赤から青に、そしてオレンジに変わるなら
「え?ハルコちゃんがそんな事を?」
「はい」
防衛任務中、緒方さんにそう言うと驚いた様に振り返った。
目を見開いているのは相楽くんも同じで、その反応にやっぱり驚くよねと私はため息を吐き出す。
「ハルコちゃん、普通の人の感覚を知りたいと思っているみたいで……」
「なるほどね……そんなに急がなくても良いのに」
「もちろんそれは伝えてます!
ハルコちゃんの考え方や捉え方は貴重だし、でも本人が知りたいと思っているなら力になりたいんですけど……」
「そうだね、日向には板挟みになってもらっているから余計辛いよね」
「それは……ハルコちゃんの為なら、全然大丈夫なんですけど!」
「……緒方さん、まだ方針は決まってないんですよね?」
「ああ」
小さく頷いた緒方さん。
相楽くんの言う方針とは、ハルコちゃんの今後の方向性の事だろう。
アヴリウスからすればハルコちゃんは希少なサンプル品。
しかしだからこそ大切にしなくてはいけない。
そこはどこの派閥も合同一致らしく、ハルコちゃんは手厚く保護される事は約束されているのだ。
けれど、彼女のその捉え方や感じ方をそのまま残すか、こちらの考えや意見を取り入れるべきかでは意見が割れている。
遠垣内先輩達は自分達の意見に染めてしまえばいいと。
穏健派は彼女のまま、その貴重な捉え方を残したまま居て欲しいと。
どちらの意見も今後どうなるのか分からないからこその保身であるが、それもまた彼女を守る選択のひとつ。
「コウタはどうだった?
ハルコちゃんと居て何か気付く事はあったかな」
「……まあ、頭は悪くないです、回転も早い。
多分俺達の事を知ろうとしている理由を合わせても、知ったとしてもちゃんと自分なりに理解出来ると俺は思います」
「高評価だね」
「まあ」
「……実は遠垣内派からも、少しずつでも知る事が自身の身を守る事になるのでは?と言われていてね。
手綱を握るのは僕達だとしても選ぶのは彼女だ。
日向に問い掛けた様に、知りたいと感じた時に誰もが答えてあげられる様にした方が良いかもね」
私と相楽くんが頷いたのを見届けると「それじゃあ行こうか」と緒方さんは歩き出す。
マップに示されたのはオレンジ色だ。
難易度はC、通報者からは突然笑い出したとの事。
典型的な狂ったパターンかと溜め息を吐き出した。
以前聞いた相楽くんと居た時にハルコちゃんがノアちゃんを具現化した現象……それが可能ならば被害者は圧倒的に少なくなるだろう。
しかし今は、いつも通りに仕事をこなすまで。
「日向、コウタ、スコープは持っているね?」
「はい」
「持っています」
「それじゃあいつも通り、よろしくね」
緒方さんの声にもいつも通りの覇気は無い。
解決出来る可能性があるにしてもまだそれは不安定であり根拠は無いのだ。
「……行きます」
私も感情を極力殺しながら2人に続くのだった。
一方その頃アヴリウスでは、高城の中庭にノアが1人で居た。
ハルコの隣を離れる事が少ない彼のたったひとつ出来た趣味であり、確認でもある。
「来たぞ、高城」
「やあ、待っていたよノアくん」
笑顔で出迎えた高城の傍に座りながら「例の物は?」と妙に芝居がかった口調で急かす。
「もしかして日向の影響かな?
新しいドラマにハマっちゃった?」
「アニメって言ってたぞ!すごく楽しい!
ハルコも一緒にたくさん見た!」
「なるほど……はい、約束の物だよ」
それは赤く光るモヤだ。
小さな試験管に入ったそれを見ると「やっぱりだな」とノアは頷く。
「これは強い怒り、赤はそう言う色だ。
逆に前にも見た青い色は悲しみ、オレンジ色は……楽しんでる?状態だな」
「そっか……やはり僕達の憶測は間違っていなかったんだね」
「そうだな!僕も一応こいつらと同じだから……少しは役に立つか?」
「少しなんてものじゃないよ!本当に助かるよ、ノアくん!」
「そうか!」
ご褒美のオヤツを差し出す高城は「本当にね、僕達は検証に検証を重ねて確実だって言う事を証明しなくちゃいけないから」と呟く。
「今回ハルコちゃんに渡した眼鏡だって、どんどん精度を上げて行くつもりだよ。
彼女の瞳に映る景色の全てが解析、理解出来たらノーア達に影響を与えず、そして人の心に干渉するシステムも解析出来たら……きっと誰も悲しまない世界がやって来ると思うから」
「……高城はどうしてそんなに頑張れるんだ?」
「そうだね、1番はノーア達による被害者を減らしたい事。
2番目は……その被害者の子供達がノーア達を恨まない様にしたいな。
ノーア達はスポンジの様なモノ達だと僕達は知っているけれど、知識の無い人や分からない人はきっと被害者と同時にノーア達に意識が向いてしまう。
だからそれを防ぐのと、その子達を守る為に頑張るんだ」
「高城は優しいな、ここの連中はみんな優しい」
「それハルコちゃんも言っていたね、君とハルコちゃんの感情はリンクしていたりするのかな?」
「僕達はハルコの心の揺らぎを感知する事は出来る、ノーアだからな。
高城の言い方を真似すると、ハルコは僕達の色を映すガラス玉だ。
周囲にある人の感情や色や揺らぎをそのまま僕達に映すガラス玉。
僕達はその色をそのまま映し取って人の感情に擬態する」
「……影響のメカニズムは、やはりハルコちゃんの瞳に映る事か」
「そうだな、ハルコの目は特殊だから」
「……そっかあ」
深く深くため息を吐き出した高城は「やっぱり、1度しっかりとハルコちゃんにお願いしよう」と呟く。
「やっぱり高城は優しいな」
ノアは落ち込んだ高城の肩に乗ると「大丈夫だ、ハルコは嫌がらない」と言って頬を舐めた。
「僕達が高城達を優しいと思うのはハルコがそう思っているからだぞ。
そこは信頼しておいて欲しい」
「……うん、ありがとうノアくん」
高城は頷くと、自室に居るであろうハルコの元へ向かった。




