日常が非日常に近づくにつれ気付くのだ
「ハルコちゃん、すごく変わったよね」
「変わった?」
レナの声に力無く頷くと「ここに来た時は、無だった」と日向は肩を落とす。
「あんなに無気力だったハルコちゃんを見たら、やっぱり何かしてあげたくなるし、もっと楽しい事たくさんあるんだよって教えてあげたくなる。
けど、相楽くんはそう言うところ聡いし、頭良いから……いや、良いけどなんか違うと言うか。
やっぱり女の子と男の子って価値観違うし、分かってあげられる場所ってそれぞれあると思うの。
要約すれば、特殊な見え方が抑えられたなら、ハルコちゃんだって普通の女の子になれるんじゃないかなって事!」
ぶんぶんと両手を振って「言葉に出来ないー!」と暴れ出した日向に「ねえ」とレナが声を掛けた。
「それは、やっぱり本人に言ってあげた方が良いと思うわよ」
「でも……」
「今日ハルコちゃん達が帰って来てからでも遅くなんて無いよ、大丈夫!
それにハルコちゃんと1番初めに打ち解けたのは日向なんだから」
「……そう、思う?」
「もちろんよ。あの子にあげたメガネだってミヤちゃんの見立てじゃない?
そう言う意味では相楽くんより先にハルコちゃんに贈り物をしたと言えるんじゃないかしら」
よしよしと頭を撫でてやると、日向は表情を和らげた。
そして立ち上がると「ありがとう!」と2人に叫ぶ。
「そうだよね、そうだよね!
いくら相楽くんだって言っても、ハルコちゃんだもの。
そう簡単に参らないはず!
それなら私がハルコちゃんと仲良くなって、相楽くんの入る隙さえ無いくらい仲良くなってやるんだから!!」
「そのいきだよ、日向!」
「私も応援するわ」
「レナさんは相楽くんが1人の女の子贔屓にするのが面倒な事分かってるからデショ!」
頬を膨らませた日向は、研究室を飛び出すとふと表情を無くして呟いた。
「……絶対、ハルコちゃんをモルモットになんてさせないから」
誰に向かって呟かれた言葉なのか。
日向はいつものにこやかな笑みを浮かべて「よし、今日も頑張るぞー!」とその場で跳ねたのだった。
「……おい、ノア……頼むからゆっくり食え、怖い」
「なんでだ?美味しいぞ、これもこれもこれもー!」
「ノア!ダメだって、変に思われちゃう」
慌てて小声でそう指摘すると「ダメなのか……」とノアはぺろぺろと舐めていた皿から顔を上げた。
「分かった、大人しくする。
ごめんなさい」
「ううん、お外に出たら食べようね。
ここはたくさん人が居るから……」
ふと自分の言葉に疑問を感じて顔を上げると、目敏く相楽が「どうした」と真剣な表情で声を潜めた。
ここは水族館の中に併設されているカフェのテラス席。
周りには私達以外の人も多く、賑やかなのだ。
それなのに今日、私がここに来るまでに見たノーアは交差点で見た彼等のみ。
メガネをかけているからといってこんなに薄い視界でどうして今まで違和感に気付かなかったのか、自分の呑気さに呆れた程だ。
「ハルコ?」
「ねえ、私変じゃ無い?」
「いや?俺の見立て通り、ダークグリーンのシフォンワンピースとヘアアレンジが決まってて可愛いが?」
「何言ってんのよ、そうじゃないの!
……ノーアが全然居ない、おかしくない?」
そうじゃないと言われてムッと眉根にシワを作った相楽が一瞬考え込んで「ああ」と手を打ち鳴らした。
それに目を丸くしていると「ここ、結界内」と意味の分からない事を言い出したので首を傾げる。
「あー……お前スマホ持ってないんだっけ。
これ俺達のアヴリウスに属する隊員全員持ってるんだけど、アカウントとパスワードでログインすると、その近くの指数ってのが見えるんだ。
パトロールする時はその指数が高いところをメインに回ることが多い。
で、その指数が低い場所がこの地域でいくつかあるんだが、昔からの血族?が、呪術ってので結界を張っている。
それが「結界内」って言って、俺達の中で言う「完全安全区域」になってるんだ。
お前の目にもノーアがそんなに薄くなるのは知らなかった」
そう言って画面上に見せられたのは地図で、色が白や青、ピンクに赤など地図上にはたくさんのマーキングがされているのが見て取れた。
私が見えていないのも、相楽にとってはあまり驚く様なことでは無いのだと理解する。
「……そう言うところってよくあるの?」
「そうだな……商業施設とかアミューズメント施設、大きな企業のビルの近くとかはそうなっている事が多いと思う。
呪術を扱うその家系は代々地区や地域に根差す者達であり、アヴリウスひいてはその界隈とは一線を引くって言う協定を組んでいるらしい。
俺もその辺りはよく分からない、それ以上知りたいなら緒方さんか高城先生に聞いた方が良い」
聞けばすぐに返ってくる返事に頷きながら、私も食事を再開する。
思っている以上に知らない事が多いと自覚しながら、どこまで知って良いのだろうかと漠然と不安になった。
「……ハルコ?」
「どうした、もうお腹いっぱいか?」
「ううん、大丈夫」
すっかり冷めてしまったカルボナーラをつつきながら、私は目の前に見える海に視線を映すのだった。




