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空は青く、闇は深く



「確かに、距離感学ぶ為とか言ってたけどさあ……」


「ん?」



腰に回された手は正直変な感じでやめてほしいし、胡散臭い笑みを周りや水槽に向けるでもなく私に向けられているのも奇妙だ。

何より周りの視線を気にせずに私の肩を抱き寄せたり、手を繋いだり、とろける様な笑みを浮かべるのは背筋が凍る思いだった。

ただでさえ視線を集める相楽だし、それを向けられている私は初めて「女子の嫉妬の視線」と言うものを肌で感じた。

身の危険を感じて思わず相楽の服の裾を引く。



「やめて……水槽が目に入らない」


「それくらい俺に夢中と言う事?」


「すごいポジティブだけどそうじゃない……」



ノアはカバンの中で、大人しくしていてほしいと伝えているものの私の反応に逐一「うぐー!」と唸り声を上げているのだ。

私は正直、これが人としての普通だとしたら要らないと思う。



「無理、ちょっと相楽くん、こっち」


「人気の無いとこ行くとか……ハルコのえっち」


「やっぱりノアに噛んでもらう!?」



イライラしても仕方ないのは分かっているけれど、これは流石に馬鹿にされている気がしたのだ。



「良い加減にしてよ、嫌がらせ?」


「ポーズだよポーズ、普通のカップルのしてる事だぞ」


「なにそれ、そう言うのが普通なら私要らない」


「じゃあどうしたい?」


挑戦的な視線にムッとして、私は少しだけ考える。

どうしたいと言われてもそれが分からないから、今回の案を無理矢理飲まされたのでは無いかと言いたかった。

それなのにまるで馬鹿にするみたいなベタベタの対応が気に障った。


「普通の相楽くんが良い、胡散臭い笑顔も態度も要らない。

触られるのも……ちょっと、いや」


「いや?マジか」


「あ、すごくいやってわけじゃ無いよ?

でも……恥ずかしい、から」



別に気にしていなかったのに、言葉にすると恥ずかしさが増すのが分かった。

取り敢えず伝えなくては伝わらないのはよーく分かったのでそう言うと、ニヤニヤと笑顔で「そーかよ」と私の頭を乱暴に撫でた。



「言いたい事全部逐一言えよ、どんどん対応して行ってやる」


「……怒らないの?」


「お前の意見を聞かないと分からないだろ?

でも……俺に触られるの本当にいやとか、そう言う感じ?」


「別に触られるのはまだ……まあ、意識して無ければ普通に……」


「手を繋ぐのも?」


「手くらいなら」



差し出されるまま受け取ると、ぎゅっと握られて首を傾げる。



「不思議な感じ」


「なにが」



視線は前に向けながら、相楽は問い掛けるので「相楽くんの手」と私は骨張った手を立ち止まって眺めた。



「男の人はみんなこんな感じなの?

私の手と全然違う……硬いし、太いし……」


「ん。ストップだハルコ。

取り敢えず知らないだろうから教えてやる、それはすごく卑猥だ。

あとそれ俺の指を握りながらはやめろ、やめてくれ」


「なによ、さっきまでずっとこっちを振り回してばっかりだったくせに」



弱点を見付けられたのかと思って笑うと「違うって」と表では笑みを浮かべて私の手を取ると水槽から離れた壁側に私を閉じ込めた。



「さっき触られるのがどうのとか言ってたくせにずいぶん余裕だな、おい」


「あ、怒った?」


「焦ってんだよ」



その答えの意味が分からず首を傾げると、かばんからみゃーおと鳴き声が聞こえて来て思わず口を開いた。



「ノア?大丈夫?」


「おいノア、邪魔すんな」


「コイツ今悪い事考えたぞ!」



ノアががぶりと、私の手を掴んでいた相楽の手を噛んだ。

思わず声を上げそうになった相楽はすんでのところで口を塞いでノアの背中を掴む。



「よーしノア、俺が悪かった、確かに悪い事考えたけどこいつのためなんだ」


「なんでだ?」


「それは後でゆっくり教えてやる。

取り敢えずハルコは自分の言葉と行いを反省だ、俺はお前の知識面で全部教えてやれるとは言えないからな。

お前男に慣れてないくせになんで自分から触りに行ったんだよ」


「だって……相楽なら良いのかなと思ったんだけど違った?」


「うーん」



しばらく黙り込んだ相楽は、たっぷり間を置いて「なるほど」と声を絞り出した。

相楽の中では何か深く考え込む事だったのだろうか。

私は全く分かっていないけれど。



「まあ、誰にでも始めはあるよな……それならこう言うのも俺が引き受けて……いや、どこまでだ?それは成長を見ながらで良いか?

むしろ境界をミスったらどうなるんだ、俺」


「……相楽?難しいならやめるよ、ごめん」


「難しいのはどこまでの範囲かって事だから、ハルコは謝らなくて良い。

むしろ知りたいなら教えてやんないとな、先輩として」



相楽に先輩と付くとなぜか胡散臭くなってしまうのはなぜだろう。

取り敢えずは頷いておく事にした。



「確認だけど、俺がお前に触るのはまだセーフ?

嫌な時は嫌と言ってくれれば改める」


「うん、大丈夫。その時は言う」


「で、今のところは男に触るの俺だけにしといて。

高城先生は別として、緒方さんとかに不用意に触れるなよ」


「え、うん……」



相楽はなぜか怒った顔で言うので、私は首を傾げるしかなかった。

人との関わり方を学ぶつもりだけれど、やはり難しいのかもしれない。

そうしながらも突き放したり面倒臭がらない辺り、相楽は良い奴なのだろう。

ノアの頭を優しく撫でながら、相楽は「行くぞ」とまた私に手を差し出す。

それがまるで合図みたいに思いながら、少しずつ慣れて来ている様な気がするのだった。

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