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あたかも世界が生まれ変わったかのように




それは余りにも唐突で、私は食べていたハヤシライスをすくったスプーンを落としかけた。



「こんばんは!錦見谷ハルコちゃんは居るかしら!」


「んぐっ」


「あらこんばんは、貴女がモルモットちゃん……じゃなくてノーアを見る事が出来る珍しい女の子ね?

あらあら可愛らしい」



バターン!と勢い良く開け放たれた扉から現れたのは肩までに切り揃えられた白い髪と深い緑色の瞳を持つ眼鏡を掛けた美女。

涼やかな見た目とは裏腹にグイグイ来るなと驚きで声を失っていると「深山さん!?」と日向と相楽の声がダブる。



「君達もここに居たのね!

良かったたくさん買って来て、これ十天堂(じゅってんどう)のチーズケーキよ!」


「深山女史……今日はどうして?」



日向にチーズケーキの入った箱を持たせると「ハルコちゃんとやらに直接会いたくて、来ちゃった」と茶目っ気たっぷりに片目を閉じた。



「さっき隊長会議でね、遠垣内くんと緒方くんが貴女の話しをしていて。

まだ私は会った事が無かったなと思ったの。

ハルコちゃんがアヴリウスに来た時私は防衛任務に出ていたしタイミングが無かったからね。

だから改めまして自己紹介、深山詩織(みやましおり)よ。

深山隊の隊長をしているの。

私の隊にはあと2人居て智久佐(ちくさ)輝宮(てるみや)と言う女の子よ。

これからどうぞよろしくね」



笑顔で私の手を取る美女に、私も「よろしくお願いします」と未だ理解出来ないながらも返した。



「……素材はとてもイイわね、肌も綺麗……その眼鏡もとても似合ってるわ!

日向の見立てでしょう?」


「あっはい」


「いま目はどう?違和感があったりする?

景色がダブって見えたり見えにくかったりはしないかしら?」


「はい、大丈夫です……この眼鏡を掛けている時はとても色が薄くなって見えて……今のところ眼鏡を掛けた状態でノウンはした事が無いです」


「そう、良かった」



ホッと力を抜いた様な笑みは優しくて、心配してくれているのだと受け取った。



「高城先生や緒方くんから聞いていた人物像の通りね。

貴女は優しい子だわ」


「いえ、そんな」


「ちなみに私は中立派の人間なのよね。

私は仕事をきっちりこなすけれど、その仕事が減るならそれはそれで良いと思っているの。

ハルコちゃん?貴女がノーアをノウンしないと言う選択が出来るようになったらどれだけの人が救われるかしら」



瞬時にピリついた空気に少し冷や汗をかきながらも、この言葉には私が答える必要があると理解していた。

このアヴリウスに居る戦闘員は全員、私がノウンし現象界から確立させてしまったノーア達が暴走した事により影響されてしまった人達を救う活動をしている。

それは核を壊す事。人として生きる事を止めてしまう事。

しかしノーアがその精神の脆さや弱さに影響されてしまったとしても完全に同化する事は出来ないものなのだと私は見た。

それを知ったのなら私が、その呪縛を解けばいい。

元よりノウンしない事が前提条件ではあるものの、未だに夢の中でも無意識に生み出してしまう。

高城先生曰く「ノウンする事全てが悪い訳じゃない」との事。

ノーア達は霧の様なモノ。

人の意思や想いに同調するだけだ。

それが枠組みや纏まりになるだけ、それがノウンだ。



「少なくとも……今すぐに今後ノウンしないようにする、と言うお約束は出来ません、ごめんなさい。

私は夢の中でも無意識に意味を与えてしまうようで……夢の中での事は全て覚えているんですけれど、その中で見える景色や色や音、全てが不安定で……高城先生のメディカルチェックを受けながら対処の方法を模索している最中です。

確かに私がノウンしないように出来ると言うのなら……誰も脅かされない世界が来るのなら、素晴らしいと思います。

だけどまだ……難しい、とも思います」



今答えられる精一杯だ。

深山の視線にそう返すと「そうよね」と案外あっさり引き下がった。



「レナも言っていたの、貴女は真面目で今出来る最善の策を既に打っているって。

護られるだけのお姫様じゃないようね」


「……私は私がノウンしたノーア達に悪い事をして欲しくないだけなんです。

私が意味を与えたら、それは私が示した事になる。

その責任はとても重いと……思っています」


「だけど悪を冒したくてノーアをノウンしている訳じゃ無いでしょう?

貴女が全ての責任を取る必要無いわよ」


「でも」


「悪い大人はそう言うことを誰かの責任にしたがるけれど、貴女は生み出しただけでしょう?

しかも意思も無い、無色透明な不安定な形も保てないナニカを生み出しただけで大罪を冒している様に言われたって……ねえ?そんなの知らないわよーって感じ」


「え?」



驚きで深山を見るのは私だけでは無かった。

相楽も日向も目を丸くしている。



「嫌よねえ大人達は頭固くって、でも安心してハルコちゃん。

あくまで私はだけれど貴女が悪いなんて思ってないわ、体質や能力を持って生まれただけの女の子に、大の大人が寄って集って悪い悪いなんて言って……正直頭に来てるのよねー」


「……それって、深山さんはハルコちゃんの味方って事?」


「そうね、少なからず敵じゃないわ。

今日会って素敵な子だと言う事も分かったし!」



ね?と私の頭に手を置いた。



「ごめんねえ、大人達ってば貴女に難しい事ばかり言ったんじゃないかしら?

貴女が悪いなんて有り得ないわよ……自分の意見をしっかり言えて偉いわ。

だからちゃんと、自分自身を許してあげて」


「っ、」



込み上げて来るものは暖かくて、でも認めたくなくて悔しくて。

自分にもこんな気持ちがあったんだと驚いた。



「そうよね、押さえ付けちゃうわよね。

自分が生み出したから責任を取らなきゃって……普通に責任感がある子ならなおさら、もっともっと自分を責めるわよね。

私達がなにをしてきたのか、ノーア達の今の止め方を知ったら悔しいわよね、ごめんなさい」


「深山さんが……悪い、なんて……」


「ええ、気付くのが遅れてごめんなさいね」


「そんな……っ!」



違う、違う、私が泣いちゃダメだ。

私なんかが泣いて良いわけがない。

ノウンしたノーアに影響されてしまった人達が今まで何人死んで行った?

自分がノウンしたノーア達が今までどれだけの人に迷惑を掛けた?

このアヴリウスに居る隊員達の何人を怪我させてしまった?

そんなノーア達を現象界からこの場所へ引きずり出したのは他でも無い、私なのに。



「ごめん、なさい」


「良いのよ、大丈夫。

ハルコちゃんはちっとも悪くないのよ」


「でも、私が……私がノウンしたから」


「それは体質、持って生まれたモノだから。

誰しもが選んで持てるものじゃ無いのよ?

だから絶対に貴女の責任なんて有り得ないわ」


「でも……」


「大丈夫、私も、ここに居るミヤちゃんもコウタくんも、高城先生や緒方くんだってハルコちゃんが悪いなんて思ってないわ。

これから解らせてやれば良いのよ。

頭の固い何かに責任転嫁しないと生きて行けないおバカさん達に、ハルコちゃんが突き付けてやれば良いわ。

決して簡単な事では無いけれどひとりじゃないから絶対大丈夫よ!」



にこりと笑顔で私の頭を撫でる深山さんの言葉に、堪えていた涙の膜が決壊した。


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