見えるのが当然のこの世界で
その後緒方と高城により、私がここに連れられた理由と、隊員の構成、自由に出入りして良い場所や研究所の見取り図などを貰いながら話を聞いていた。
聞くところによると隊員達は私の居るこの研究棟の隣にある隊員寮に住んでいるらしい。
この地区の他にもアヴリウスの研究所はたくさんあり、世界中の機関でノーアの監視は行われているらしい。
しかし暴走化するノーアはこの地区に限定されており、ノーアを暴走化させているであろうとされる組織もこの地区へ居るであろうとおおよその見当が付いている事から、私はこの研究所へと連れられたらしい。
「ノーアの鎮静って、殺してしまうんですか」
「ううん、ノーアの組織をばらけさせるだけだよ。
ノーアには心臓と呼ばれる連結部分があるの、そこを突いてハルコちゃんが形作ったものごとばらけさせるのさ!」
得意げに説明する日向が「あのね」と私の手を取った。
「ハルコちゃんがノーア達を、もしかしたら大切に思って居るのなら……辛いでしょ。
私達の勝手な妄想でハルコちゃんを巻き込んだなら言ってね」
「……気遣ってくれてありがとう、でも……大切なのかどうか私にはまだはっきり分からないんだ。
私はあの子達を生み出してしまう、そこに理由なんて無い。
ただ視線を、声を掛けるだけだから突発的に創り出してしまうだけ。
その行為は善なのか悪なのかすらも……私にはまだ分からない。
だからアナタ達と居て、もし理不尽な思いをしたあの子達が居るのなら救いたいと思ったの」
「ハルコちゃんは優しいね」
日向は私の手を取ると「ねえ、私もっとハルコちゃんとお話ししたい!」と笑顔で言って「だめかなあ?」と小首を傾げた。
こんな女の子らしい女の子を見たことがなかったので思わず「うん」と頷いてしまう。
「わーいやったー!ね、いーでしょ先生!先輩!」
「もちろんだとも」
「夕食までには帰るんだよ」
「先輩お母さんみたーい!」
「なっ」
狼狽た緒方を見て高城が吐き出し、私達も笑った。
「そうだ!夕食ね、寮の食堂で食べるんだけどハルコちゃんもどう!?」
「うーん」
魅力的なお誘いに心が傾きかけたけれど、先程の遠凱都達の態度もある。
私が居れば彼らの平穏が乱されるのは間違い無い。
恐らく私はまだまだ彼らの事を知らなさすぎるし、私が生み出した彼等の暴走をこの人達は止めてくれて居るのだ。
あの言い方には納得したものの恐らくそれは悪い意味で私と言う人間を嫌って居るのだろう。
「ありがとう日向、でも辞めておく。
遠凱都さん達の居場所に私が入ったらきっと良い気分にはならないだろうし、食事の時間くらい気を抜きたいだろうしさ」
「ええー……食堂のデミデミオムライス超美味しいのにー」
「それはまた今度お邪魔するよ」
「……」
その様子をチラリと緒方が高城を見ていたが、理由が分からなかったので知らないフリをする事にした。
部屋まで送ってくれた緒方と高城に礼を言って、私達は私の部屋に入るのだった。
その後、2人を見送った緒方と高城はしばらくその場に立ち尽くすと「彼女はどうして部屋に?」と高城に問い掛ける。
「……」
黙ったままの高城は、歩き出しながら「本当に、彼女には自由に外に出て良いと言っていたんだよ」とため息混じりに呟いた。
「だけど彼女、自分は生み出してしまうからって外に出て来なかった。
そして今日聞いた話しだと、彼女は自分をモルモットだと思っていたみたいだし」
「モルモット……実験動物と?
なるほど、それであの言い方になったのか」
先程の部屋で聞いていた彼女の主張。
自分達の聞いていた話と少し食い違う部分があった。
彼女が彼女自身を認めていない……もしくは理解していないからなのだと、高城の言葉に納得する。
「日向が居てくれて良かった。
きっと彼女も少しずつ軟化してくれるだろう」
「……ああ」
部屋の前を去りながら、2人は少し悲しそうに笑みを溢したのだった。