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私の小説を書いてくれませんか?  作者: さんしすいめい
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第二章 シィー イーツ ア チョコレートパフェ

読みずら買ったらごめんなさい

 青春という言葉が僕という人間と正反対の位置にあるのと同様、放課後に女子と二人きりでファミレスという言葉も僕と正反対の位置にあると思っていたが、後者は僕と割と近い位置にあったらしい。その日から僕と水無瀬はこのファミレスに何度も通うことになる。


 水無瀬は掃除がある日だったため、僕は一足先に水無瀬の指定した駅前にあるファミリーレストランに足を運んだ。同じクラスなのだから掃除をしている間待っていて、一緒に向かえば良いとお互いに言い出さないあたりが僕と水無瀬は似ているなと思いながら僕は店までの道のりを歩いた。少しの距離歩くだけでも夕方の日差しは異様に熱く感じられ、制服が汗ばんだ。

 この店に限らず、年の近い学生が集まるような店には極力入らない僕は、ドアの前で入るのを少し躊躇った。僕の通う学校に近い場所にあるここは特に同じ学校の生徒が多いはずだ。

 掃除も無く、誰とも話すこと無くここに直行したため僕が、髪を茶色に染めた大学生くらいであろう愛想のない女性のウェイターに、

「何名様ですか?」

 と、聞かれた時点では店に同じ学校の生徒はいなかった。店内は程よくエアコンが効いており快適だった。ドリンクバーだけ注文してアイスコーヒーを飲みながら小説を読んで彼女を待った。

 

 二十分程度で水無瀬は僕の待つファミレスに到着した。入口を何度も確認していた僕は、入ってきて僕を見つけた彼女と目が合った。

 彼女は席に着くとすぐに期間限定の大きめのチョコパフェを頼んだ。

「あなたも何か食べませんか?」

 彼女は僕にメニュー表を渡してきた。

「大丈夫」

 僕はメニュー表をメニュースタンドに戻した。気まずい沈黙が流れた。

 彼女から何か話を切り出してくるだろうと思っていた僕は、彼女のほうをちらちらと見たが、彼女は一向に沈黙をに破ろうとせず窓の外の景色をボーっと眺めていた。

 結局その沈黙が破られたのは、彼女が頼んだ予想外に大きいパフェが彼女の前に運ばれてきてからだった。

「そんなでかいの一人で食べきれるのか?」

「大丈夫ですよ。私、普段は小食ですけど甘いものはいくらでも食べれるんです」

 彼女は上に乗っている生クリームの部分をスプーンですくって食べた。意外な彼女の食べっぷりに感心して少しの間見入ってしまっていた。

「そんなに食べたかったんならあなたも頼めばよかったじゃないですか」

 彼女はペロッとスプーンに付いたクリームを舐め取った。

「いや、あんまり甘いものは好きじゃないんだ」

「そうなんですか。こんなに美味しいのに」

 心底もったいないと言いたげな口調でそう言った彼女はパフェに夢中で僕の方は見ていなかった。

 ソフトクリームの部分を食べ終えて、チョコソースのかかったバニラアイスにスプーンで切り口を入れたところで彼女は顔を上げた。

「小説を書いてくれるんですよね?」

 彼女は僕の目をまっすぐ見た。

 僕は彼女の真剣な眼差しに一瞬動揺したが、悟られない様に平然を装って言った。

「うん、素人が遊びで書く程度でいいなら」

「書いてくれることには感謝しかないですが、遊びでは書かないでください」

「例えだよ。どうせ書くなら君に満足してもらえるように真面目に書くつもりだよ」

「それは楽しみです」

 刺さったポッキーを食べている彼女は心なしか嬉しそうに微笑んでいた。彼女はあまり感情を出さないため、僕は少し驚いた。こんな顔もできるんだなと。

「あまり期待はしないでくれ。小説をよく読むだけで、特段国語の成績がいいわけでもないし」

「小説をよく読むってことは語彙力や知識は人並み以上だと思いますよ」

「そうだといいんだけどな」

 僕は彼女が僕という人間を少しだけ肯定してくれたようでうれしかった。

 僕は氷が解けて薄くなった三分の一だけ残っていたアイスコーヒーを一気に流し込んで、

「そもそもなんで自分の小説を書いてほしいんだ?」

 普通なら一番最初に聞くような根本的な質問を彼女にした。

「ごめんなさい。それはまだ言えないですね」

 意味深な返答に困った顔をした僕に対して彼女は、

「でも、いずれ絶対に教えます」

 と、付け加えた。あまり答えくなさそうだったのでそれ以上の質問はやめておいた。


 二杯目のアイスコーヒーを入れて席に戻るころには彼女はパフェの半分以上を平らげていた。甘いもの好きは本当のようだった。

 店内を見渡すと同じ学校の生徒が何人もいた。彼女がそうであるように今日は部活動が休みの日であり、放課後に暇を持て余した生徒たちにとってここはうってつけの場所らしかった。生憎、部活動にも友人同士のグループにも属していない僕にとってはその気持ちが分からないが。

 男五人で騒いでいるいかにもサッカー部っぽい生徒たち、女子三人でスイーツを食べながら楽しそうにおしゃべりしている生徒たち、隅の席で男二人でカードゲームをしている生徒たち。彼らにとって僕たちは初々しい付き合い立ての恋人同士のように見えているのだろうかと考えると悪い気はしなかった。

 僕がそんなことを思いながら着々と量の減っているパフェを眺めていると、彼女はパフェを食べる手を止めずに言った。

「小説を書いてもらうにあたって、私からお願いしたいことが三つあります」

「なんだ?」

「一つ目は小説に書くことは基本的に事実に基づいた内容にフィクションを混ぜるとった感じがいいってことです」

「いきなり難易度があがるな。まず僕は君の事を何も知らないからフィクションでしか君の話は書けない」

「大丈夫ですよ、これから知っていけば良いんです」

 彼女は僕が何も言う隙を与えずにこう言った。

「二つ目は私の入れて欲しいシーンは絶対に入れるってことです」

「これは何とかなりそうだな」

「三つめは私の入れて欲しいシーンに限らず、小説の中で私の行う行動はできる範囲で実際に私が行ってみて、その時の私の心情とか気づいたこととかを私があなたに話すんで小説に組み込んで欲しいです。再現にはあなたも協力してもらいたいです。客観的な視点も大切にしたいので」

 彼女は冗談を言っている風ではなかった。

「なんでそんなに真実にこだわるんだ?」

「嘘をつくなら少しだけ真実を混ぜると良いって言うじゃないですか。そういうことです」

「全然納得できないけど」

「まあ、その理由ものちのち話すんで大丈夫ですよ」

 小説を書いてほしい理由も、真実を大切にする理由もなぜ今答えてくれないのかはとても気になったが、同じことを何度も聞くめんどくさいやつと彼女に思われたくなかったので、僕はそれ以上何も言わなかった。

「そういうことなので、あなたは私の事をもっと知る必要があるので互いに質問をし合いましょう」 

 彼女はパフェの底のコーンフレークの部分まで到達していた。

「なんで互いになんだ? 僕だけ君に質問するだけじゃダメなのか?」

「だって、私が一方的に質問に答えても正直に自分の事を話せる気がしないですもん。どこかあなたに良く見られようと見栄を張っちゃう気がします。お互いが質問し合ってその質問に答えていくことで信頼関係が生まれて、自分の心の内を正直に話せるようになる気がするんです」

「あまり相手の事を知りたいと思ったことがないし、自分のことを知ってもらいたいと思ったこともないから僕には難しいかも」

「私もそうですから大丈夫ですよ」


 僕と水無瀬は互いに質問をし合ってそれに答え合った。僕たちの質問の内容は、学校で行うアンケートに出てくるような単純なものから、大学院で哲学専攻の学生が行うディベートの議題のようなものまで幅広かった。

 僕が彼女の質問に対して彼女が求めていない平凡な内容を返して、

「ごめんね、つまらない人間で」

 と僕が言うと彼女は、

「私だってあなたに負けないくらいつまらない人間ですよ。このしなびたコーンフレークみたいに」

 上手いこと言えたと誇らしげな表情でそう言った。

「そんなに上手いこと言えてないぞ。あと、僕がつまらない人間なのは否定してくれないんだ」

「あなただって私がつまらない人間なのを否定してくれてません」

 

 質問を続けていくうちに僕たちは、お互いの性格や物事の捉え方が似ていることに気づいていった――お互いに口には出さなかったが。例えば、僕は小学校の頃に自分の将来の夢を先生に書かされるのが謎でしかなかった。今の時代、どんどん新しい職業が増えているのに小学生の時点で既存の職業の中から決めるのは洗脳されている気がしていたのだけど、子供の頃の将来の夢について僕が彼女に質問した時、水無瀬もまったく同じような考えを僕に語ってくれた。

 水無瀬がチョコパフェを食べ終わり、まだ物足りなかったのか何か頼もうとしてメニュー表に手を伸ばした所で僕は、外が真っ暗なことに気が付いた。店内にいた同じ学校の生徒は誰もいなくなっていた。自分でも外が暗くなっていることに気づかないほど夢中で話をしていたことに驚いた。今までこれほどまでに長時間、二人っきりで人と話をする機会がなかったせいで脳のリソースを会話以外に割くことができなくなっていたのかもしれない。

「だいぶ外も暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」

 僕がそういうと、彼女は窓の外をちらっと見た。

「ほんとだ、全然気が付きませんでした。人と長時間話をするのに慣れてなくて、会話以外に脳のリソースを割けていませんでした」

 僕が席を立とうとすると彼女は、

「待って下さい」

 と言って鞄の中から何かを取り出して僕の前に置いた。

「意味不明なお願いを聞いてくれてありがとうございます。私ができるお礼がこれくらいしか思いつかなくて」

 彼女が僕の前に置いたのは封筒だった。

「いや、流石にお金を貰っちゃうとプレッシャーがかかって書きずらいよ」

「別にそんなつもりは無いですよ」

 と彼女は否定した。中々彼女は折れなかったが、

「お金を貰うなら書かない」

 と僕が言うと渋々彼女は封筒を鞄にしまった。流石の僕だって自分の書く小説に値段が付くとは思えないし、高校のクラスメイトにお金を貰うのは気が引ける。

「これからよろしくお願いしますね浅霧あさぎりくん」

「ことらこそよろしく水無瀬さん」


 水無瀬と別れてからの帰り道で僕は、小学校高学年くらいからまともに女子と会話をしたことがなかったにしては、どもってしまったりすること無く普通に話すことができた自分を久しぶりに褒めた。

 僕は目を合わて人と話すことが苦手だった。相手の目を見て話すと自分がどこか見当違いなことを言っていてそれを馬鹿にされているように感じるからだ。ましてや、自分が嘘をついてもいないのに嘘をついていることを相手に悟られているような気がした。

 しかし、今日水無瀬と話している最中は全くそのような心配はしなくてよかった。彼女はチョコパフェに夢中だった。会話が上手くできたのはそのおかげが大きかったのかもしれない。もしかすると彼女も僕と同じで人と目を合わせながら話すのが苦手だったのかもしれないと僕は思った。

 そんなことを考えながら歩いているとふと、昔のことを思い出した。小学二年生の頃、僕と仲良くしてくれていた女の子がいた。その女の子とは席が隣になってからというもの授業の休憩中に話したり、たまにお互いの家を行き来するような仲になっていた。家では一緒に宿題をしたり、テレビゲームをしたりした。正確な時期は覚えていないがその女の子に学校で、

「絶対に家に帰ってから読んでね」

 と、恥ずかしそうに手紙を渡された。中学生になってから手紙を見つけて気づいたが、それはどう見てもラブレターのような内容だった。当時の僕はその女に子に何の恋愛感情も抱いておらず、手紙のことは気にしていなかった。クラスが変わってからその女の子とはほとんど話さなくなった。中学一年生の冬にその手紙を見つけてから、辛いことがあったらその手紙を眺めていた。それくらい僕には縋るものがなかったのだ。そのとき何かその手紙に返事をしていれば良かったとかいう後悔はなかったが、当時の自分と今の自分の数年の間で変わってしまった部分を、断片的に残っていた小学二年生の記憶を頼りに探してみたりした。もし、小学二年生の頃の自分のまま今の年齢まで成長していたらどうなっていたのだろうかという妄想もしたりした。

 今日の帰路はいつもより短く感じられた。





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