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私自身の価値を




「お帰りなさーーーいっ!!」


「日向!?」



エントランスを抜けると途端に飛び込んで来たオレンジ色を抱き留めると「大丈夫だった!?何もされてないよね!?」と私の服を入念にチェックする。

一体何事かと目を白黒させていると「女の嫉妬は醜いですよ、日向先輩」と相楽はわざと煽る様に私の肩に手を置いた。



「気安く触るな!」


「いやいや、これは指導なので」


「こんの歩くセクハラ量産機!」


「過剰な女同士のスキンシップもどうかと」


「むきーっ!!」



どんどん熱くなる2人にびっくりしながら「どうしたの」と問い掛けると、勢い良く2人が振り向いた。



「ハルコちゃん!明日空いてる?

もし空いてたら一緒にお茶でもどう?私の部屋に遊びに来ない?」


「ハルコ、明日は今日行けなかった映画館な。

もちろん朝も迎えに行く、メディカルチェックが終わったら出発だ」


「え、えっと……」


「ちょっと!相楽くんは今日もうハルコちゃんとお出掛けしてるじゃない!」


「お出掛けじゃなくてデートな、こいつには場数こなしてもらわないとだからハルコの為にも俺に譲れ」


「ただ着飾ったハルコちゃんを侍らせたいだけでしょ!?」


「……2人共、落ち着くんだ」



静かで冷ややかな声がその場を支配した。

ハッとして視線をそちらに向けると、エントランスホールに緒方の姿があった。



「ハルコちゃん、お帰りなさい。

今日は楽しめたかい?」


「えっと……はい、行った事が無い場所だったので私もノアも楽しかったです」


「コウタは良い子にしていたかな?」



ギクリと肩を躍らせた相楽だが、今日1日私自身も沢山の事を知れた。

もちろん楽しかったし、たまによく分からない事をする相楽だったが、概ね良い子ではあったかもしれない。

黙って顎を引くと「それは良かった」と緒方は安堵した表情で視線を2人に向けた。



「ここはエントランスだよ、通行の邪魔になる。

話すなら多目的室か中庭へ行きなさい」


「はいっ!!」



2人が声高に敬礼するのを見ながら、私も思わず「はい」と呟いた。



「緒方さんはどこかへ行くところだったんですか?」


「僕は少し研究棟の方へ行ってくるよ、2人共ハルコちゃんを困らせないように」



にこりと笑顔を浮かべて歩き出した緒方を見送って2人を見ると、目に見えて緊張が解かれた様だ。

相楽の「中庭行くか」との言葉に頷いた私達は共に歩き出し、最近では見慣れた部屋へと入る。



「はー、緊張して喉乾いちゃった……ハルコちゃん何飲むー?

ココア、紅茶に珈琲ジュース、なんでもあるよー」


「あ、私も自分でするよ」


「座ってろ、ココアでいいか」


「……ありがとう」


「先輩はオレンジジュースで良いだろ、座ってろよ」


「珍しいー、お願いしまーす!」



併設されたキッチンへ向かった相楽に礼を言うと、隣に座った日向が「どうしてココアって分かったの?」と問い掛けた。


「今日出先でココアと紅茶悩んでたから」


「それで分かっちゃったって事?」


「さっきは紅茶にしただろう、だから次はココアだと思って」


「こわっ」


「なんだと、コーラ足すぞ」


「わーやだウソウソ!心狭いんだから!!」



小さな掛け合いを見ていると、やっぱり仲が良いんだなと思わず笑ってしまった。



「お前も何笑ってんだよ」


「ごめん、仲が良いなと思って」


「ええー!仲良い訳じゃ無いんだけど……まあ、ハルコちゃんが楽しいならいいや」


「変な奴」



ゆっくりと前に置かれたカップを受け取り「ありがとう」とお礼を言うと「僕も!」と鞄からノアが顔を出す。



「お前はこれな、ちょっと温めるから待ってろ」


「うん!」



テーブルの上に行儀良く座ったノアを見つつ「ノアちゃんは可愛いねえ」と日向がその毛並みを優しく撫でた。



「ノアちゃん、今日はハルコちゃん相楽くんに何もされてない?

変な事されたら私に言ってね、ハルコちゃんは優しいから……そこに漬け込むなら私が相楽くんにお仕置してあげるから」


「んー、ほっぺにちゅーしたり変な事考えてたりしたけど……ハルコに必要な事なんだろう?

僕には分からないけど本当にハルコが嫌だって思ったら噛むぞ!」


「は?何してくれちゃってるの、緒方さんに言い付けてやる!!」



瞬間走り出そうとした日向の腕を掴んで「待てバカ!!」と叫んで止めると、2人は小さく言い合いをしているようだったが次第に落ち着きを取り戻した日向が私の方を向いてぎゅっと抱き着いて来た。



「日向?」


「ハルコちゃん、大好きだよぉおお」



何故か半泣きの日向にギョッとしつつ、私も背中に手を回して日向を抱き締めた。



「相楽くん何言ったの」


「間違った事は言ってない」


「うわぁぁん!!」


「日向?大丈夫、どうしたの?」


「ハルコちゃん大好きぃいいいい」


「バカになったな」


「相楽くん殺す」


「こっわ」



瞬間地を這うような低い声が聞こえて思わず視線を落とすと「ハルコちゃん」と小さな声で私を呼ぶ。



「私は何があってもハルコちゃんの味方だよ。

ノーア達を大切に思っているハルコちゃんの考え方を蔑ろにしたりなんてしない、絶対にさせないからね」


「……ありがとう、日向。

その言葉が充分嬉しいよ。

私は1人じゃないって今日相楽くんにも言われたから……反省してたところなんだ」


「えー、相楽くんがー?

単独行動、規律違反常習者の相楽くんがー?」


「そうなの?」


「ちっげーよ、ただ起きた事を対処しようとすると大抵が規律に違反してたり損害が大きくなったりするだけだ」


「それって……」


「良いから違うんだ、お前は黙ってココア飲んでろ」


「こんな規律違反ばっかの人は置いておいて、明日は私のお部屋で女子会しようね」


「は?明日は俺とデートの続きだって言ってるだろ、この間買った服に合うヘアアレンジ試すぞ」


「ハルコちゃんをモノ扱いしないでくれない!?」


「彼女扱いですー、これ以上無いくらいどろっどろに甘やかせてって言われたんで」


「それは言ってない」



日向は立ち上がり私の背後から腕を回し、相楽くんは私の手を取る。

この2人は一体なんなんだろうかと困っていると、ノアが「ハルコは僕達のだぞ!」と膝の上に座った。



「僕達もハルコと遊びたい!お前達ばっかりずるい!」


「えー、ノアちゃんはハルコちゃんと同じお部屋でしょー!」


「もっとハルコと遊ぶー!」


「ノアまで……」



2人と1匹が私を奪い合うと言う謎なシチュエーションに、思わず笑ってしまうときょとんと目を丸くする。



「私別に逃げるつもりは無いよ?」


「……でも、また訓練始まったりお休みじゃない時はハルコちゃんに会えないんだもん」


「会えないの?」


「お仕事が終わるのも時間が決まっているわけじゃ無いし、不定期って言うか……出動する場所によっては夜遅くに帰る時もあるし」


「待ってるよ」


「でも夜遅くだよ?夜中になっちゃう」


「私は今ここに居るのに。

別に時間は何時でも、あのお部屋から自由に出ても良いって言ってくれたじゃない?」



日向にそう言うと、葛藤しているのかグルグルと考え込んでいる。



「俺は会いに行くぞ」


「相楽くんは来なくて良いよ」


「なんでだ!?」


「普通夜中に女の子のお部屋に行こうとするとか有り得ない!!」


「それに相楽くんは確認しなくても元気だろうし」


「……それ褒めてる?」


「どうかな」



あっさり返しながら「明日は日向のお部屋にお邪魔しても良いかな」と問い掛ける。

目に見えて不機嫌になった相楽くんには「待っててくれるんでしょう?」と返す。



「ほらな、こいつこう言う奴だ」


「これは……タラシの素質が充分にあるね」


「タラシ?」


「ううん!こっちの話し!!

それじゃあ明日高城先生のメディカルチェックが終わる時間くらいにお迎えに行くね!」



嬉しそうな日向に頷きながら「僕は?」とノアが前足で私の膝を押す。



「ノアちゃんも大歓迎だよ!

お菓子準備して待ってるよ?」


「わーい!」



ぴょんっとテーブルに乗り移り喜びを表すノアを撫でながら、明日も楽しい1日が過ごせられれば良いなと思いを馳せた。

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