃ。応えなきゃ。


「だ、大丈夫……です」


「全然大丈夫じゃなさそうね。まぁ、これも私なりの意見。答えを導くのは拓人次第」


「あら、結構な長電話になっちゃったね」


美憂がそう言う。


時計を見ると23時を回っていた。


「拓人がいい答え見つけ出せる事を願ってる。でもこれだけは言わせて。嘘をつくのはダメね」


「後、年末は忙しいから、メールアプリでは会話出来るけど、ちょっと電話と会うのはできないかも。メールくれなかったら、悲しくて泣いちゃうんだから。じゃあ、おやすみなさい」


「あ、あぁ……メールは送ります。おやすみなさい」


「あんまり難しく考えないでね」


そう言って電話が切られる。


美憂と話して、新しい意見も出てきた。


変わっていくものがあるからこそ、いい事もあるんじゃないか。


永遠なんてない。


しかし、未来なんて、予測できないものに、希望を抱いて良いのだろうか。


変わっていった先で、何が起こるかなんてわからないだろう。


だったら、僕は永遠に閉じこもっていたい。


終わりのない音楽に、終わりのない高校生活に、終わりのない美憂との恋愛に、終わりのない家族とのひと時に……


今日は眠れないだろう。でも、明日からは休みだ。父さんのCDを借りよう。


そう思って部屋を出ようとしたところ、僕の部屋の扉が勢いよく開く。


「ちょっと兄貴!うるさいんだけど!電話するなら、外でしてよね!」


怒った琴音が、部屋の入り口で激怒していた。


「大体、誰とあんなに長時間、電話してたの!?スマートフォン見せろ!」


僕からスマートフォンを奪うと着信履歴を見る。


まずい。非常に。


「ふーん……黒田美憂、ねぇ。」


琴音はニヤつきながらこっちを見ている。


そうして僕からスマートフォンを奪ったまま1階に駆け降りて行き、


「お母さ〜ん!兄貴に彼女ができたって!」


「おい待て!ふざけんな!」


こうして、考えを膨らませる事より重大な事件が発生し、僕は妹と母に彼女がいる事を知られ、根掘り葉掘り聞かれるのだった。


こうして、クリスマスの夜は更けていった。


9話へ続く。

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