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フェルマータ  作者: すてるす
7/9

6話『amabile』

『ありますよ。どうしたんですか?』


なんて白々しい文章を送信するが、裏腹に、気持ちの高揚が抑えられないでいた。


ひょっとしたら、ひょっとするのか?


なんて思いつつ、地下鉄の駅前をうろうろする。黒田さんからの返信を待ちながら。


そう思っていると、着信。


僕は慌ててスマートフォンの画面を操作する。


黒田さんからのメール。内容は


『ちょっと行きたいところがあってね。もちろん2人で。待ち合わせは、クリスマスコンサートの会場前で。もうみんな帰っちゃったから』


心臓が高鳴る。


いや、でも相手は黒田さんだぞ?


からかいの可能性もある。


でもわざわざ僕を呼び出して、そんな事するか?


気分の高揚と、心臓の高鳴りを抑えられぬまま、


『わかりました。すぐに向かいます』


とメールを送信し、僕は足早にコンサート会場まで歩き始めた。



黒田さんは本当に一人で待っていた。


僕を見つけると、小さく手を振る。


僕は黒田さんに駆け寄る。


「ごめんね。急に」


そう語る黒田さんに


「大丈夫です。どうしたんですか」


なんて、胸の高鳴りのせいで言葉が詰まりそうになりながら、返答する。


黒田さんは、


「この並木道、光のページェントがあまりに綺麗で、拓人くんと一緒に見たくなったの」


と言う。


ド直球するだろ。


衝撃的な発言にクラッとしてまう。


「……いいんですか、僕となんかで」


そう言うと、黒田さんは少し恥ずかしそうに


「拓人くんとだから、いいんでしょ」


僕は完全に思考が停止してしまっていた。


黒田さんは


「人混みだから、手、繋ごっか」


と言い、ダッフルコートのポケットから左手を出し、手袋を脱ぐ。


夢か?これは夢なのか?


僕は自分の顔を思いっきりつねる。


どうやら夢じゃないらしい。


それを見た黒田さんは少し笑いながら


「手、冷えちゃうから早くね」


と言う。


僕は慌てて右手を差し出す。


そうして僕らは手を繋いだ。


そして、光のページェントの人混みの中へ歩き始めた。



街路樹に沢山の電飾が散りばめられ、夜の暗さを感じさせないほどの明るさ。


街路樹の隙間から見える夜空。


そしてちらつく雪。


全てが綺麗に見える。


僕には恋人がいた事がなかった。


恋人とじゃなければ、この景色も、こんな風に見えないだろう。


人混みに混じりながら、二人でゆっくりと前に進む。


暫く無言だったが、黒田さんが口を開く。


「私ね、前から拓人くんが気になってたの。気になってたからこそ、なんか、からかいたくなっちゃって。子供みたいな理由だよね」


僕は今、夢でも見てるんだろうか。


「バスの帰りも、わざと時間合わせたりしてさ。って恥ずかしいな、なんか」


そう語る黒田さんの横顔を見ると、長い髪から少しだけ出ている耳まで赤くなっている。


僕も耳まで真っ赤なんだろう。


「って、なんでそんな無口になってるの?もう。私ばっかり、恥ずかしいじゃん」


黒田さんは僕の手をさらにぎゅっと握る。


「ご、ごめんなさい。色々と急すぎて、思考の整理が追いついてないというか、嬉しすぎて、なんか、言葉を紡ごうにも、出てこないと言うか……」


黒田さんはクスクス笑うと


「顔、真っ赤だね」


と言う。


僕も黒田さんに


「黒田さんも、ですよ」


と返す。


そしてお互いに笑う。


「ねぇ、告白していい?ちゃんとした告白、できてなかったから」


「申告してから告白するのも、斬新でいいですね」


並木道の中央、オブジェの前。黒田さんは僕に


「ずっと前から好きでした。付き合ってください」


と優しく言う。


恥ずかしさはあるが、ものすごく嬉しい。


僕も黒田さんに応える。


「付き合える事になって光栄です。黒田さん。僕も、大好きです。」


そうすると黒田さんは


「黒田さん呼びじゃなくて、名前で呼んでよ」


なんて言って、微笑む。


恥ずかしいが、要望に応えよう。距離をさらに縮めたい。


「美憂さん。これからよろしくお願いします。」


美憂さんは、さらに


「さんもいらないかな〜」


なんて言って、茶化す。


「ええと、美憂。これからもよろしくお願い、します。」


美憂は笑って、


「拓人は敬語消えないよね。ま、敬語は消える時まで待つとします」


本当に夢のようだ。


この恋は、終わらせたくない。


いつまでも、ずっと、美憂と過ごしたい。


楽しいことには終わりはあるかもしれない。


でも、お互いの棺桶まで続く事もあるだろう。


それは永遠と言ってもいいのではないのだろうか。


そうか、終わりが来ない楽しい事もあるんだ。


クリスマス・イブの夜。


繋いだこの手は永遠に。


7話へ続く。

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