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誰が私を助けてくれる?




「まず、僕達の他にある隊員について教えておこう」



そう言って緒方も席に着いて、どこからか取り出したメモ帳にペンを走らせた。



「僕達は緒方班、主に戦闘を担当している1番分かりやすい班だと思う。

構成員は僕と、日向、あともう1人居るんだけど、今は療養中で待機している。

僕達の他には戦闘と撹乱を主に行う部隊がいくつかあって、この付近のノーア達の視線を集めている部隊と、敵側の情報を得てこちらへ持ち帰ってくる部隊がある。

昨日居たハルトくんやアオイ、藤崎などがノーア達の視線をある一定位置に集める部隊なんだ、それはこのアヴリウスの研究施設だけでなく、僕達の様な隊員が多く居ると言う事を気取らせない為の措置なんだけど……」


「……すみません、まだ名前と顔が一致しなくて」



言われる度昨日の面々を思い出そうとするけれど、遠凱都と安西の顔は思い出せてもその他の人物に対しては全然だった。

それに気を悪くした風もなく「そうだよね」と緒方は笑う。



「ほらほらハルコちゃん!

頭使ったら糖分摂取だよっ!」


「紅茶のおかわりも淹れようか、次は何にする?」


「あっ、私が用意しますよ、先輩!」



席を立つ日向に「元気だなあ」と高城は笑って私の方へと身を乗り出した。



「一気に色々と頭に入れようとしなくて良いんだよ、時間制限があるわけでも無いし、君は特殊なのだと理解している節もある。

急いで全て身に入れなくても大丈夫だから」


「……でも、私1人が何も分かって居ないより、きっと知ってる方が良いでしょう?」


「それでも、いきなりたくさんの事を覚えるってとてもしんどい事だろう?

僕達は君の味方で、いつだってどれだけだって力になるけれど、何より君の感じ方や捉え方に負荷がかからない様にしたいよ」



今掛けているメガネをくれた事なども含めて見守られているのだと理解出来る。

言われる事の意味が分かって黙り込むと「君がとても頭が良い事は分かるけれど、どうか負担に思わないで」と苦笑する。



「そうだよハルコちゃん、私は楽しいお話しもいっぱいしたいよ!」


「僕も、君が欲しいと思う知識だったりは補填してあげられるけれど……身体を壊してまで取り込むのはどうかと思うよ」


「いえ、そんなつもりは……」


「だめだよハルコちゃん、この施設に来たその日に熱を出したの忘れちゃった?」



深刻な顔をした日向に、そんな事あっただろうかと首を傾げた。



「2週間前のあの日、ハルコちゃんは道路でノウンしたノーアに当てられちゃったんだと思う。

私達間近で見てたわけじゃ無いから見て来た人の話しを聞いただけなんだけど……酷く悲しい顔をして、遊歩道から落ちたって。

近くに居た隊員がハルコちゃんを見付けたのは偶然だったけれど、その後ハルコちゃん、高熱でうなされてたんだよ」


「……そう、だったんだ」



うっすらと覚えているような、覚えていないような。

だけれど言われて少しだけ思い出した。



綺麗な女の子だった。

透けるような金色の髪を持つ、海色の瞳を持つ女の子だ。

金の縁取りがされたその瞳は宝石のようで、まるで完成されたビスクドールの様に美しい女の子。

まだ幼くあどけない表情な筈なのにとても凪いだ様にも見えて、私は思わず声を掛けてしまった。

まるでその場に居るはずなのに、居ないように感じたから。

寂しそうにその場に漂い、どうしても手を伸ばさないと消えてしまいそうだったから。


生まれて間もない子供かと思いきや、達観したその視線はうやむやで。

私自身がそこに居る気さえする。



だけれど手を伸ばした先には怒りの感情が渦巻いており、それに煽られて私は落ちた。



その後はあまりに巨大な力を前に目の奥がズキズキと痛み、高熱にうなされていた。

概ね日向の言う通りだと理解したが、どうして忘れていたのだろうかと不安にも思った。



「あの、その隊員の人って」


「ちょっと怪我をね、でもハルコちゃんのせいじゃない。

元々無鉄砲と言うか、プライドが高くて……よその隊員とやらかして来た帰りだったんだ」


「え」


「悪い子じゃ無いんだよ、よそ行きの顔は完璧で背も高くて顔も綺麗だから絆される人間が多いだけで……あれ、良い意味じゃないか。

でも頭も良いし、人付き合いがと言うか、世渡りは上手いんだけど、変なところで敵を作りやすくて」


「日向、それもフォローになってないよ」


「だって難しくないですか!?」



ぎゃんっと喚いた日向の言葉に「もしかして今療養中の?」と問い掛けると3人が揃って頷いたのだ。



「相楽コウタ、彼がこの緒方班の最後の1人だよ。

明日明後日には戻って来るって連絡が来てるから、帰って来たらハルコちゃんにも知らせるからね」


「でもただ居合わせただけなんだから、恩を感じる必要は無いよ?

彼少しもそう言う事に頓着しないし、何よりプライドがそうさせるのか、それはそんなものと勝手に決め付けている節さえあるから」


「……って言われたって、まだ一度も会った事の無い人に気を配れと言うのも無茶な話しなのだし、本当に気にしなくて良いからね」



なんとなく、その相楽と言う人は器用にこなせる筈なのに損をする性格らしかった。

その後は日向が研究施設の中を案内してくれながら、様々な場所を見て回る日になって、私としては歩き回れる範囲を知れた。



彼等はなぜか私に友好的で、味方だと言ってくれる。

それなら私も心を砕いて話しかけやすい雰囲気を作った方が良いだろうかと考えつつ、今まで思い出せなかったビスクドールの様な少女を忘れられなくなっていた事に気付いた。



「どうしてあの場に居たんだっけ……誰かに、呼ばれたのだったっけ」



あの場所は私の行動範囲外なはずなのに。

寝る前にそんな事を思い浮かべながら、私は目を閉じるのだった。

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