七月二十九日
訪ねてきた二人組の男。警察手帳を掲げる。開く。
「手帳の写真と同じ顔なのを確認してね
一応、そういう決まりになってるから」
中年の刑事と若い刑事。事件の聞き込みか。暑いのに、ご苦労様。
いきなり現れた国家権力の一端である大人の存在に身構えつつも、努めて、冷静な対応を取ろうとしていた。
けれど、中年刑事の口から発せられた言葉に、息が止まりそうになった。心臓が早鐘を打ち始めた。
ありえない。それは、ありえない。
中学校の校庭で発見された、あの変死体は、彼女のものであるらしい。
ここ数日、彼女の行方がわからないから何か知らないかと、二、三日前、彼女の母親から電話で聞かれた事があったけれど、いつものプチ家出だと思っていた。
ありえない。ありえない。
後日、DNA鑑定の結果で明らかになるらしいが、血液型と身体的な特徴で、彼女に間違いないらしい。
ありえない。ありえない。
事件直後のワイドショーでは、変死体の若い女性は妊娠してる、と報じられていた。
え?誰?誰?誰の子?誰が父親?え?何者?え?誰?俺は童貞なのに!
混乱する僕の思考を遮る様に、若い方の刑事が質問する、
「一応、形式的なもので、関係する人、みんなに聞いてるんだけど、七月二十七日の、夜の、九時とか十時とか、何してた?」
沈黙。
混乱。
突然、僕は被害者の関係者になった。そして、今、僕は被疑者の一人として、尋問を受けている。意味がわからない。
自分は犯人ではない。その証明だけはしておかなければならない。記憶を辿る。辿る。手繰り寄せる。ふいに、死体が発見された校庭が思い浮かんだ。ああ、そうだ、その場所を見ていたのは、東京から帰ってきた直後だ。
その前日の犯行時刻と思われる時間は、従兄弟が所属しているバンドのライヴを高円寺のライヴハウスで観た直後で、僕は従兄弟とバンドの他のメンバーと共に、ファミレスで食事をしていた。そして、その後、従兄弟の部屋に泊まり、翌日の昼に帰ってきた。
僕は七月二十七日から七月二十八日の自分の行動を刑事に話した。
僕にはアリバイがあった。