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私に見えているその場所が



その後私達はいつもの調子を何とか取り戻し、ショッピングモール内を歩き回っていた。

相楽くんも「今は何も聞くな」と言うので、私もいつも通りだ。

部屋の中でミヤや相楽くん達が来た時におもてなしが出来るようにティーポットやカップ、紅茶やお茶を揃えたり、常備菓子として、クッキーやマフィンを買ってみたり。

ゲームセンターの中ではクレーンゲームと言うものを初めてやってみた。

100円を入れてアームを動かすのが難しくて、可愛い猫のぬいぐるみを狙うもののスカスカとぬいぐるみの端をかすめるだけ。

ムッとしながら「向いてない」と呟くと、ケラケラ笑った相楽くんが「貸してみろ」と言ってあっさりぬいぐるみを落としてしまった。



「どこにアームが落ちてくるか、重心、位置をしっかり把握出来たらある程度の物は落ちてくる」


「なにそれ」


「まあ、俺も昔めちゃくちゃ必死に練習したからな。

ほら」



手渡された白い毛並みの猫のぬいぐるみを抱き締めながら、悔しい思いを沈ませて行く。

素直に嬉しい思いの方が強くなったので「ありがとう」とお礼を言うと「他は無いか?」とまたゲームセンターの中を歩き始めた。



「あ、両替してくるからそこで待ってて」


「分かった」



示されたのはレースゲームの隣にある自動販売機横だ。

私はぬいぐるみを抱き締めながらそこへ向かう。

すると、瞬時に聞こえて来た「すみません」の声に振り返った。


そこには、2人の女の子が相楽くんの傍に駆け寄る所だったようで「あの!」ともう1人が腕を取る。



「私達2人で来てて、お兄さん1人なら一緒に遊びませんか?」


「ほら、あそこのレースゲーム!

やりたくてもひとつ余っちゃうし……ね?」



自信たっぷりに笑みを浮かべる女の子達。

すごいなあと純粋に感心していたものの、何故かちくりと胸の奥が痛む。

それが何故なのか理由は分からないけれど相楽くんの外面の良さを久しぶりに見た気がして逆に笑えてしまった。



「すみません、彼女と来ているので遠慮しておきます」


「えー残念!お兄さんめちゃくちゃ格好良かったからフリーだったら私、彼女に立候補したかったのになー」


「それはどうも、でも僕は今彼女一筋なのでよそ見なんてしてられないんだ」



そう苦笑した相楽くんは、わざとなのか私の方に手を振って見せた。

巻き込まないでよと思いつつも控えめに手を振り返すと女の子達は目に見えて不機嫌そうに眉をしかめる。


戻って来た相楽くんは笑顔のまま「悪かったな」と私の頭に手を乗せる。



「悪いとなんて思っていないでしょう」


「思ってる思ってる」


「嘘だ」


「1人にして悪かったとは思ってる」


「そこじゃないんだけれど……」



ムッと頬に空気を溜め込んでも、相楽くんは笑うだけ。

仕方ないかと諦めて目の前にあるクレーンゲームの景品を狙うのだった。



ショッピングモールの中は凄く広くて、回っている間ずっと色々なものを見られるのでとても楽しい。

食べ物から雑貨、お洋服や家具もたくさんだ。



「ハルコ、明日予定は?」


「朝からお昼までは高城先生のところで検査かな、それ以降は何も無いよ」


「じゃあ明日は別のところ行かないか?

植物園って言って色んな花が咲いてるんだが」


「わあ、行きたい!」



私の返事に頷いて、相楽くんは「じゃあ予約しとく」と言って携帯を取り出した。



「それ、なんでも出来ちゃうの?」


「それ?ああ、携帯の事?」


「うん」


「あー……そっか、連絡取れないより取れる方が良いよな。

携帯ショップ寄ろう」



言われるがまま来た場所には、たくさんの携帯が並べられており。

相楽くんはどれが良いと聞いてくれるけれど何も分からないので首を振って「任せる」と呟いた。

それに気を良くしたのか、相楽くんは店員さんと話しながらいくつかの工程を繰り返し、書類と紙袋を持って戻って来た。



「これがお前の携帯、料金はアヴリウスが負担してくれるのと、もう俺の連絡先入れてるから。

さっき緒方さんに連絡したら忘れてたってさ」


「忘れてたって、何を?」


「お前に、携帯を支給するのを」


「支給されるものなんだ」



店を出てカフェでお茶をしながら、相楽くんに携帯の操作を学ぶ。

カメラ、電話にインターネットの使い方。

掛かってきた電話を取る事は出来るけれど、自分から掛ける場合は電話帳から探す必要がある事。


そろそろ限界を迎えようとしている私を見て相楽くんはまた笑う。



「明日の植物園で、カメラ使ってみろよ。

お前が見えてる視界とはまた別の世界を形に残せるぞ」


「写真と言うもの?」


「そ」


「高城先生の中庭で撮った写真は見た事があるよ。

とても綺麗だった」


「ノーア達は写真には写らないからな、俺の目に見えてる世界がハルコにも見える」


「……少し寂しいけれど、嬉しいな」



眼鏡を外すとすぐ側に現れるノーア達。

最近では、それは夜寝る前にだけの景色だ。

眼鏡をかける様になってからは、彼等との距離が開いてしまうかもと危惧した瞬間があったものの……それは杞憂に過ぎなかった。

ノーア達は私を見て居ると強く感じるからだ。

だから視界から見えなくなっていたとしても、居ないと言う感覚に陥らないのはそう言うこと。

写真やテレビに写らないのも、そう言う理由からなのだろう。



「楽しみだなあ」



私が眼鏡を掛けた先の世界は、普通の人達が見えている景色だから。

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