六月某日
雨。
陰鬱を含んだ無数の細い線が、この町に降り注いでいる。まるで、鳥カゴの鉄格子だ。
雨に閉じ込められ、この部屋に居た。二人、目を合わす事もなく。
彼女はノートパソコンのモニターに、僕は漫画本に、それぞれの視線を落としていた。湿度の高い重々しい空気と沈黙が、この部屋を満たしていた。
ふいに、その、重々しい空気を破る様に、彼女が口を開く、
「ねぇ、最近、ペットの犬とか、小学校で飼われてたウサギとか、殺されて、体の一部が切り取られてたっていう事件が、この付近で何件か起きてたじゃん
なんか、その犯人っぽいヤツのホームページを見つけたんだよね」
「何それ?」
漫画本を置き、視線を上げ、彼女の顔を見つめる。彼女は僕と視線を合わせぬまま、パソコンのモニターに目を落としたまま、話を続けた、
「一九九九年の七の月に世界が滅びる前に、世界の動物たちを収容するとか書いてあって、その動物のリストとか、いくつか画像とかも貼り付けてあるんだけど、その画像、全部、動物の切断された体の一部なんだよね…」
彼女の持っていたパソコンを奪い、そのホームページを探る。『箱舟』という名のホームページ。『部屋』と称された幾つかの項目がある。このホームページは『ラザロ』という人物が運営しているらしい。
「ほら、ここ、『動物の部屋』」
そう言うと、彼女はモニターの真ん中あたりを指さした。僕はその部分をクリックする。
動物のリストが表示された。そのリストの一番上にあった『ザッシュケン♂』をクリックしてみると、犬の頭蓋骨らしき画像が表示された。その画像を閉じ、リストの下の方にあった『ウサギ♀』をクリックすると、3分の1程が茶色く染まった、切断されたウサギの足の先端部分が表示された。
「リストの動物の横に、数字が表示されてて…、ほら、このウサギだと『990606』って
この数字って、その動物を『収容』した日付を表しているんだと思うんだけど、なんか、ここ最近、この近所で起こってる事件の日付と、一致してるっぽいんだよね」
自分達のすぐ近くに、動物を殺し、その体の一部を切り取り、持ち去る異常者が存在するという事に嫌悪感を覚えた。けれど、普段、動物と接触する事のない自分には関係ない事と思い、それらは記憶の片隅に追いやられた。