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強く生きる為に必要なものを集めている




「……あの」


「なに」



廊下を進み、正面玄関の手前まで来ると一気に人が増えた。

大きな研究所だと言うのは知っていたけれど、あの場所は人が少なくてそんな事ないと思っていたのに、近くまで来ると私の考えが違っていたのだと分かった。

溢れる程に人が居る。

もちろんそれ以外の存在も。

メガネである程度緩和されているものの、それでも物凄い情報量だ。

めまぐるしく動く人やその他の色やモノ。

私が視線を合わしてはいけないときょろきょろしていると「子供かよ」と相楽は私の手を取って歩き始めた。



「ゲートは2つある、ここが研究所から出るゲート。

もう一つは正面玄関にあるあれ」



指を刺す方面には、吹き抜けのホールが見える。

もう1階分下がった場所にあるそこは、ここ以上に人が密集しているのだ。


前後左右から人が歩いて来る圧迫感に軽い恐怖を覚えていると「怖いの?」と目を丸くして相楽は問い掛ける。



「怖い……と言うか、戸惑う?

私こんなにたくさんの人が居るところ、初めてかもしれなくて」


「マジかよ、今から行くショッピングモールはこれ以上だぞ、行けるのかよ」


「……ど、どうしよう」



思わず顔を上げると「面倒臭いな」と相楽は目に見えて不機嫌になった。

日向の言うところがここに来てさらに明るみに出たと言うべきか。

まあ引き返してもどうせいつもの通り代わり映えしない日常のひとつだと理解した途端、相楽が私の腕を掴んで「行くぞ」ともう一歩踏み出した。



「え?」


「そんな辛気臭い顔するなら出てみれば良いだろう、慣れてないなら慣れれば良い」


「でも……私」



外でノウンしたらどうすれば……と不安が心を支配しかけた時、思っている以上に強い声で「知るか」と吐き捨てられた。



「自分で加減を学ばないと何も出来ないだろう。

それから逃げてたらずっとだぞ、お前は何も学ぶ気が無いのか?」



言われてハッとした。

彼の言葉はストレートに届くので、遠慮が無い分逆に親切かもしれなかった。



「お前はモルモットでもペットでも無い、アヴリウスに居る以上社員だって言われただろう?」


「……うん」


「ならもっと自立しろ。

お姫様よろしく誰かがお前の世話を焼いてやれるわけじゃないんだからな」



ふんっと鼻を鳴らして、相楽は人混みへと歩き出す。

確かに、その通りだった。

みんながみんな優しくて思わず忘れてしまっていた。

今まで私は1人だったのに、ここ1週間程が珍しい事だったのだ。

そう考えると、当たり前の事なんだと理解出来た。

ゲートを潜り抜け、正面玄関を抜けて相良の手を離れると、空には虹が掛かっていた。



「……すごい」


「珍しいものが見れたな」


「初めて見た」


「虹をか?」



驚いた様な相楽に頷いて「今まではずっと別のフィルターが掛かっていたから」と私は眼鏡の位置を直す。

それに納得した様に頷くと「そうか」と言って歩き出したので、私もその後に続いた。

相楽は飾らない人だった。

気遣わないし、手も差し伸べない。

日向や緒方、高城がああなので、余計にさっぱりしているのだなと納得した。

ショッピングモールに着くや「どこ行くんだ」と言われて、来た覚えもないので何があるのかと聞くと、また眉を寄せて「俺はお守りなのか」と低く唸るので困ってしまった。



「取り敢えず服……買いたい」



待たされたお財布に入っているお金は私が貰うはずのお給料を使う事になるから気にしないでと言われた。

そうなるとあの部屋で着る服くらいは見たいなとそう言うと、いくつかのショップに連れて行ってくれた。

店まで行くと決まって外で腕を組んで待ってくれているので、店員さんと話しながら服を選んでいると「素敵な彼氏さんですね」と何度も言われて困ってしまう。

今日会ったばかりの人なんですなんて怪しまれる事この上無い回答をするわけにもいかず、私は曖昧に頷くのだった。


相楽はその間携帯を触りつつ、可愛らしいお姉さんなどからの誘いをそつなく断りながら待っててくれていたのだが……いきなりずんずんとこちらに歩いて来ると「こっちが良い」と持っていた服を指差して睨まれた。



「え」


「そっちだと太って見える、色を考えろ」


「……流石に失礼なんじゃない?

そもそも今の今まで口出しする様な素振りも無かったのに」


「あまりにも有り得ない色を選ぶからだ。

お前に黒は似合わない」



あまりに言い切ってしまうものだから、私は困った様に笑った店員さんに「すみません」と頭を下げて持っていたもう一つの方を買う事にした。



店を出ると、満足そうに「俺の言った通りだろう」と胸をそらす。



「服に頓着する方じゃ無いけれど、だからって直接的過ぎるよ」


「お前はあんな言葉で傷付くのか?」


「傷付くと言うか、しょんぼりはするかもしれない。

太って見えるのはどれだけ無頓着で生きて来た女の子であろうと、悲しいと思うよ」


「痩せる為の努力はしていないのにか?」


「だとしても、相楽くんみたいに身なりの綺麗な、整っている男の子に言われたら少ししか無い自信も無くす。

努力って、気付いて初めてするものだとも思うし」



私の言葉を不思議そうに聞いていた相楽は「そうか」と気にしているのか分からないような返事をして私が持っていた紙袋を奪い取った。



「ちょっと」


「次は俺が見立ててやる」


「は?」


「どうせこれの他にも買うつもりだろう?」


「いやそうだけど……なに、急に」


「別に、気分が乗っただけ」



ふと笑みを浮かべる相楽になんとも言えなくて、私はそのままその後に続いた。

よく分からない人だと思いながら、私は小さくため息を吐き出すのだった。

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