表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェルマータ  作者: すてるす
5/9

4話『capriccioso』

ついにクリスマスコンサート当日となった。


クリスマスコンサートは僕らだけの学校が単独で行うものではなく、他の仙台の高校であったり、中学校であったり、その他には、どこかの教会の聖歌隊なんかも参加する。


僕らが披露する曲は2曲、『恋人たちのクリスマス』と『そりすべり』という曲だ。


どちらも有名なクリスマスソングである。


昼の13時までにコンサート会場に各自で移動する。


場所は仙台の中心部にあるコンサートホールだ。


僕らの出番はオンタイムで進めば15時に始まる。


楽器を運搬のトラックに乗せて、現在時刻は10時半だ。


少し余裕があるが、あまりのんびりしてもいられない。


僕は、どこか街中でご飯を食べることも考えて、早めに部室を後にすることにした。



バスで仙台駅まで出て、その後地下鉄へ。地下鉄で3駅行けば、コンサートホールの最寄りに着く。


僕はバスに揺られながら、今日演奏する曲をスマートフォンの音楽アプリで再生させながら、イメージをしていた。まずは『そりすべり』から。


『そりすべり』には一応、僕の見せ場が存在している。


最後の小節手前で、トランペットで馬の鳴き声、難しい言葉で言うと、いななきを表現するのだ。


最初はそんなのは無理だと思っていたが、ハーフバルブ奏法や、グリッサンドなどを研究していくうちにだんだん楽しくなって、今では結構ちゃんとした馬になってると思う。


『そりすべり』を聴き終え、次は『恋人たちのクリスマス』


この曲は、音楽アプリに吹奏楽用に編曲したものは入ってないので、原曲を聴いて雰囲気を掴む。


バスは街に近づく。クリスマスに着飾った、まるで別世界のような街へと。


電飾、赤や白、緑の鮮やかな装飾。


僕には恋人がいたことはないが、仮に恋人がいたとしたら、この街もまた見え方が変わってくるだろう。


『恋人たちのクリスマス』と邦題はついてはいるが、元の名前を直訳すると、『私がクリスマスに欲しいのはアナタだけ』となる。


歌詞の内容も、『プレゼントなんかいらないの。クリスマスに欲しいのはアナタだけなの』なんて歌詞になる。


そういえば、僕らの吹奏楽部員で恋人がいる人なんて、いるのだろうか。考えた事もなかったし、聞いた事もなかった。


情報通の山下なら知ってるかもしれないけど、僕はわざわざ踏み込んだところまでは聞いたりしない。


にしても、今日のコンサート本番が終わったら、デートする。なんて素敵な事じゃないか。


そんな事を思ってると、バスは仙台駅のバス停へと到着する。


バスを降りて、『そりすべり』と『恋人たちのクリスマス』をリピートしながら、地下鉄へと向かう。



仙台駅から、地下鉄で3駅進み、降りる。


地下から外に出ると、雪がちらついていた。


「ホワイトクリスマス、かぁ……」


しみじみと思う。コンサート本番さえうまくいけば、ロマンチックな1日になるだろう。


集合時間まで、まだ時間もあるし、この街の雰囲気を楽しむのも悪くない。


昼食を取りがてら、街を散策しよう。


そう思ったところで、スマートフォンのメールアプリに通知が入る。


グループの通知は切ってるので、個人からだ。


宛先は黒田さんから。内容は、『後ろを見てみて』と言うかものだった。


僕が後ろを振り返ると、少し離れたところに黒田さんが立っていた。


僕が気づいた事を知ると、黒田さんは僕に向けて手を振る。


僕はイヤホンを外し、黒田さんと合流する。


「お疲れ様です。早いですね」


僕は黒田さんに声をかける。


「同じバスに乗っていたんだけど、やっぱり気づいてなかったね、拓人くん。音楽集中モードだったみたいだから、話しかけなかったけど」


そして黒田さんは続ける。


「早いも何も、お互い様でしょ。本番前に少しリラックスしたくてさ。ご飯もまだだから、せっかくだし、一緒に食べようよ」


ありがたいお誘いだった。


「いいですね!何が食べたいですか?」


黒田さんは「うーん」と悩んだ後


「温かい飲み物と、軽いものがいいな!」


と答える。


「それじゃあカフェにしましょう。普通のチェーン店ですがいいですか?」


そう言う僕に黒田さんは


「お小遣い今少ないから、チェーン店の方が助かるよ〜近くにある?」


そうか、金欠なら、奢ってあげようかな。なんて思いつつ僕は、


「あります。寒いですし、雪がちらついてます。早速行きましょう」


と言い、黒田さんをカフェに案内するのだった。



黒田さんには何度も断られたが、「今日はクリスマスだし、特別な日だから」と言う理由で、黒田さんの分も一緒に会計した。


僕はコーヒーとホットドッグを、黒田さんはカフェオレとミルクレープを頼んだ。


席は黒田さんが確保してくれて、やっと座れたぐらいには混んでいた。ちらつく程度とは言え、雪は降っている。室内でゆっくりしたい人が多いのだろう。


クリスマスコンサート、お客さんが来てくれると嬉しいな。そんな事を思いながらコーヒーを飲む。


黒田さんは、このチェーン店に来たことが無いようで、


「このミルクレープ美味しい〜!チェーン店とは思えない!」


なんて言いながら少しずつ食べすすめている。


時計の針は丁度昼12時に差し掛かっていた。


「後1時間で会場入りってのが嘘だと思えるぐらいに、リラックスしちゃいましたね」


僕は黒田さんに言う。


「じゃ、二人で駆け落ちでもしちゃう?」


僕は黒田さんの一言に、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。


「な、何言ってるんですか!?」


慌てる僕。


「いや、別にー」


ニヤニヤしながらそう言う黒田さん。


また僕は彼女にからかわれてペースを乱されている。


「ま、そんなことしないで、本番頑張ろうね」


「そうですよ……」


そんな感じで、黒田さんに微妙にペースを乱されながら、雑談は続き、気づけば集合20分前ぐらいになっていた。


黒田さんに、


「僕、トイレ行ってきます。帰ってきたら出ましょう」


と伝えると


「帰って来なかったら?」


とニコニコしながら聞き返される。


「そん時は1人で行ってください……」


僕はツッコミを入れる気力もなくなっていた。


とりあえずトイレに向かう。


僕が席を立つ時


黒田さんは『恋人たちのクリスマス』ワンフレーズ、「I just want you for my own……」


と歌った。確かに聞こえた。


意味をわかって歌ってるのか?


それとも演奏するからただ口ずさんだだけ?


『じゃ、二人で駆け落ちでもしちゃう?』


さっきの言葉は?


クリスマスってこともあり、僕の頭も、浮かれ気分になっているのか?


いいや、からかいだろう。深く考えるな。


まさか、学校のアイドル的な存在の黒田さんが、僕に気があるはずなんてない。


いろんな思いが渦巻いてはいるが、トイレを済ませて、席に戻る。


「行きましょう。黒田さん」


「オッケー。楽しい本番にしようね」


黒田さんはそう言って、にこっと笑い、席を立つ。 


楽しい本番か。


そうか、また、楽しい本番が終わる。


最後のクリスマスコンサートだ。


そうして僕らは、会場に向かう。


5話へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ