優しい気持ちを向けられても
「あっ!」
日向の叫び声と共にふらりと倒れ掛かったハルコを、すんでのところで相楽が抱きかかえた。
どうやら眠ってしまっているようで、2人はホッと胸を撫で下ろす。
「やっぱり色々溜め込んでたかー」
「……深山さん」
泣きそうな声でハルコの手を握る日向は「私達、もしかして」と深山を振り返った。
「ハルコちゃんを責めちゃってた?」
「……」
相楽は抱きかかえているハルコの顔色を見ながら黙り込む。
それを見てくすくす笑うと「大丈夫よ子供達」と深山が呟いた。
「この子に全責任が行くなんて私が許さないわ、それが例え遠垣内くんが言うとしてもね。
2人は私がそう言う人だって知っているでしょう?」
「でも……」
「ミヤちゃんもハルコちゃんとお話ししてたら分かるでしょう?
この子は誰かのせいにしたり、だからと言ってその責任を放棄したりしない。
全て自分が悪い、何とかしないとって追い込んでしまう子だ。
君達に責められているなんて思ってもいないよ」
「……俺は、言った事……あります」
「ほう?」
「せっついた時……だから、もしかしたらコイツは……」
「だったら守ってあげれば良いじゃないか?」
事も無げに笑った深山は「嘘はいけないけれど、突き通せばそれは真実になる」と人差し指を立てる。
「君が言った事は事実でもあるのだろう?
それならば、そうなるように君が導けば良い。
誠実な君の事だしその言葉もハルコちゃんを思って言ったのでは?」
得意の外面がこんな所でと内心歯噛みしつつ「そうですね」と苦笑する相楽。
ハルコは未だ眠り続けている様なので「部屋に送って来ます」と言って部屋を出る事にした。
「おっと……って、ハルコちゃん?」
「緒方さん」
「何かあったのかい、コウタ」
心配そうにハルコを見る緒方に「コイツ寝かせたら戻ります」と伝えて足早に部屋へと向かう事にした。
「……ノア、コイツ大丈夫だよな」
トコトコ足音も立てずに側まで来たノアは「うん」と焦った様子も無い。
「ハルコ……泣いてたけど、怖かったり痛かったりして泣いたわけじゃないぞ」
「……そうか」
「多分、認められたのが嬉しかったんだ。
ハルコは……今までずっと1人で頑張ってたから」
「……そうだな」
自分の発言を後悔した訳じゃない。
だけど、他の誰かに突き付けられた事に悔しさが勝った。
あのポジションに居られなかった事に。
決めたらとことんが自分のポリシーだ、今度こそ。
「俺が守れば良い話だ」
小さく誓い、ハルコを部屋に送り届けるとノアに見張りを頼んで部屋へと戻った。
「やあ!緒方くん」
「深山」
「そんなに怖い顔しないでよ、別にいじめた訳じゃ無いんだから」
苦笑する深山の後ろにいる日向を見ると、僅かに顎を引いた。
嘘ではないようだけれどと部屋を見渡すと、雰囲気に誤差がある様に思う。
「何があったの?」
「いや……伝えた事があったんだ。
だからチーズケーキ持参で来たんだけれど、彼女を泣かせてしまった」
「でも深山さんは……私達じゃ掛けられなかった言葉をハルコちゃんに言ってくれたんです」
「彼女かなり溜め込むタイプだったんでしょう?
ガス抜きにはやっぱり大人のお姉さんだねえ」
にこりと笑みを浮かべる深山に、そう言うことかと息を浅く吐き出した。
「君、中立派じゃなかったの?」
「可愛い子供達を前にすると、大人は誰しも可愛がりたくなるものさ。
それが破天荒な荒くれ者でも大人しい機械人間であっても。
私はそう思っているし、実際に会って話して決めた事だよ、緒方くん」
「それはとても心強いね。
ハルコちゃん、食事の途中だったのかな?
深山、チーズケーキを頂いても?
お腹が空くだろうからハルコちゃんの部屋に持って行ってあげても良いかな?」
「それなら私が!深山さん、本当にありがとうございます!」
頭を下げて紙皿を探しに行った日向を見送り「それで?」と声を掛けると、一瞬目を丸くして先程とはまた違った笑顔で返した。
「星澤さんから伝言、貸出ならいつでも歓迎って」
「あぁ、ハルトくん?」
「ハルコちゃんの事気にしてたって」
「なるほど……」
あの場でのお披露目が良い具合に生きて来ているのかと冷静に考えてみる。
ハルコちゃんにはやはり、人を集める魅力があるのだと理解して頷いた。
「ハルコちゃんにも伝えておくよ」
「よろしくお願いね」
日向が帰って来たのでそれぞれがいつも通りの表情に戻して走り去って行くのを見届けた。
錦見谷ハルコ。
彼女は今後どうなって行くのか、あちらの動向も気になるところではあるけれど……僕達はどうあっても後から着いて行く他無さそうだ。




