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誰が私を見てくれる?



「あー!!!ハルコちゃん!!!

おはようー!!!」



扉を開いた途端に、オレンジ色のおさげを揺らして突進して来た日向。

私はそれに驚きながらも腕の中に迎え入れた。



「来てくれて嬉しい!先生の案内じゃ心許無いから私が行こうかと思っていたところなの!」


「どう言う事かな!?僕研究室の中で迷子になった事は数える程しかないんだけど!?」


「2度3度とあった事が問題なんですぅー!

ねっねっ、ハルコちゃん、お腹もういっぱいになっちゃった?

緒方さんがパウンドケーキ焼いてくれたの!

あのね、バナナとー、くるみとー、紅茶の味があるのー!」


「……日向、日向。落ち着いて。

ハルコちゃんびっくりして固まってるから」



緒方が苦笑しながらそう言うと、日向は「え?」と呟いて目の前の私を見上げた。

私の胸の位置にあるオレンジ色の髪から栗色の瞳とかち合うと「ごめーん!」と日向は私に抱き付いた。



「ごめんねハルコちゃん!私興奮しちゃうとお喋りばっかりしちゃうのがクセなの!!」


「ううん、だ、大丈夫だよ」



情報過多と言うよりはその勢いに驚いただけなのだが、緒方は笑みを浮かべると「取り敢えず座らない?」と私の手を引いて座らせてしまう。



「先生は?」


「僕もご相伴に預かろうかなあ〜、緒方くんのパウンドケーキは絶品だから」


「そう言って体重が増えてまた筋トレ増やさないといけない未来が見えますけどねー」


「……今日は日向が辛辣だなあ」



しょぼーんと肩を落とす高城に、私は思わず吹き出した。



「……ふふっ」


「おっ」


「あ!」


「ふむ」



思わず笑ってしまってから、失礼だったかなとハッとしたが「本当、日向ってば」と高城も笑い出すと、二人も笑い始めた。



「ハルコちゃん、昨日オススメしてたフレーバーティーから選んじゃって大丈夫?

あのねぇ、白桃とかー、チェリーも美味しいんだよー」


「僕は珈琲で、先生も珈琲で大丈夫ですか?」


「うん、ありがとう」



テーブルに着きながら、改めて中庭を見渡す。



四方に扉があるものの、中心に桜の木があって、その周りをいろとりどりの花が植わっていて見ていると楽しい気分になる。

自然界の色はノーアとも関係が無いので、色合いの濃い花を視線で追っていると「なにか気になる花がある?」と高城が首を傾げた。



「あの……端にある赤い花」


「ストックか!ボリュームたっぷりでとても可愛いよね。

赤い色のものは確か僕の庭にも咲いていたし、あとで君の部屋にも持って行くよ」


「え?」



持って行くなんて簡単に言って良いのかと訝しがると「この中庭と先生の研究室の前にある庭園の花は全部、この人が植えてるんだよ」と高城の前にカップを滑らせた緒方が言った。



「う……やっぱりハルコちゃんも気持ち悪い?

男の癖にお花を育てるなんてなよなよしてるって思っちゃう?」


「いや、そんな事……私、植物を育てた事は無いけれど、すごいと思います」


「そうだよー、高城先生の研究室の中にあるお花とかもすっごくきらきらしてて私も好きだよ?」


「でもレナさん、いつも僕に当たりキツイんだよねー。

なよなよしてるって言われても、趣味の様なものなのに」



またしょんぼりと肩を落とす高城に、緒方が「そんな事無いですよ」ととりなした。



目の前に緒方のパウンドケーキが運ばれると、日向が上機嫌で「これがバナナで、くるみがこっち!これが紅茶味だよー!」と一切れずつ紙皿に取ってくれる。



「今日は待機で良かった〜、ハルコちゃんといっぱいお話ししたかったんだ!」


「待機?」


「うん、隊員達のお休みの日?

他にも隊員が居るってお話しはしたよね、私達は緒方班で、今日は待機日なの。

待機日の他には遠征に行ったり、パトロールだったり、調査の日とかもあるよ?」


「基本的には情報収集を行なっている班や諜報員の話しをまとめたりするのは別の班。

今度戻って来た時にきちんと紹介するよ」


「……アナタ達も、ノウンされたノーアをばらけさせる為に……ううん、被害を出さない為に戦ってくれているのよね」



私の答えに「えっとね!」と日向は私の隣に座り直す。



「昨日も言った様に、ノーアが敵だって思っているわけじゃないよ!

それに、多くのノーアは被害者と言うか……人によって見解は違うかもしれないけど!

ノウンされたノーアは現象として目に見える様になっただけで、ハルコちゃんだけがその被害を増やしているわけじゃないって言うか……」


「そう、日向が言う様に僕達は何も君を責めようとしているわけじゃないんだ。

ノウンは現象であり、僕達人間などの意識や感情が生み出すものだと言うのは分かっている。

不安定な人など世界中にいくらでも居るし、アヴリウスにはカウンセラーの資格を持つ者も多く居る。

君を連れて来たのは、僕達にとっては保護の意味合いを持つと共にノーアについてもっと深く知る為なんだよ」



二人の言葉に頷いて、私は前を見据えた。

ノーアを敵だと思っている人もいるのは事実だが、少なくともこの3人は親身になってくれていると感じる。

それに私は頼る術が無いし、知識も追い付いていない。

今まで知ろうとしなかったツケが回って来た様なものだ。



「ありがとうございます。

私、昨日聞いたお話しもそうだけど、もっとノーアの事を知りたいと思っているの。

アナタ達の話しを聞いて、生み出す私自身が分からないところが多過ぎて、どう動いたら良いのか分からない。

私に知識を下さい、ノーア達の言葉も、アナタ達の事も。

よろしくお願いします」



頭を下げると、日向は困った様に眉を下げ、緒方は静かに私を見つめて、高城はゆっくりと頷いたのだった。

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