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生きていく為の知恵を付けて




歌う様にユラユラと視界がぼやけていく。

その光景にこれは私の夢の中だと瞬時に理解した。


ぼんやりとした意識の中で瞳だけが意志を持つ。

私の夢はいつもそんな感じだった。


遠くに見える霞と、近くに来れば来るほど色付く色彩。

周りの色を取り込みながら右腕を軽く上げると、その手に色が巻かれるように集まった。



「歌え、歌え、空の奥深く、海の奥底まで届くように。

輝き集え、深く眠る意思。

その心のまま、壁を超えさらに遠くへ」



意識半ばの事ではあるが、凄まじいパワーがその一点に集まる。


濃く深い藍色の鳥は、翼をはためかすと空へと消えて行った。

いつの間にか空は雲ひとつない晴天になっていて、その明るい景色を見てまた一つの何かが出来上がってしまったのかと息を吐き出した。



私は夢の中でもノウンしてしまう。

意識がどの層に居るのか分からない時は決まって夢の中、私の意識が不安定になっている時だ。

恐らく昨日遠凱都に言われた言葉が残ってしまっていたのだろう。

人は記憶の整理を夢と呼ぶ事もあるので、これは仕方の無い事だとも言える。


とにかく目を覚そう。


意識して自身のまぶたを持ち上げると、カーテンの向こう、窓の外は明るくなっていた。

起き出してシャワーを浴びて、私は眼鏡を掛けた。

意識するしないでは雲泥の差なのは昨日分かっていたつもりだが、やはりと言うべきか色は薄く、目にうつる範囲で危険だと感じるものは無いように見える。

もちろん外に出ればまた違うだろうが、今自分の居る部屋に関して言うのなら先程まであったオレンジの斑点を持つ猫のようなものが消えている。

そしてベッドの前で漂っていたラベンダー色の何かも色が薄くなっていた。



私の見る世界で、色の濃さは意志の強さ、思いの強さなどを表している。

思いが、意思が、願いが大きければ大きい程に、色は濃くはっきりと現れる。

そしてこの目に見える世界での影響力も比例して大きくなる。



単純に建物を破壊したり人に害を成すノーア達は、恐怖や怨みなどが凝縮されたものだと言える。

彼等は周りの人間達の感情に集まり、増殖するのだから当然かもしれないが、それは想いに比例して巨大なものとなる。

誰か大切な人を亡くした、親が病気の為亡くなった、理由は人それぞれだが、悲しみよりも誰かに恨みを持つ気持ちの方が厄介だ。

怒り、苦しみ、悲しみの感情は、人がずっと持っておくのが難しい感情だ。

日々記憶が更新されて行く折に忘れたくなくても風化して行くもののはずだが、その感情が宙に溶け出し増殖し、ノーアがノーアのまま、形にならないまま霧状に形を保ちながら私と目が合うと……彼等はノウンされ、濃い色彩を持つ明らかな悪意が形作られる。

それらは思いのまま、感情のままに暴れるのだから厄介な事この上無いだろう。



「……私が生きている理由は、昨日知ったけれど……この子達を守るにはどうすれば良いんだろう」



ふわりと胸の内に浮上した一つの考えはまとまる事なく心の中での居場所を確保した。

私はそれを「進歩か」と呟くと、時間になるなと定位置に座り込んだ。

そして今日も白衣を着た高城に「おはようございます」と返すのだった。



「それじゃあ明日はメディカルチェックの日だからよろしくね、今日の予定は決まっているかな?」


「いいえ」


「実は日向に伝言を頼まれていてね、もし良かったら中庭でお喋りでもどうかって」



中庭と聞いて、高城の研究室の前にある場所かと問い掛けると「この研究所内にある、お庭の事だよ」と教えてもらったので頷いた。



「それは良かった、中庭の場所はまだ知らないだろうから一緒に行くよ」


「先生、忙しいんじゃ」


「やる事はあるけど急がないから大丈夫だよ。

それより君が外に出て何か新しい事をしてくれた方が嬉しいし、この場所で色々と知って欲しいと思っていたんだ」



にこやかな笑みを浮かべて先導する高城は、昨日の日向と同じように私を気遣う言葉をくれた。



私は何も知らなかった。

周りの人間達とは私は何か違うと感じていたから余計に避けていたのかもしれないが、ここに居る以上「知らなかった」では通せなくなる事も理解出来た。



せっかく、私なんかの為に心を砕いてくれる人が居るのだし、私も私としての生まれ落ちた意味を考えてみる良い機会なのかもしれない。



親身になってくれる人が居る。

それはとてもありがたい事なのだと理解をして、私はレンズ越しの普通の人の視界を学ぶべく部屋の外へと歩き出すのだった。

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