追い掛ける為に出来る事は
「コウタ」
「はい」
ハルコが部屋に戻った後、すぐにお呼びがかかって緒方の前に進み出た。
その目は笑っておらず、背中に寒気が走って、俺は息を整える為に意識して深呼吸する。
「なぜあんな危険な真似をしたんだい?」
緒方の隣には、高城が悲痛な面持ちで座っている。
日向はいつもの騒がしさが鳴りを潜めており、無言無表情でこちらを眺めている様だ。
「ハルコちゃんはこちらに来てゆっくりと知識を得て行っている最中だった、僕はそうコウタに伝えたはずなのだけど?」
「……知っていました」
「そうだよね、理由は?どうしてそんな事をしたんだい」
緒方さんは中立の人だ。
今までなぜしたのかと言う理由を聞いている。
ただそう思ったからは通用しないし、そんな事を言わないと気付いているだろう。
だから俺ははっきりと告げた。
「あいつが見えていたからです。
考えていなかっただけであいつには見えていた、だから出来ると言う確信があった。
無理無茶を通した事は謝ります、だけどあいつも変わらないといけない。
守られるお姫様みたいな奴じゃないと分かったから、引っ張りました」
「……ハルコちゃんが、自分の事をそう言ったのかい?」
「はっきりと口にはしていませんでしたけど、あいつはこれまで多分ちゃんと人として生きた事が無いだけで自立した人間だった。
けれど、今心を許せる人間が出来て勉強をしている最中だと感じました。
甘やかしているとは言いませんけど、ある程度突き放して理解させる事も必要です。
あいつはそれでもついて来れます」
「……僕はコウタに彼女をせっつけと言ったかい?」
「現在の立場を汲んでやれと言いました」
「だよね、汲んだ結果がそれなのだね?」
「はい、あいつはやれます」
じっと緒方の視線に返すと、深い溜息と共に「それにしたって、乱暴だな」と肩を落とした。
「彼女は今までノーアに対して無関心でノウンしていた、その事を知った上で理解しようとしていたんだよ。
それは僕達にとって貴重な対峙の仕方だった。
彼女の心持ちはノーア寄りだったし、それは恐らく今もそうだろう。
彼等を護りたいと心の中でずっと持っている限り、彼女にノーアは取り憑かないと言う高城先生の見解だった。
それを早めた以上ハルコちゃんへのケアは入念に行わないといけなくなった……僕の言いたい事が分かるよね?」
「つまり、拾って来た拾い主が世話をしろと」
「言い方!ハルコちゃんはペットじゃ無いんだけど!」
ぎゃんぎゃん噛み付いた日向に「分かってるよ」と今度こそ吐き捨てる。
「別に嫌な奴じゃない、向上心も歯向かう気持ちもあるし、綺麗な顔してるしな」
「最後のはセクハラ?緒方先輩、本当に相楽くんにハルコちゃんのバディ任せるんですか?
どうして私じゃダメなんですか、私ハルコちゃんの事好きです」
日向はそう言って高城にも視線を向ける。
「先生、彼女にケアが必要なのは私も賛成です。
この無神経で最低で心配りがよそ行きの仮面の時にしか発動しない相楽くんよりも、同性で距離の近い私の方が負担が少ない!
それにこいつ絶対面白がってる!自分に歯向かう美人ってだけで、ハルコちゃんの事変えのきくおもちゃか何かだと思ってます!!」
「さすがにそこは弁える、けどあの目と声は何かを従えさせるだけの迫力があった。
飼われてみたいって変態的な言葉になるかもしれないけど、それだけの魅力があるとは思ってる」
「ほら聞きました!?今まで何百人もの女の子達を泣かせて来た相楽くんですよ!?
ハルコちゃんが泣く未来しか見えないです!!」
机を叩いた日向に苦笑した高城が「まあまあ」ととりなした。
あくまで聞きに徹してした高城は「それでも、バディは相楽くんに任せるよ」と言って日向の頭に手を乗せる。
「ハルコちゃんがすごく良い子なんだと言うのは僕達はちゃんと分かってる。
それに相楽くんの人を見る目に関しても信頼してるんだ。
さっき彼が言った様に、彼女が1人で立てる力がある事は僕も補足させてもらうところだけれど……進んでしまった事を元には戻せないし、今回の強行を支援も出来ない。
特に相楽くんのスピードにハルコちゃんを合わせるのにはあまり賛同出来ないよ。
それでも彼女に実りがあるのならそれを支えたいと思っている」
「……」
静かに怒っている空気を感じたけれど、そうすべきだと感じたからこそあの場で彼女をせっついたのだ。
その責任を取るつもりは大いにあった。
緒方や高城がバディと呼ぶのは、簡単に言うと彼女の監視と支援係だった。
元々彼女を保護した時にフォローは重要だと言う発言に、上から「保護した者が責任を持つべきだ」と言うお達しがあった事も大きい。
特に高城率いる穏健派が実権を握ると言う意味でも、こちらに彼女を置いておく事で分かることも増えてくるはず。
遠凱都率いる過激派も彼女を欲しがっては居るだろうが、ノーアの解明を目的としない、文字通りモルモットとして置く事だろう事は目に見えている。
それならばきちんとノーアの現象に付いて説明し、理解して、自分の在り方を自覚した方がアヴリウスとしても彼女としても利点になるのだ。
「遠凱都先輩達の思惑に対して思う所が無いわけでも無いですけど、それ以上にこちらの利益になる様に動くつもりです」
「……うん、分かってる」
緒方さんは頷くが、不安げな顔で俺を見ている。
それに首を傾げると「ハルコちゃんに好かれる自信はあるのかい?」と聞くので、そこはふんっと鼻を鳴らした。
「あのタイプなら大丈夫です」
そう自信満々に言った自分を、次の日には呪う事になるとは思わなかったのだ。




